BioGraphyOnline

ツリー

第八十五章 禁書

海園都市オクトリアの教育機関アトラ学園の門前
青い髪の上には初等部特有の白い帽子
アトラ学園の制服に身を包んだアズは震えながら門番に対峙していた

        ◇

見られてる・・・!めっちゃ見られてる!
学園の制服に着替えた俺は恥ずかしがりながらも門を通ろうとしたのだが・・・
強面の門番に睨まれて思わず足を止めてしまっていた

怪しくないよな!?場に溶け込んでるよな!?
いつでも逃げ出せるように退路を確認しながら
おそるおそる門番の顔を覗き込んで挨拶をしておく

「お・・・お疲れ様でーす・・・」

二人の警備員はお互いの顔を確認すると頷きあって門を開く
どうやら学園の生徒として認識されたらしい
怪しまれる前に急ぎ足で学園の中に潜入すると目的の物が置いてある場所を探す

「書物って事だったし・・・やっぱり図書室とかかな?」

園内に入ってすぐの見取り図で図書室を見つけた俺は急ぎ足で目的地に向かう

図書室は円形の部屋にいくつもの柱状の本棚が設置され、天井まで本が積まれている

「これはまた広いな」

というか上のほうの本はどうやってとるんだ?

周りを観察していると手のひらサイズの羽が生えた小人が本を右に左に忙しそうに運んでいる
どうやらあの小人が本の持ち運びをしているらしい
俺は適当な椅子に座ると小人を手招きする

小人はくりくりした目でこちらを見て首を傾げている

「えと・・・神様のしょ・・・神様の生誕に関する書物を持ってきてくれ」

俺がリクエストを出すと小人が笑顔で敬礼していくつかの本を持ってくる
それを一つ一つ確認していくが・・・

「特に目立った本はないな」

教会での出来事もあるし周りの人に聞くわけにもいかないな・・・
椅子から離れて小人が本を持ってきた辺りを探す

「ん?」

本棚の陰にこの部屋に隣接する扉を見つける

<禁書庫>

扉にはでかでかと立ち入り禁止と書かれている
わかりやすい!
俺は柱の陰に隠れると隠密スキルを発動
禁書庫の扉を開けて中に入る

中は埃だらけの棚で埋め尽くされている
ジャンルはバラバラ、この中から探すのは流石に厳しいぞ・・・
埃の匂いと本の多さに顔を顰めながら目的の物を探す

どれだけの時間がたっただろうか
最後の棚を確認した所で溜息を吐きながら呟く

「無い・・・」

日の光が一切入ってこない部屋
しかしおおよその感覚だが恐らく外はもう真っ暗だろう

「とりあえず宿を探そう・・・」

そう思い金書庫の入り口に目をやると扉の裏が光っている
よくよく見るとそこにはショーケースの中で怪しい光を放つ書物
革の装丁には爪痕が残り、文字はどこの文字なのか読む事ができない

「灯台下暗しってレベルじゃねえぞ・・・」

濡れマスクに適当な指輪をいれてショーケースを割り中の本を手に取る
手に取った瞬間に背筋に寒気が走り頭が理解する

「間違いない・・・これが神に関しての書物・・・」

放心状態で呟く俺の耳にブザー音が届いたかと思うと野太い男の声が聞こえてくる

『泥棒だー!』

マズイ・・・!
急ぎ本をアイテムストレージにしまうとフードで顔を隠して禁書庫から飛び出る

「うわっ・・・」

禁書庫の外には図書室に溢れる兵士
ここって学園でしたよね?
どちらにせよまともに戦える数ではない

炎の魔人を出現させようとして異変に気付く

「スキルが使用できない!?」

急ぎ杖を構えると兵士が叫びながら斬りかかってくる

『賊だ!捕らえろ!』

とにかくなんとかしないと!?
飛びかかってきた兵士の剣を杖で逸らして近くの本棚を叩く
本棚はグラグラ揺れると兵士の一団の上に大量の本をまき散らす

『うわああああ!?』
『うろたえるな!本が当たったていぎゃふん!?』
『しっかりしろ!立ち上がれないのか!?』
『ああ・・・膝に本を受けてしまってな・・・』

予想以上の大災害になってしまったが・・・これで時間稼ぎに・・・!

