最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔物の国再興記~

kiki

その70 魔王さま、終わらない日常を謳歌する

 




 首都カストラの陥落、皇帝ディクトゥーラの消息不明の情報が帝国中に広がると、今まで壁に閉じ込められてきた住民たちは一斉に蜂起しはじめた。
 練度の低い地方の兵士では住民たちの暴動を抑えきれず、また司令塔たる軍本部が消滅していたこと、マオフロンティアやエイレネを始めとした周辺諸国が住民側に付いたことによって、サルヴァ帝国の独裁政治は完全に終わりを告げた。

 無秩序な無政府状態を続けるわけにはいかないため、一時的に他国による臨時政府が置かれることになったが、その話になると周辺諸国は消極的になった。
 広いだけで、特に産業もない帝国内の荒れた大地を欲しがる国は無かったのだ。
 そこに名乗りを上げたのがマオフロンティア。
 土のアーティファクトの力を使えば広い大地は有効活用出来る、そう考えての行動だった。
 要するに、サルヴァ帝国はマオフロンティアの植民地になったってことだ。

 食料状況の改善やインフラの整備によって生活レベルはみるみるうちに改善され、多くの国民は僕たちを好意的に受け入れてくれたけど、中にはそうでもない人間も存在した。
 皇帝に心酔していた住民たちだ。
 いちいち一人一人にブレインリライターを使うわけにもいかず、彼らを変えるためにはひたすらに僕たちが誠意を見せていくしか無い。
 魔物と元帝国民の間に小競り合いが起きることもあったけど、時間かけながら少しずつ相互理解を深め、溝を埋めていった。

 そんなこんなで、元帝国領でのあれこれがある程度・・・・落ち着いたのは、僕が帝国を解放してから、1年と数ヶ月が過ぎた頃だった。





 今日はマオフロンティアにとって3度目の建国記念日。
 そして同時に、初の国祭の開催日でもあった。
 魔王城から見下ろす景色はいつも以上にきらびやかに装飾されていて、見ているだけで眩しいほどだ。

「みんな楽しそうだね」

 後ろから近づいてきたサルヴァが言った。
 そう言う本人も、祭りで遊ぶのが楽しみなのか明らかに上機嫌。
 まあ、僕も楽しみで仕方ないってのは一緒なんだけど。

「楽しんでもらわないと困るよ、頑張って準備したんだから」
「うん、頑張ってた。1年以上かかったんだよね」

 国あげての祭りというのは、それでも時間が足りないぐらい大変で。
 最後の方はスケジュールがカツカツで大変だった。

「構想はもっと前からあったんだけどね、なかなか忙しくて実現できなくってさ。それがみんなの協力のおかげで形にようやく形にできた」

 マオフロンティアの国民だけでなく、エイレネやマル、元帝国領の人たち、その他大勢のお客さんが祭りを楽しむためにディアボリカを訪れている。
 祭りにトラブルは付き物だから油断は禁物だけど、その辺は警備を受け持ってくれてるヴィトニルがどうにかしてくれるだろう。

「マオは遊びに行くの?」
「うん、開催式も終わったし、夜の閉祭セレモニーまでは暇だからぶらっとしようかと思ってる。みんなの様子を見るのも兼ねてさ」

 みんな、それぞれが自分の得意分野を生かして祭りに貢献してくれている。
 その活躍する姿を見るためにも、祭を回る必要があった。
 決して遊ぼうとしているわけではない。

「ならボクも一緒に行くよ」
「わかった、はぐれないように気をつけないとね」

 そう言って、僕とサルヴァは城を出て町へと繰り出す。
 城から外に出た瞬間、町の喧騒がより近くに聞こえるようになった。
 この距離でもこんなにはっきり聞こえるなんて、祭りの賑わいは僕の想像以上みたいだ。

