BioGraphyOnline

ツリー

第㊙の4話 クリスマスイベント(後編)

木漏れ日荘を出発して数分
いつもクラウスさんと買い出しに来ている商店街についた俺は
いつもと違う商店街の雰囲気に少し心躍らせていた

「おお!これは伝説のスイカリバーじゃないか!!」
「おや?君はこの武器に興味があるのかい?」

店員の兵士の質問に首を縦に振ると
スイカのようなデザインの片手武器を手に取り軽く振り回す
イベント武器なのか攻撃力は皆無

「しかーし!こういうイベント武器は持っているだけでネタになるのだぁ!」
「よしよし・・・それじゃあお会計なんだけど・・・ふぐ!?」

迷う事無く露店にRを置いてスイカリバーを購入した俺はアイテムストレージを見て軽く呻く

「っく!?インベントリが最大になっているぅ!?」

ここに至るまでの道でアイテムを買い過ぎたか・・・!
このままでは食材を買っても持てないぞ・・・

まさかのトラップに俺が頭を悩ませていると頭上から声がかかる

「なにやっとるん・・・?」
「おお!?その声はマイフェイバレットフレンドのフーキじゃないか!」

俺が勢いよく顔をあげるとフーキが溜息を吐いている

「今のアズはなんていうか・・・見た目通りやね・・・」
「それはどういう意味だ?子供っぽいっていう事か?ならば俺はこの見た目を最大限に利用してこのイベントを楽しむのみだ!ハーッハッハッハ!!」

そう言いながらスイカリバーを振り回す俺の襟首をフーキがつかむ

「はぁ・・・何も知らんっていうのは幸せかもしれんね・・・」
「むぅ!何をする!今の俺を止めた・・・く・・・ば・・・」

俺は目の前でニコニコと刀を構えるAKIHOを見て即座にスイカリバーを背中に隠す

「あら?戦わないの?」

心底不思議そうに首を傾げるAKIHO

「いえ・・・何でもないです・・・今日は綺麗な赤い服を着てるんですね・・・」

この戦闘狂なら剣に近い物・・・へたしたら棒を振り回していても間違いなく決闘をしてくる
とりあえず話の話題を逸らしてスイカリバーの存在を隠すしかない

「あら?ほんと・・・今日は白い服を装備してたのに・・・おかしいわね?」
「あっ(察し」

よく見ると赤い服に見えたそれは赤い物が付着した何かだった
一体何人血祭にあげたらあんな赤くなるんだ!?
顔に出ていたのかAKIHOが俺の疑問に答える

「今日はなんだか変な日?よく決闘を挑まれるのよ」
「いや・・・あれは決闘を挑んだわけでは無いと思うんよね・・・」

首を傾げるAKIHOにフーキが小さくつっこみをいれている
そんな様子を見てピンと来る

大方AKIHOとクリスマスを過ごしたいプレイヤーが何人かいたって事なのだろう

「そして全員理解される事なく散っていったんだろうな・・・」

俺の呟きにフーキが沈痛な面持ちを浮かべている

「ところで青葉君?はどうしたの?」
「ああ・・・今日木漏れ日荘でクリスマスパーティーをしようと思ってその買い出しに来たんだよ・・・だからこのスイカリバーも決闘とか用じゃない・・・違うから・・・そんな目で見るなぁ!!!」

「先っちょだけ!ね?ね?」と言いながら刀を突き付けてくるAKIHOから逃げるようにフーキの後ろに隠れる

「まぁまぁAKIHOさん、ほら・・・後ろに順番待ちの人がいるみたいやよ?」

フーキの言葉にAKIHOが後ろを確認すると何人もの男達が直立不動で立っている

『AKIHOさん!是非今日は私と!』
『いや!俺と!』
『いいや!僕だね!』
『ええい!なんだこの行列は!・・・見つけたぞ!青髪の少女!』
『あら?貴方達が相手をしてくれるの?』
『『『はい!よろこ!ぎゃああああああああああああ!!!!』』』

