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第㊙︎の5章 変質者オールデイズ

犯罪報告件数が世界でもっとも少ない平和な都市グラフ
しかし!そんな平和な国に恐るべき変質者の魔の手が迫る

「今回はこの国をターゲットにさせてもらおう」

茶色のコートにサングラス、帽子を深くまで被った男
変質者をなりわいとしているヘンシー・ツシヤは不敵に笑う

彼はこれまで各地で様々な変質行為を行い、迷惑条例とかなんかそんなので何度も投獄されている極悪人

一見しても不審者だが、実は彼のコートの中は一糸纏わぬ全裸状態なのだ

「くっくっく・・・まずは手始めに何をして・・・なんだと!?」

品定めするように街を物色していたヘンシーは
人通りの多い商店街で目を疑うような光景に絶句する

そこにはクジャクのようなゴウジャスな仮面を被った全裸の男が街中を堂々と歩く姿

「ば・・・ばかな!?なぜあんな変態が!?グラフは治安の良い国ではなかったのか・・・!?」

変態はしばらく周りを見回すと、こちらを見て眼光を鋭くする
ただならぬ気配を感じて路地裏に逃げ込んだヘンシーはある事に気がつく

それは周りの人間が全く気にしていない事だ
あの変態がまるで空気のように

「そうか・・・やつは妖精だな!」

妖精は普通の人間には見えない
だから周りの人間は気づかないんだ

冷静になり、汗を拭いながら路地裏を進む

「しかし俺にも妖精を見る力が備わったという事か?」

妖精を初めて見た事に感動したヘンシーは
感情の高鳴るままに目の前を歩く少女の前でコートを脱ぐ

金髪和服アーマーの少女は
突如現れた変質者に目を見開く

『さあ来い!貴様の悲鳴を聞かせるが良い!』
ヘンシーは心の中で叫ぶ

しかし少女はすぐに落ち着きを取り戻すと
視線を下に向けて鼻で笑う

「な・・・俺のサンドスネークが鼻で笑われた?」

それなりに自信があったヘンシーはその場に膝をつく
その傍らを少女が再び鼻で笑って通りすぎていってしまう

呆然としながら少女が立ち去っていったのを確認したヘンシーはある事に気が付く

・・・よく思い出せ
彼女の耳には獣耳があった

「つまり彼女は獣人種・・・?」

聞いたことがある

獣人種は人間種とでは比較にならないレベルの差があると
であればあの少女の態度も納得だ

しかしなんだろう、この胸の高まりは・・・
新たな扉を開きそうになるのを抑え込み
ヘンシーは獰猛に笑う

「初めてですよ、ここまで俺をこけにした国は」

目をギラギラさせながら立ち上がるヘンシーは
度重なる失敗でイライラ・・・いや、ムラムラしていた

「使いたくなかったが・・・あの方法を使うか」

ヘンシーは目の前を歩く男の背中に密着すると静かに呟く

「動くな、俺はゲイだ」

目の前を歩いていた男が微動だにしなくなる
くっくっく・・・本当は男が好きというわけではないが、どうやら効果はてきめんのようだな
作戦が上手くいった事に気分を良くするヘンシー

しかし目の前の男は溜め息を吐くと、眼鏡を直しながらこちらを振り向く

「まさかこんな所で同士に出会えるとは」
「え?」

男が言っている事が理解出来ずに呆然とする

「けれどすまない、僕にはグレイさんという心に決めた人がいるんだ・・・」

そう言いながら立ち去っていく眼鏡男

別に男が好きというわけでもないうえに
見ず知らずの人間に振られたような感じになってしまった

「一体・・・この国はどうなってるんだ!?犯罪件数が少ない国なのでは無かったのか!?」

今までの人間の態度が本当に治安の良い国の人間の反応なのか!?
混乱して猛り狂うヘンシー

それもそのはず、彼はプロの変質者なのだ
そのプロが犯罪報告件数が少ないと言われている国で
未だ自警団や衛兵に捕まっていない

プライドを傷つけられ路地裏で叫ぶコート下の変態・ヘンシー

そんなヘンシーの肩を、背後から何者かが押え込む

「あらぁ♡話は聞いてたわよ♡」

背後から聞こえてきた野太い声に背筋に冷たい物が走る
何が起きているのか振り返ろうにも
凄い力で押さえつけられているせいで体がビクともしない

ヘンシーは唯一動かせた首だけを動かして背後を確認する

そこにはこの街で最初に見かけた妖精
初めてこちらを見た時と同じ野獣のような眼光をしている

「な!?離せ!?」
「恥ずかしがらなくて良いの♡アタシに全てを委ねて・・・」

必死に振りほどこうとするが、力の差が違いすぎる

というか妖精には性別といものが存在しない
なのにこの妖精の反応はまるで・・・

「妖精じゃない・・・?」

口にすると同時に滝のように汗が溢れ出る

「ああ!?うわぁぁぁぁ!?」

言葉に表せない恐怖に、コートを脱ぎ捨てて転がるように逃げだす
はやくあの変態から逃げ出さなくては!
コートを脱いだせいで全裸になってしまったが、今はそんな事大した問題ではない

跳ぶように路地裏から逃げ出したヘンシーは
前方のフルプレートアーマーの男にぶつかる

クラクラしながら立ち上がったヘンシーは目を見開く

「な・・・なんでケツの所だけモロ出しなんだ・・・!?」

そう、ぶつかった相手のフルプレートアーマーは、何故か尻の部分だけ開放的な形状をしていたのだ

「む?なんだ?へんし・・・あぁ、ロウの仲間か」

険しい顔つきだったケツプレートアーマーの主は
後ろから追いかけてくる変態を見て、納得したように一瞬だけ優しい顔つきになる

「ロウ!街中では服を着て行動しろ!」

背後に迫っていた変態はビクリと体を震わせると首を縦にふっている

どうやら見た目はアレだが中身はまともな人間のようだ
安堵の溜め息を吐き、気を緩めたヘンシーを見て
ケツプレートが怒鳴りだす

「お前!なんてたるんだ尻してやがる!」

ケツプレートが怒りに身を任せるかの如く尻を引き締めると
壁や床に亀裂が走り、大気が震え出す

「そのたるんだ尻を鍛え直してやる!俺について来い!」
「ば・・・化け物!?だ!誰が助けてくれぇ!?」

いよいよ悲鳴をあげだしたヘンシー
しかしケツプレートから繰り出された攻撃によって
一瞬で意識を刈り取られる

「あらぁ・・・元教師としての血が騒いじゃいましたん?」
「そんな所だ!こいつにはまず尻筋1000回からだな」

意識を無くしそのまま城に連れ去られた男
それ以来、コート下の変態を見る者はいなかったという

これは、犯罪報告件数がもっとも少ないグラフの物語
グラフ王国では今日も一日平和な時間が流れるのであった

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