 サルヴァが今の姿になってから――みんなが温かく受け入れてくれたおかげか、彼女は今の生活を心の底から楽しんでくれてるみたいだ。
 胸に残っている闇のアーティファクトの有り余る力を使って巨人族の仕事を手伝ってみたり、ミセリアと一緒に城のメイドとして働いてみたり、ザガンから料理を学んだり、フォラスに学校に連れて行かれたり。
 とにかく色んな事を体験して、知って、自分の生きる意味を探そうとしている。
 その過程で様々な人と出会ったおかげか、表情も随分と豊かになった。





 城のある山を下っていくと、途中にある広場でニーズヘッグを見つけた。
 彼女の前にはずらりとワイバーンたちが並んでいる。

 ワイバーンたちは以前に一騒動あった後、なんだかんだで魔王の配下になりたいと言って魔王城へやってきた。
 それ以降、正式にディアボリカに住むようになった彼らは、普段は主に空輸の仕事で生計を立てている。
 そして、そんなワイバーンたちをまとめているのが、ニーズヘッグだった。
 彼らに馬鹿にされたことを、意外と根に持ってたらしい。
 慣れないリーダーという立場で、日々奮闘している。

「いいかおぬしら、今日はみなに訓練の成果を見せつける時だ! 訓練通りに動けば絶対に失敗はない。おぬしらなら出来る、絶対にだ、自身を持て!」
『ハッ!』

 ニーズヘッグの激励に、ワイバーンたちは一糸乱れぬ返事をする。
 いい具合に躾けられてるなあ、生意気だったあの頃が懐かしいよ。

「では行け、魔物も人間も関係ない、あらゆる生命の視線を釘付けにしてこい!」

 合図と共に、ワイバーンたちが一斉に空へと飛び立っていく。
 それぞれが魔法によって色の異なる光の粒子を纏い、フォーメーションを作ることで観客を魅了する、ワイバーンの飛行ショー。
 それが開催式を終えた国祭の、一番最初のイベントだった。

「すごいやる気だね、ニーズヘッグ」
「む……マオ様、見ていたのか」
「かっこよかったよ」
「照れるな、我ながら緊張しすぎて言葉が硬すぎたかと後悔しておったのだが」

 それが余計にいい味を出してたんだと思う。
 立派なもんだ。

「マオ様はサルヴァとデートか?」
「まあね」

 ニーズヘッグはサルヴァに近づくと、頭をぽんぽんと撫ながら言った。

「今日の祭りを客として楽しめるのはおぬしだけだ、私たちの分まで存分に遊んでくるのだな」
「うん、おみやげを楽しみにしてて欲しい」
「うむうむ、心待ちにしておるぞ」

 サルヴァは少し小柄なこともあってか、みんなから妹のように扱われていた。
 本当は一番年上のはずなんだけど、彼女もその立場を受け入れているようなので、特に何も言うことはない。

「あ、それとマオ様」
「ん?」
「あー……えっと……」

 自分から話しかけてきたくせに、なぜか口ごもるニーズヘッグ。

「どうしたの、ニーズヘッグ」
「いや、なんでもない。うん、行ってしまうかと思うと少し寂しくなっただけだ」
「また後で会えるでしょ、今日は打ち上げだってあるんだから」
「そう……だな。うむ、またあとで会おう」

 煮え切らないニーズヘッグを不思議に思いながらも、僕たちはその場を離れて町へと向かった。
 あの様子、たぶん何か隠してるよね。





 町へ降りると、メインストリートは……いや、それどころか、ありとあらゆる道が人と魔物でごった返していた。
 前に進むだけでも一苦労で、見ているだけでも酔ってしまいそうだ。

「はぐれないように手を繋いでおこうか」

 そう言ってサルヴァの手を握ると、彼女はほんのり赤くなった。
 人並みの羞恥心、というのも最近身につけてきたらしい。
 最初は裸でもまったく恥ずかしがらなかったんだけどな。
 どちらがいいかと言われれば、間違いなく今の彼女だ。

