覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

荒れ狂う猛牛と逃走する関羽たち

 突如として乱入してきたミノタウロス。 
 関羽よりも大きな巨体。人間離れした筋肉が隆起している。
 両手には武器として細長い岩を持っていた。
 おそらくは、石で磨いで作ったのだろう。剣のフォルムをしており、刃にあたる部分には切れ味を有しているように見える。
 荒々しい武器だ。
 元が岩だと考えると一本を4、5人の男が集まっても、持ちあがるかどうか……そのくらいの重さになっていてもおかしくはない。
 そんな武器を軽々しく持ちあげるミノタウロスの膂力から巻き起こす剣戟は、もはや人間技よりも自然災害に近い。
 まるで室内に台風が現れたようだ。文字通りに猛威を振るう。
 次から次へ……
 部屋に充満していたゾンビたちが打ち上げられ、ひらりひらりと紙ふぶきのように舞い落ちていく。
 そして、ミノタウロスの狙いは明らかだった。
 野獣の雄たけびを上げ、西行法師に向けて襲っている。
 西行法師も周囲のゾンビを操り、肉塊の盾を形成させる。
 何十体もの魔物が固まってできた防御壁。
 だが、一撃。そう……

 一撃だ。

 ミノタウロスの一撃で打ち破られ、あっさりと崩壊する。
 しかし、西行法師も諦めない。
 ミノタウロスを取り囲むように指令。時間差をつけて襲う事で足止めを行い、逃走する狙いのようだ。
 一方、曹丕達はと言うと―――
 既に部屋の出口付近にいた。
 出口に身を隠して、成り行きをのぞき込んでいる。

 「あれがミノタウロス……話に聞いていたのとでは、随分と印象が異なりますが?」と関羽。
 全く、持ってその通りである。依頼主の村長の話では、英雄として奉るが如く、人格者のように言われていたが……
 今のミノタウロスの様子に、その片鱗を見る事ができない。
 それに曹丕は、「う~む」と頭を捻りながら答える。
 「おそらく、あの西行法師が何かしたみたいですね」
 そう言うと西行法師を指した。

 そして、当の本人である西行法師は、走っていた。
 走って、曹丕たちに近づいてくる。 そして、後ろから西行法師を追ってくるミノタウロスもこちらに向かって来る。
 「ぐぇっ!」
 潰されたカエルの鳴き声のような声が漏れる。
 声の主は曹丕だ。
 関羽が素早く、曹丕の首根っこを掴むと同時に走り出したのだ。

 ―――脱兎の如く――― ―――脱兎の如く――― ―――脱兎の如く―――

 「なぜ、こちらに来た?」
 関羽は並走する西行法師を睨みながら言う。
 「はっはっはっ、おかしな事を言う。あのままなら牛頭鬼もどきの怪物に殺されておったわ」
 「だから、なぜ、こちらに来た?」
 関羽は苛立ちを顕わにするが、対して西行法師は笑いながら言う。
 「獲物が3人なら、助かる可能性が増えるのは道理ではないか?」
 「おのれ!」
 関羽の叫び声がダンジョンに響いた。

 

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