クラウンクレイド
「5話・訣別と決死」【クラウンクレイド閉鎖領域フリズキャルヴ】
‐決起予定日‐
当初、祷が志麻から提示されたのは城内に潜入しての戦闘であった。しかし、引火や二次災害の危険性を考慮して祷はそれを拒否。後日、別の作戦が提示され、祷はその計画に乗った。
そして迎えた当日。夜長たちの行動予定を探って計画された夜長に対する反乱好意は、予定通りに遂行された。あまりにもつつがなく、何の障害も無く。
そもそも内部による反乱の可能性を夜長は考慮していたかは不明だ。先日の反抗勢力を潰したことで慢心もあったのか、各所に警戒を向けるだけのリソースが不足していたのかは分からない。
少なくとも志麻達の反乱によって園内の各所が制圧された際に大きな騒乱は起きなかった。夜長の側近としての役割を務める神流が、夜長と共に行動を共にしていたことで各所に目が回っていなかったのも原因としてあるだろう。志麻達がスケジュールの隙をついたのもあるが。
人々が困惑しているうちに志麻達の勢力は発電施設や浄水施設といった生存に関する場所を抑えた。その事実をもって志麻は夜長に相対した。
園内を制圧し切ったと宣言し真っ向から夜長を呼び出した形だ。
夜長の城、と称されている城を模したアトラクション施設の正面口を包囲するようにして、城正面の広場に志麻達は終結していた。志麻の勢力の中心メンバーである五人だ。その手に金属パイプを改造したものを得物として持っていた。
その近くに祷はいた。
事前の情報で明瀬が城内に軟禁状態にあるのは分かっている。その奪還の為に、志麻達に一時的に協力した。
園内の生存者達の多くが広場の様子を遠巻きに見ていた。夜長は神流を伴い、園内の城から出てくる。
志麻達の様子を見て夜長は顔をしかめ、神流は今にも飛び掛かりそうな気配と憎悪の表情を見せる。一発触発の緊迫した空気の中、互いの射程範囲外の位置。約十メートル手前で夜長は足を止めた。
志麻が声高に叫ぶ。
「我々の要求は議会制度の設立だ。たった一人の人間がこのコミュニティの実験を握る状況を歓迎できない」
「交渉はしません。この国に対する反乱は許さない。他の人の幸せな生活を脅かすから」
「異なる意見の人間を殺しておきながら何が幸せだ」
既に夜長は反抗勢力、いや議会制度設立の議論を持ち掛けてきた人間を既に殺害している。その一点が決定的な亀裂になっていると祷は考える。
神流が口をはさんだ。
「夜長様のお力がなければ生きていくことなど出来ないにも関わらず、何たる言い草。愚か者め」
「その力があることで実質的な脅迫になっているということだ」
志麻が切り返す。
夜長の掲げる理想はシンプルで善性なものだ。皆を幸福にする、その為に共同生活をする、ゾンビから守る。何の悪意の欠片もない、持っている力を他人の為に善意から使う。だから全てを彼女の庇護下に置こうとした。
だがそれでも、どれだけ正しく素晴らしく見えたとしても意見の不一致はある。どちらが正しいというわけでもなく、何かの尺度で測れるものでもないもの。
祷にとってはこの場所で生活することよりも優先すべきことがあり、志麻達にとってはコミュニティの運営を一人の女子学生に実権の全てを握らすことへの懐疑心。
そしてそれは明瀬の人質や反対勢力の処刑によって亀裂は決定的なものになった。
夜長は表情を歪める。
「消さなきゃ」
「そうやって対立する相手を殺し続けるならやはり賛同できないな。いつかこの場所に誰もいなくなる」
全てを燃やし尽くしても。夜長は止まらないだろう。
喩え誰かを殺してもでも、志麻は止まらないだろう。
そして、祷には明瀬さえ無事であれば良かった。
ならばどちらの正義に対しても、何かを言える立場ではない。
夜長が手を動かす。魔法を発動する兆しだと判断して神流が指示を出した。
祷は手を振りかざす。焔が何もなかった宙に翻り出現し、矢の如く勢いよく放たれる。
しかし、それは夜長の不可視の壁に防がれた。展開された彼女の魔法はドーム状になって取り囲み祷の炎を簡単に防ぐ。如何様な魔法であるか既に理解している祷の目には、太陽光の屈折によって僅かに不可視の壁の輪郭を認識できた。