「それにしても……色々ありすぎて目移りするね、何か食べたいものはある? それとも遊びたいゲームとか」
「何か食べたい」

 相変わらず食欲旺盛だな。
 闇のアーティファクトが胸に埋まってるから、外部からエネルギーを摂取する必要は無いはずなんだけど、単純に食べることが好きらしい。

「じゃあ、広場でやってるジャイアントのデモンストレーションでも見に行く?」
「巨大鉄板料理、だよね」

 今回の祭りの目玉イベントの一つだ。
 まず巨大な鉄板を作るのが大変だったし、強度を保つために分厚くなってしまった鉄板をどうやって熱するか考えるのも一苦労だ。
 僕が火のアーティファクトを使う許可を出すまでは、かなり頭を悩ませていたらしい。

「そう、火力は火のアーティファクトでカバーした豪華仕様だよ」
神造遺物アーティファクトの無駄遣いだ」
「有効活用って言ってよ。これぐらいの扱いがちょうどいいんじゃないかな」

 変に高度な科学に利用したり、兵器に転用したりするよりは、ずっと平和だ。

 広場に近づくとさらに人の密度が増していく。
 そこではサイクロプスやイエティたちが4人がかりで巨大な鉄鍋を持ち、食材を炒めていた。
 鉄鍋が動き、鍋の中の材料が宙を舞う度に観客たちから「おぉ」という歓声が湧き上がる。
 香ばしい匂いが周囲に溢れている。
 ここに居るだけで、思わずお腹が鳴ってしまいそうだ。

 料理はそろそろ完成するみたいで、僕たちがここに来たのはちょうどいいタイミングだったらしい。

「魔王様だ……」

 僕の近くに居る誰かが呟いた。
 顔も隠してないからバレるのは当然のこと。
 そこから水面に波が広がるように僕がここに居るという情報が伝わっていき、自然と料理を配る受付のブースまで道が開いていた。
 申し訳ない気持ちになりながら、僕はサルヴァと一緒にその道を歩く。

「おお、まおーさま来てくれたのか!」

 ブースに居たのは、額に汗を浮かべるザガンだった。
 鉄板の周囲はかなり熱い、一日中ここにいるとなると、流す汗の量もかなり多いはずだ。
 水分補給には気をつけて欲しいもんだ。

 彼女は料理関係全般の管理を任されていたんだけど、特にこの巨人料理に力を入れていた。
 最初に企画立案したのも彼女だしね。

「味はわたしがほしょうするぞ、食べてくれ!」

 完成した料理を巨人が大きな器に移し、さらにそこからザガンがお皿によそう。
 二人分の皿とスプーンを受け取った僕たちは、早速口に運んだ。
 ジャロ芋を始めとした数種類の野菜とひき肉を甘辛く炒めた、結構ワイルドな料理だ。
 味は言うまでもなく、おいしい。
 白米があればパーフェクトだったな。
 僕が無言で親指を立てると、サルヴァも真似をして親指を立てる。
 すると、ザガンの表情がぱあっと明るくなり――

「まおーさまのお墨付きをもらったぞー!」

 彼女はそう高らかに宣言した。
 すると観衆から「おおおぉぉぉっ!」とひときわ大きな歓声があがる。
 ……なんか、まんまと客引きに利用された気がするな。

「商売上手になったね、ザガン」
「ザガンって、実は意外と抜け目ない」
「まおーさまが機会をたくさん作ってくれたおかげだ、いっつも感謝してるぞ!」

 そう言われると、文句の一つも言えないな。

「こちらこそ助かってるよ。じゃ、あんまり居座っても邪魔になるだろうから、またあとでね」

 僕がその場を離れると、ザガンは僕の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。





 空には風のアーティファクトを利用した遊覧飛行船が飛んでいる。
 ワイバーンのショーを見るのに最適とあって、飛行船の乗り場付近もすごい人だかりだった。
 また、とあるブースでは光のアーティファクトを使った健康相談、なんてイベントも行われている。
 そのブース付近も飛行船同様に人で溢れていたけれど、明らかに年齢層が違う。
 どうやら特にお年寄りに人気みたいだ。
 これもサルヴァに言わせるとアーティファクトの無駄遣いなのかもしれないけど、やっぱ僕にはこれが正しい使い方のように思える。