「よしアズ!今のうちや・・・・!」
「すたこらさっさ!」

背後から聞こえる悲鳴と喧騒から逃げるように商店街を抜け出る

「ここまでくれば大丈夫だろう・・・」
『ここは今通行止めげふげ!?』

俺は息を整えてフーキを振り返る

「お?そうみたいやね」

そう言いながらにこやかな笑みを浮かべるフーキ

「・・・今なんか兵隊みたいな人いなかった?」
「気のせいやない?」

クリスマスという事で少し興奮し過ぎたか?
俺は深呼吸をすると再びフーキに向き直る

「ところでフーキ?ちょっとアイテム預かってくんない?」
「ん?・・・まぁ断るつもりはないんやけど・・・見事にイベントアイテムばっかやね・・・」

フーキの返事を待たずにアイテムを送りつけているとフーキが冷たい目を向けてくる
しかし今はそんな事重要な事じゃない

「そういえばアズはもうクリスマスは誰かと過ごす事になったん?」

フーキにアイテムを送りつける俺にそんな質問が飛ぶ
しかし今はそんな事重要な事じゃない

「決まってないよ、なんならフーキが俺にアイテム使ってくれないか?」
「ほんなら遠慮なく・・・ん?」

フーキがアイテムを使ったかと思うと変な表情を浮かべる

「変な顔してどうしたんだ?」
「いや・・・アイテムが発動しないんよ」

困惑の表情を浮かべるフーキ

「なんだ、運営の悪質な嫌がらせかよ・・・驚かせやがって」

流石の運営もそこまで悪魔じゃないって事か

「さてと・・・」

一通りアイテムを送りつけた俺は食材を買い漁る

「所でフーキは何か欲しい物でもあるのか?」
「いや、特にないんやけどね・・・」
「ならば貴様には木漏れ日荘まで荷物持ち一号の権利を与えてやろう!!」

フーキは俺のドヤ顔に溜息を吐きながらも後ろをついてくる
フーキの力は結構高かった筈だからこれで重量制限は問題無い
これを機にクリスマスに関係の無い家財も持ってもらうとしよう

そんなこんなでショッピングが終わる頃にはすっかり日が暮れていた
フーキはフーキで荷物を木漏れ日荘に置くとさっさと何処にいってしまった

「まったく、折角なんだからパーティーに参加していけば良いのに」

玄関に置かれた荷物を整理していると
フリフリ衣装のアレクが厨房から顔を出す

「お!おかえりアズ!仕込みはバッチリだぜ?」

流石アレクだ、何も言わなくても準備万端のようだ

「しかしなんで従業員服?」
「・・・アクアがこれは絶対着ろと」

どこか諦めたように遠くを見つめるアレク

なんとなくそんな気はしてた
このままの流れで俺まで恥ずかしい格好をする羽目にならないようにせねばならない

フリフリ衣装のアレクを同情の目で見ながら、俺はアレクと瓜二つの少女の事を思い出す
そういえばアレクには伝えとかないといけない事があった

「アレクの実家がわかったんだけど・・・どうする?」

とある貴族には産まれたばかりの子供を10歳になるまで平民の家に預ける風習がある
なんのことはない、そんな平民の家の子供がたまたま誘拐されて行方不明になった、ただそれだけの事

「僕の実家・・・?それにどうするとは?」

俺の言葉の意味を考えているのか、アレクが難しい顔をしている

「実家に帰れるって事だ、折角のクリスマスだし家族水入らずというのと悪くないんじゃないか?」

しかしアレクは険しい顔をすると
不安気な瞳でこちら覗き込む

「僕にとっての家族はアズ、君やこの家の住人だよ」
「そっか」

俺は不安そうな表情でこちらを見ているアレクの頭を乱暴に撫でると厨房に向かって歩き出す

「ならば我が家のメイド長アレク!早速調理を開始する!」
「・・・!イエッサー!!」

飛び切りの笑顔で返事をするアレク

「あずちゃんあずちゃん!私は!私は!?」

横で飛び跳ねるアクアの頭をおさえる

「よし!では我が家の絶対正義妹アクアに命ずる!テーブルの片付けを開始するんだ!」
「サーイエッサー!!」

テーブルに向かって駆け出すアクアの背中を見ながら俺は笑みを浮かべる

本日はクリスマス、大事な家族と過ごすのも悪くない

---------------------------------------------------

暖かな光が溢れる木漏れ日荘の外で男は肩を震わせる

「ようやく親玉のお出ましやね」

男は暗闇から現れた人物を見ると怒りを露わにする

「よくも・・・よくも余の計画を邪魔しおったな?」
「悪いけどやり方が気に食わんかったんよね」

フーキは目の前の人物から発せられる殺気をどこ吹く風で軽く流す

「せっかく!せっかく合法的にアズちゃんとラブラブな夜を過ごすチャンスだったというのに!!!!」

暗がりで狂ったように叫ぶ変質者、もとい現グラフ国王
そう、彼は今日この日、アズのクリスマスの所有権の為だけに国の兵士を総動員したのだ

フーキは目の前で声を荒げる国王、もとい変質者にドン引きしながら木漏れ日荘を視界に映す

「それに・・・多分わいが出るまでも無かったかもしれんよ?」

フーキの言葉に国王が首を傾げる

「わいがアズに接触した時アイテムを使ったけど効果は発動せんかったんよ」
「ばかな!?」

フーキの言葉に困惑する国王

「多分やけど・・・」

フーキが木漏れ日荘の光を見ながら笑みを浮かべる

「わいが接触する前に・・・誰かがアイテムを発動してたんかもしれんね?」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品