クラウンクレイド

さたけまさたけ/茶竹抹茶竹

[零9-1・作為]

登場人物
【祷 茜 ―いのり あかね― (17)】
 ・主人公。2019年のパンデミックから逃れていた筈であったが、目を覚ませばそこは2080年の世界だった。周囲からは記憶障害を持った患者だと思われている。明瀬を捜す為もあってハウンドへの協力を申し出る。数多くの悲劇を潜り抜けてきた為、レベッカの反応とのギャップに惑う。

【レベッカ(16)】
 ・ハウンドのメンバーの一人。アメリカ人と日本人のハーフ。礼儀正しい少女であるが感情を抑えきれずに発言、行動する事が多い。生存者救出の為に突入を進言する、大を生かす為に小を切り捨てる事に嫌悪感を持つ、といった善人的な思考を持つ。パンデミックの記憶と憎悪を忘れてしまう事に危機感を覚えている。

【ウンジョウ(50)】
 ・ダイサン区画のハウンドのリーダーを務める男性。感情を表に出さず、冷静で判断力に優れる。射撃能力の高さが窺える。レベッカと特別な関係性を匂わせる。字は『雲城』

【ラセガワラ(80)】
 ・ダイサン区画のトップを務める老人。字は『頼瀬瓦』

【カイセ (30)】
 ・ハウンドのメンバー。死亡した。字は『甲斐世』

【ムラカサ(24】
 ・ゾンビを研究して回るフィールドワーカー。祷達に同行する。字は『村笠』

【クニシナ(40)】
 ・ダイイチ区画のトップを務める女性。字は『国志那』

【ギイン(当時33)】
 ・レベッカの父親。5年前のパンデミックの際に死亡した。字は『祇院』

【明瀬 紅愛―あきせ くれあ― (17)】
 ・???

【加賀野】
 ・『ヒト機能拡張プロジェクト』に参加していた大学教授。



【零和 九章・暗躍するは影か生者か】


0Σ9-1

 いつかの三奈瀬優子の言葉を思い出す。私達が目にしたそれは、まるで神の悪戯が如き奇跡であると。明瀬ちゃんの言葉を思い出す。生物には善悪の概念など無いのだと。
 私達が直面してきた厄災とでも呼ぶべき悲劇は、私達の力の及ばない所で起きていて。私達はその悲劇への怒りを何処へぶつけられるわけでもなく、それを天災とでも呼ぶしかなかった。
 世界から見捨てられても、神様に見捨てられても。それでも構わないと私は思っていた。けれども、私達が相対している敵は本当は世界でも神様でもないのかもしれなかった。
 私達は失意だけでなく様々な感情を混ぜ込めて、ダイイチ区画へ戻った。レベッカは保護した少女に付き添って医務室へ向かい、私とウンジョウさんはクニシナさんの所へ向かった。報告を受けてクニシナさんはその表情を曇らせる。
 ダイサン区画の崩壊という事実がもたらす衝撃は非常に大きく、重たい空気が張り詰めていた。

 ダイサン区画全ての防護扉が動作不良を起こしていた、そんな原因にクニシナさんは苦い顔をする。あり得ない、そんな言葉を短く吐いた。
 そう、あり得ない筈だった。
 ウンジョウさんが少し私の方に視線を向けて言う。

「フレスベルグに機械パーツがあった」
「どういうことですか」

 ウンジョウさんが提示したのは私が鹵獲したフレズベルクの内部構造の画像データだった。都心のビルの空を飛び交い、今まで人類を襲ってきていた怪鳥は実は機械構造を有した人工物だった。その衝撃的な事実は、ウンジョウさんさえもその表情を苦い物にする。

「フレズベルクは生物ではない」
「つまり」
「これは人為的な攻撃だ。ダイサン区画……いや」

 その先の、言わなかった言葉を私は内心で補足する。これは人類に対する攻撃と言ってもいい。
 始まりは何処であったかは分からない。
 だが私達は目の当たりにした。フレズベルクがハウンドを襲撃しダイサン区画にゾンビを投下した事。これだけは紛れもなく、人為的な関与を疑わざるをえない。そして関連付けて考えるのなら、この世界において観測されていないスプリンクラータイプのゾンビを選択してフレズベルクはそれを運んできた事。
 フレズベルクという人工物に関与したその「誰か」は明確にダイサン区画内でのパンデミックを画策した。
 扉が開いて遅れてやってきたムラカサさんが、私達の会話に加わる。

「フレズベルクの個体数は把握できていないけど、少なくとも単騎じゃない。二桁数はいるわ」

 問題は数だ。大型の猛禽類に見立てた飛行する機械、しかも今までそれが機械であると発覚しなかったほどに精巧な造り。
 ゾンビを抱えてダイサン区画へ投擲する、武装したハウンドと相対する。それだけの行動を可能とする高度な操作系統。
 量産するとなると、それなりの規模の組織やら何やらでなければ不可能に思える。
 そして問題はもう一つ。

 ダイサン区画の防護扉やシャッターが制御不能になったのは偶然であるとは考えづらい。内部からか外部からかは兎も角、『攻撃者』は電子攻撃も行っていた可能性が高い。区画内の機能をダウンさせゾンビを投擲する。そんな大それた攻撃を、その何者かは実行してみせた。

「……この攻撃の目的は不明ですが少なくともダイサン区画だけを狙う理由がない」
「ダイイチ区画やダイニ区画でも同様の事が起きると」

 敵の狙いが分からない以上、ダイイチ区画も同列に観るべきだろう。
 クニシナさんが頭を抱える。

「対策が難しいのが問題ですね。フレズベルクによる襲撃を防ぐには常時警戒する他ありませんが、人員が足りません」
「フレズベルクの内部パーツを調べる方法があるんですか?」

 私の問いにムラカサさんが答える。

「ダイニ区画のゼイリのオジサンの所に持ってくのが一番じゃないかって思うのだけれど」
「あのオヤジか……」

 ウンジョウさんが苦々しく呟く。その名前は聞いたことがあった。ムラカサさんの持っていた捕獲用にネットを撃ち出すバスーカの製作者だったはずだ。

「ダイニ区画に移送するって事ですか」
「この件は最重要機密にすべきと考えます。移送には最低限の人員かつ、この一件を既に知っているメンバーを選ぶべきだ」

 ウンジョウさんの提案にムラカサさんは頷いた。ダイサン区画の機能をダウンさせるのに内通者がいた可能性は大いにある。それは私とウンジョウさんでも既に話した事ではあった。故に、この件を把握しているのは私とウンジョウさん、ムラカサさんとレベッカだけだ。

「ダイニ区画へのフレズベルク移送は明日決行します」

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