 いくつか出店で食べ物や飲み物をつまみながら祭りを楽しんでいると、警備のために町を見回っているはずのヴィトニルを見つけた。
 その隣にはミセリアが居て、一緒に何かを話してるみたいだ。
 近づいて声をかけると、2人は一斉にこちらを向いて、笑顔を見せてくれた。

「や、警備は順調?」
「おっ、魔王サマじゃねえか」
「マオはサルヴァちゃんとデート?」
「それさっきニーズヘッグに言われたよ、まあデートだけどさ」
「うん、デート」

 手をしっかり握ってる時点で否定できるわけがない。
 デートだと答えると、ミセリアが「良かったねぇ」とサルヴァの頭を撫でた。
 サルヴァは気持ちよさそうに目を細めている。

「2人はここで何してたの?」
「午後のセレモニーの細かい打ち合わせだよ」
「そっか、ミセリアが司会だもんね」
「なんで私にそんな大役が回ってきたのかぜーんぜん理解できないんだけどさー、やれって言われたからやるしかないし、けどどうしても不安だったからヴィトニルさんと色々話してたの」

 理解できないと言われても、それをこっちが理解できないというか。
 ミセリアはディアボリカの男共からの人気が高いことをもっと自覚するべきだと思う。
 明るくて気立てがいい女の子ってのは、どこに居たって人気が高いものだ。

「そういや魔王サマ、帝国残党の連中は本当に大丈夫なのか?」
「それなら大丈夫だって言ったでしょ、話はついてるから」
「話がついてるって言われてもなあ、話が通じるような相手なら最初からテロ活動なんてしないだろ」

 元帝国兵の一部の人間は、今でも帝国復活を夢見てテロ活動を続けていた。
 それが、帝国残党と呼ばれる人間たち。
 どうやら彼らはもっと別の、かっこつけた名前を名乗っているようだけど、僕たちは面倒なので帝国残党と呼んでいた。
 皇帝は女と共に失踪したってのに、今でもまだ彼の帰還を夢見ているそうだ。
 そんな帝国残党の中にも、実は一人だけ話の通じる相手が居る。
 それがファルゴだ。
 どうあがいたって、魔法でも使わない限りは帝国の狂信者たちの洗脳は解けないわけで、つまり帝国復活のための活動を無くすのはほぼ不可能だ。
 力づくで抑えても、どこかで綻びは生じる。
 そうなった時に一番怖いのは、形振り構わずに、自分の身を犠牲にして他人の命を害する者が現れること。
 無差別にテロを起こされたんじゃ、さすがに防ぎようが無いからね。
 ファルゴはそんな残党に潜り込んで彼らの動きを制御することで、そういった被害を最小限に抑えようとしているのかもしれない。
 現に今日の国祭でも、話し合いに応じてくれて、この国に危害を加えるような活動はしないことを約束してくれたわけだし。

「ま、魔王サマが大丈夫って言うなら信じるか」

 ヴィトニルがそう言った瞬間、ドォンという破裂音と共に、空に虹色の爆炎が弾けた。
 僕たちは一斉に空に視線を向ける。

「お、フォラスの花火教室も順調にやれてるみたいだな」
「そういえばフォラスさん、そんなイベントもやってたね」
「最初は爆弾の作り方を教えたいとか言ってたんだよ、もちろんそんなの許されるわけないからさ、花火教室で妥協したってわけ」

 ドォン、ドォン、とその後も散発的に虹色の炎が空を彩った。
 僕が知ってる花火とは微妙に違うのが気になるけど、これが彼女なりの爆発の美学ってやつなんだろう。
 あとは爆発を見るたびに恍惚とした表情をするのだけやめてくれれば、素直に素晴らしい教育者だって認められるんだけどな。

「綺麗な火……」

 まあ……サルヴァもそう言ってることだし、良しとしよう。
 僕たちはヴィトニルとミセリアに別れを告げると、出店巡りを再開した。





「はふう……食った食った」

 歩きながら、サルヴァが膨らんだお腹をさすっている。
 本当に彼女はよく食べる。
 さらに、食べれば食べるだけ機嫌がよくなっていく。
 色々食べるだけで楽しんでくれるんだから、もてなす側としては非常に楽だ。

