クラウンクレイド

さたけまさたけ/茶竹抹茶竹

[零16-2・空戦]

0Σ16-2

 勢いよく飛び出して壁を越えた先に。視界一杯に広がる海があった。湾岸を背の高い壁に囲われた此処で、海は突然穴があるかのように存在していて。空中で身を捩り、青く広がる東京湾が返す反射光に背を向けて私は再度ワイヤーを撃ち出す。
 フレズベルクが空中で羽ばたいて浮き上がると同時に翼を畳んで鋭く急降下をかけてくる。左手にした杖のワイヤーが勢いよく巻き上げて私の身体を持ち上げて。上空から舞い降りてきたフレズベルクと交差する寸前に空中を蹴り右手のワイヤーガンを側面の壁に向けて引き金を引く。空中で突如真横に軌道を変えた動きについてこれずにフレズベルクの爪が空を裂いた。

「エヴェレット!」

 薙ぎ払うように振るった杖が炎を纏い。フレズベルクのその胴体へ向けて、衝撃波と共に焔の塊が撃ち出される。貫き燃やすその一撃と共に眼下へと散り落ちていくフレズベルクの姿を見送ると、レベッカから通信が入る。

『下から!』
「潜られたっ! いや……、囲まれた!」

 いつの間にか周囲をフレズベルクの群れが包囲しつつあった。海面を飛んでいた別のフレズベルクが羽ばたきと共に急上昇をして。レベッカへと向かって飛ぶフレズベルクへ向けて私は焔を撃ち出す。常時よりも小さく、それが故に連発が可能なそれを纏めて撃ち出して。炎弾が尾を引いて連なって飛翔していく。一発が辺りフレズベルクの翼へと炎が燃え移り軌道がブレた所を狙いレベッカが不安定な姿勢ながらもショットガンの一撃をねじ込む。
 私の放った焔が接近してきたフレズベルクを一機焼き払い、それを見てフレズベルクが距離を取り始めた。決して離れないが距離を縮めてこようとはしない。
 私が視線を向けた先に、東京湾上に存在する埋立地と其処を結ぶ海橋が見えた。

「このまま一気に突入しよう。フレズベルクが追ってきてくれるなら引き付けて墜とせる、足止めを食らってる場合じゃない」

 私はレベッカを連れてAMADEUSによる移動を駆使して東京湾中央防波堤埋立地と旧品川区を結ぶ海橋へと辿り着く。真っ白な背の高い主塔から太い金属ワイヤーが幾つも伸びて橋を支えている。距離にして約2km、海上を渡る為の巨大な橋は人影一つなく静まり返っていた。
 そこへと着地する。確かに上手くワイヤーを使っての移動は出来そうにない。つまり。

「急ぎましょう」

 この状況でゾンビに襲われたなら、正面突破しかない。先を行くレベッカが私に言う。

「正面からは何もありません」
「追いかけられてるみたいだけどねっ!」

 私の言葉にレベッカが振り返り私は背中越しにそれらを指差した。何処から嗅ぎ付けられていたのかゾンビの群れが遠方より此方へと走ってくるのが見える。海橋の上にはゾンビが存在しなかった以上、陸地から沸いてでたらしい。
 何の障害物もない中で、彼等が一目散に向かってくる姿が良く見える。

「まだだ……引きつけないと」

 走っていく方角にはお台場が見えた。海上に浮かぶ埋立地は傍から見れば非常に地味な物である。商業施設が立ち並ぶお台場エリアと違い、東京湾中央防波堤埋立地は原発建造を目的とした用地としての再開発が行われた。
 結局それは立ち消えになりそこに存在するのは巨大かつ大量のサーバーを堅牢に守るコンクリートの要塞である。

 こんな場所で。かのリーベラは待つと言う。感情なんて物が芽生えたと信じ難い言葉を語り、そしてそれ故にこの世界を地獄に変えてしまった。私はそれをどう語るべきか、どう糾弾すべきかも分からない。
 いつかと同じだ。気が付けば此処まで来てしまった。神様に見捨てられても世界に見捨てられても、と我武者羅に進み続けてきた道の先には皮肉にもその二つが待ち受けていて。
 決まっているのは、決めているのは、たった一つの事だけ。

「私は……」

 ホルスターにハンドガンを突っ込み、杖を両手で支える。足を踏ん張り半身を捩り杖の頭を思い切り引いて。
 焔が杖の先で渦を巻く。熱気が煽り焦がしていき音が鳴く。火の粉が光の粒子の様に風に流されて。眼前を埋め尽くす程のゾンビの群れと上空から爪を立てようと舞い降りてきたフレズベルクへと向けて。私は杖を薙ぎ払う。

「先に行く」

 一閃。熱線が全てを薙ぎ払い燃やし尽くす光景に踵を返す。全てが炎に呑まれて消えていく、そこから吹く風が私の背を押す。
 私は彼の地へと踏み込んだ。

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