存在していると分かっていれば認識しようがある。
そして対策も可能だ。
祷が放った焔が防がれたのを確認し志麻達は足元に設置していたアルミ製の容器を勢いよく蹴飛ばす。約十メートル先の夜長を目掛けた正確な蹴り。
四方三十cm程度の容器には頭に口が空いており、蹴飛ばされ宙を舞うとその中身が四散する。容器が地面に落ちて滑っていくと勢いよく液体が流れ出して園内の舗装された地面に濡れた跡を残す。
彼等がばら撒いたその跡を目掛けて祷は焔を放った。焔はその跡を辿るようにして地面を火の海へと変える。
引火だ。彼等はガソリンを撒いたのだ。
炎は一気に引火し地面を蛇のようにのたうちまわる。夜長の周囲を火の手が阻んだ。
そしてそれこそが彼女の不可視の壁の弱点であった。
ドーム状のバリアは夜長の頭上付近から発生し彼女の足元の辺りまでを護る。だがそのバリアには隙間がある。地面と接することのない僅かな隙間。通常であれば狙うことは難しい。
だが地面に引火した炎はその弱点を突き、バリアの内側をも炎に巻く。そしてバリアによって半密閉状態の夜長はそこから逃れるのは容易ではない。
下手すれば命を奪いかねない行為、だが祷はその策に乗った。
「私に出来るのはここまでだ」
引火した焔が燃え広がり広場の中心を火の海に変えて。
それを背にして祷はその場を離れる。怒声と悲鳴が混じり傍観者達が混乱と恐怖に巻き込まれる中で、祷の目に映っているのは立ちそびえる城だけであった。
目指すは明瀬が軟禁されていると思われる夜長の城の内部だった。
夜長と志麻の決着がどのような形を迎えようが、祷にとって重要なのは明瀬だけであった。
そういった意味では何も彼らに言える立場ではないのだと祷は自負していた。
夜長の部下が追ってくることはなく、城の入口の簡易な護りの人員を焔をちらつかせて圧倒し正面突破を選択する。
夜長が出払っていることで守りの気勢は衰えており、彼等は畏れ慄くのみで、祷は鬨の声をあげて圧倒する。行く手を阻むものを全て薙ぎ倒すように。
「死ぬ覚悟もないなら、そこをどけ!」
当初、祷が志麻から提示されたのは城内に潜入しての戦闘であった。しかし、引火や二次災害の危険性を考慮して祷はそれを拒否。後日、別の作戦が提示され、祷はその計画に乗った。
そして迎えた当日。夜長たちの行動予定を探って計画された夜長に対する反乱好意は、予定通りに遂行された。あまりにもつつがなく、何の障害も無く。
そもそも内部による反乱の可能性を夜長は考慮していたかは不明だ。先日の反抗勢力を潰したことで慢心もあったのか、各所に警戒を向けるだけのリソースが不足していたのかは分からない。
少なくとも志麻達の反乱によって園内の各所が制圧された際に大きな騒乱は起きなかった。夜長の側近としての役割を務める神流が、夜長と共に行動を共にしていたことで各所に目が回っていなかったのも原因としてあるだろう。志麻達がスケジュールの隙をついたのもあるが。
人々が困惑しているうちに志麻達の勢力は発電施設や浄水施設といった生存に関する場所を抑えた。その事実をもって志麻は夜長に相対した。
園内を制圧し切ったと宣言し真っ向から夜長を呼び出した形だ。
夜長の城、と称されている城を模したアトラクション施設の正面口を包囲するようにして、城正面の広場に志麻達は終結していた。志麻の勢力の中心メンバーである五人だ。その手に金属パイプを改造したものを得物として持っていた。
その近くに祷はいた。
事前の情報で明瀬が城内に軟禁状態にあるのは分かっている。その奪還の為に、志麻達に一時的に協力した。
園内の生存者達の多くが広場の様子を遠巻きに見ていた。夜長は神流を伴い、園内の城から出てくる。
志麻達の様子を見て夜長は顔をしかめ、神流は今にも飛び掛かりそうな気配と憎悪の表情を見せる。一発触発の緊迫した空気の中、互いの射程範囲外の位置。約十メートル手前で夜長は足を止めた。
志麻が声高に叫ぶ。
「我々の要求は議会制度の設立だ。たった一人の人間がこのコミュニティの実験を握る状況を歓迎できない」
「交渉はしません。この国に対する反乱は許さない。他の人の幸せな生活を脅かすから」
