覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

曹丕の理由

 こうして始まった曹丕の魔術修行。それは壮絶な修行だった。
 魔術、魔法は知の探究。


 『魔術師の目的は、全ての魔を理解する事―——

 精霊の魔力利用を極めるという事は、世界の神羅万象に通じるという事―——

 人体の内側、人の精神を魔力利用として使うという事は、人体と精神の神秘と通じるという事―——

 悪魔召喚術を使うという事は、今だに人間が到達できない外部、世界の外部を暴くという事―——

 これらを極め、魔術師は全知の存在へ昇格を目指すという事』


 例えば、過酷な環境の中で自然の形を考える。
 自然の木々や土。あるいは雲―——
 その複雑な形状を、大まかな形へ変化させイメージさせる。
 これは、位相幾何学トポロジーと言われ、宇宙の形すら人類に解を与えた概念。
 曖昧なまま、世界を知る。
 ―――故に全知。
 そして自然を操る秘術へと転換させる。
 ―――故に魔法。



 あれは、どの時だっただろうか?
 師クロウリーの言葉が思い出される。

 「なぜ、私が山を登るかって?そうだな……」

 彼は、暫しの沈黙を後にし、指を指した。天に向かって真っすぐと。

 「君は、この星空を前に、自分をどう思うか? この満点の星空を前に、自分を小さな存在、ちっぽけな人間だと思うか?」

 嗚呼、この時、自分は何て答えただろうか? もう、思い出せない。

 「……私は逆なんだ。自分と比べて、世界はなんて小さい物なのだろうと……
 本来ならば、巨大な星々が、まるで砂粒のようで、ちっぽけな存在に見えてならない。
 それを確かめるため、自身の存在を自身に刻み込むために、極限状態に挑み続ける。

 ―——これは、そういう趣味なんだ」


 ならば、目の前の人物はどうだろうか?
 関羽を言う人物は? 
 砂のように小さい存在か?星のように巨大な存在か?
 自分自身にとっての関雲長は、どういう存在か?
 ……なるほど。それが理由か。
 その疑問を解くために自分は関羽という巨星に挑むのだ。
 そうわかっている。星と言うのは巨大な物だ。砂粒などではない。
 しかし、自分と相対して、その価値がわかるのだ。
 故に―——


 「曹丕子桓、参る」

 叫ぶと同時に曹丕は駆け出した。
 関羽に向かって―——

 

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