 そろそろ日も傾き始めた。
 僕は閉祭セレモニーに備えて、会場の傍にある国祭の運営本部へと向かうことにした。
 セレモニー開始前には、各国の要人と話もしないといけないから、あまり時間が無いのだ。
 本部へ向かう途中、サルヴァが名残惜しそうに零す。

「もうデートも終わりってことだよね」

 終わりを嘆くってことは、それだけ楽しんでくれたってこと。
 エスコートした甲斐があったよ。

「そうなるかな、まだ続けたかった?」
「うん、もちろん。ボクさ、最近みんながよく言ってる”マオが好き”って気持ちが理解できるようになってきたんだ」
「それは……嬉しいね」
「本当に嬉しいって思ってる?」

 嬉しくない訳がない。
 正真正銘の神様だったサルヴァを無理やり人間の形にして、こちらに引き込んだのは僕なんだから。
 今の日常を愛してくれるぐらいじゃないと、立つ瀬がない。

「そりゃそうだよ、好きって言われて嬉しくないやつなんていない」
「よかった……なら、安心して告白できるね」
「告白するんだ」
「そのうちね」
「そのうちって……」

 いっそ今してくれた方が、気持ち的に楽なんだけどな。
 サルヴァのことだし、思いがけないタイミングで告白してきそうな気がする。
 受け入れる覚悟はできてるけども、できれば二人きりの時に言ってほしいかな。

 そんな話をしているうちに本部の前にたどり着いた。
 僕たちは自然と手を離していた。

 本部に入ると、誰もが慌ただしそうにプチデーモン越しに話している。
 祭りで起きているトラブルを集約し、適切な処理を命じるのが本部の役目で、それだけ小さなトラブルが頻発してるってことだろう。
 その最奥に座っているのが、本部長であるグリムだった。
 彼女は疲れきった顔をしていたけれど、僕の顔を見た瞬間にぱぁっと笑顔を浮かべ駆け寄ってくる。

「マオさま、会いに来てくれたんですか!」
「本部長の仕事、大変だったでしょ?」
「そりゃあもう、実質雑用係みたいなもんですから。まあ、立候補したのは私なんですけどね!」

 そう、特に強い力を持っていないグリムは、自ら一番忙しそうな本部長に立候補したのだ。
 そのおかげで、ここ最近はまともに会話をする時間すら無かった。

「だから僕がやるって言ったのに」
「ダメですよ、マオさまは玉座に座ってふんぞり返ってるぐらいでちょうどいいんです! ただでさえ、普段はマオさまに頼りっきりなんですから、今日ぐらいは頑張らせてください」
「グリム……」

 僕の手は、気付くと自然にグリムの頭を撫でる。
 労りたいという気持ちが溢れた結果だ。

「あふ……ま、マオさま……みんな見てるんですけど……」
「今を逃すとまた忙しくなると思って」
「むー、そう言われてしまうと何も言い返せません。というかすごく嬉しいからどっちにしても何も言えません!」

 なら良かった。
 それに、僕としては見られたって何の問題も無いからね。

「グリムさん、広場の方でオーク同士が揉めてるそうです」

 僕と話すグリムの元に、樹人族の男性が近づきそう言った。

「人間とのトラブルならわかるけど、なんで魔物同士でトラブル起こしてるのよー! まったく、すぐに向かいましょう!」
「はいっ」
「というわけで、すいません行ってきますね! マオさま、またあとで!」
「うん、行ってらっしゃい」

 本部を大慌てで出ていくグリムを、僕は見送った。
 セレモニーについて相談できそうな、暇のある魔物は誰も居なさそうだし――仕方ない、一人で考えておくか。
 僕は空いていたソファに座る。
 するとてっきり隣に座ると思っていたサルヴァが、僕の膝の上にぼふっと乗ってきた。

「定位置」
「いつからそんなことに……軽いからいいんだけどさ」

 僕は太ももの上にサルヴァを乗せたまま、迫る閉祭セレモニーで自分が行うスピーチについて考えていた。





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