「異なる意見の人間を殺しておきながら何が幸せだ」
既に夜長は反抗勢力、いや議会制度設立の議論を持ち掛けてきた人間を既に殺害している。その一点が決定的な亀裂になっていると祷は考える。
神流が口をはさんだ。
「夜長様のお力がなければ生きていくことなど出来ないにも関わらず、何たる言い草。愚か者め」
「その力があることで実質的な脅迫になっているということだ」
志麻が切り返す。
夜長の掲げる理想はシンプルで善性なものだ。皆を幸福にする、その為に共同生活をする、ゾンビから守る。何の悪意の欠片もない、持っている力を他人の為に善意から使う。だから全てを彼女の庇護下に置こうとした。
だがそれでも、どれだけ正しく素晴らしく見えたとしても意見の不一致はある。どちらが正しいというわけでもなく、何かの尺度で測れるものでもないもの。
祷にとってはこの場所で生活することよりも優先すべきことがあり、志麻達にとってはコミュニティの運営を一人の女子学生に実権の全てを握らすことへの懐疑心。
そしてそれは明瀬の人質や反対勢力の処刑によって亀裂は決定的なものになった。
夜長は表情を歪める。
「消さなきゃ」
「そうやって対立する相手を殺し続けるならやはり賛同できないな。いつかこの場所に誰もいなくなる」
全てを燃やし尽くしても。夜長は止まらないだろう。
喩え誰かを殺してもでも、志麻は止まらないだろう。
そして、祷には明瀬さえ無事であれば良かった。
ならばどちらの正義に対しても、何かを言える立場ではない。
夜長が手を動かす。魔法を発動する兆しだと判断して神流が指示を出した。
祷は手を振りかざす。焔が何もなかった宙に翻り出現し、矢の如く勢いよく放たれる。
しかし、それは夜長の不可視の壁に防がれた。展開された彼女の魔法はドーム状になって取り囲み祷の炎を簡単に防ぐ。如何様な魔法であるか既に理解している祷の目には、太陽光の屈折によって僅かに不可視の壁の輪郭を認識できた。
存在していると分かっていれば認識しようがある。
そして対策も可能だ。
祷が放った焔が防がれたのを確認し志麻達は足元に設置していたアルミ製の容器を勢いよく蹴飛ばす。約十メートル先の夜長を目掛けた正確な蹴り。
四方三十cm程度の容器には頭に口が空いており、蹴飛ばされ宙を舞うとその中身が四散する。容器が地面に落ちて滑っていくと勢いよく液体が流れ出して園内の舗装された地面に濡れた跡を残す。
彼等がばら撒いたその跡を目掛けて祷は焔を放った。焔はその跡を辿るようにして地面を火の海へと変える。
引火だ。彼等はガソリンを撒いたのだ。
炎は一気に引火し地面を蛇のようにのたうちまわる。夜長の周囲を火の手が阻んだ。
そしてそれこそが彼女の不可視の壁の弱点であった。
ドーム状のバリアは夜長の頭上付近から発生し彼女の足元の辺りまでを護る。だがそのバリアには隙間がある。地面と接することのない僅かな隙間。通常であれば狙うことは難しい。
だが地面に引火した炎はその弱点を突き、バリアの内側をも炎に巻く。そしてバリアによって半密閉状態の夜長はそこから逃れるのは容易ではない。
下手すれば命を奪いかねない行為、だが祷はその策に乗った。
「私に出来るのはここまでだ」
引火した焔が燃え広がり広場の中心を火の海に変えて。
それを背にして祷はその場を離れる。怒声と悲鳴が混じり傍観者達が混乱と恐怖に巻き込まれる中で、祷の目に映っているのは立ちそびえる城だけであった。
目指すは明瀬が軟禁されていると思われる夜長の城の内部だった。
夜長と志麻の決着がどのような形を迎えようが、祷にとって重要なのは明瀬だけであった。
そういった意味では何も彼らに言える立場ではないのだと祷は自負していた。
夜長の部下が追ってくることはなく、城の入口の簡易な護りの人員を焔をちらつかせて圧倒し正面突破を選択する。
夜長が出払っていることで守りの気勢は衰えており、彼等は畏れ慄くのみで、祷は鬨の声をあげて圧倒する。行く手を阻むものを全て薙ぎ倒すように。
「死ぬ覚悟もないなら、そこをどけ!」
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