本が落ちた拍子に地面が揺れてドミノのように本棚が倒れていく
天井高くまである本棚が全て倒れ次々と兵士が潰されていき・・・最後には本棚の重さに耐えられなくなった床に穴が空き、兵士が下の階に落とされていく

「わーお・・・」

目の前の大惨事に両手を合わせて合掌
床の穴を避けて学園を抜け出すと街のあちこちに松明の光が見える
松明を持った人間は半狂乱になりながら叫んでいる

『絶対逃すなー!街を焼いてでも炙り出せー!』
『いたぞー!あそこだー!!!』

物騒な事を叫んでいる住民から逃げるように路地裏を走る
しかし相手の地元で逃げ切れるわけも無く袋小路に追い込まれる

「やばいやばいやばい!」

あたふたとアイテムストレージから杖を取り出そうとしたところで後ろに引っ張られる

「な!?後ろは壁だったはずな・・・の・・・に・・・?」

周囲を見渡すとそこは見たとこのある場所・・・オクトリアの教会の中だった
目の前ではいつぞやの地味なシスター服の少女が彫像に向かって祈りを捧げながらこちらを振り向く

「無事でしたか?」
「・・・はい」

普通なら助けられたと思うんだろうが・・・
ここ最近まともな人間に会わなかった俺はアイテムストレージから盾になりそうなものを取り出して警戒しながら少女に視線を送る
少女は首を傾げながらこちらを見つめて俺の手元の本に目をやると大喜びで抱き着いてくる

「まぁまぁまぁまぁ!やはり貴方は素晴らしい信徒です!」

こいつ!?意外とでかいぞ!?
予想外の柔らかい感触に驚いている内に少女が手元の本を奪い取り目を輝かせながら本をめくる

「あぁ!!これぞまさに神々の書!偉大なるアトラハルト様!感謝致します!!!」
「そこまでだ!!!」

彫像に向かって叫ぶ少女を杖で殴り無理矢理本を奪い返す

「安心しな・・・みねうちだ・・・あれ?」

少し渋い感じに台詞を決めようとして少女が倒れずにこちらを凝視しているのに気づく

「貴方は敬遠なる信徒のはず・・・ああ!アトラハルト様・・・これも試練なのですね!!!」

少女の目に狂気の色が宿る
そう・・・ここ最近よく見る・・・戦闘中のAKIHOと同じ目だ・・・!
そんな少女を油断無く睨み・・・俺は少女に背を向けて一目散に逃げ出す

AKIHOと同じ目?そんなの危険人物以外の何者でもないじゃないか!!
教会の扉に手をかけた所で後ろから不気味な演唱が聞こえてくる

「やばい!あれ絶対やばいやつだ!!!」

扉が開いた拍子に背後から嫌な気配を感じて地面にダイブする
頭上を何かが通過して外にいた民間人が串刺しになる

「素晴らしい・・・これが神々の書の力・・・イア!イア!」

恐る恐る背後を確認するとそこには片腕が触手のようになり
体が鱗で覆われている少女の姿

「・・・人間じゃなかったのか・・・?」

俺のかすれた声に少女だったものが首を傾げる

「いいえ?私は人間でしたよ?」

人間・・・でした・・・?

「これぞ神々の書の奇跡の力!その呪文は全ての種族の垣根を取り除く素晴らしき奇跡!ああ!これで私は人間という種族を超えてアトラハルト様に一歩近づける!!」
「おんや~?それは興味深いですね~?」

俺に歩み寄る少女の背後に薄気味悪い笑みを浮かべたイケメン・・・グランが立っている

「是非私にもその呪文教えてくださいよ~」
「・・・あなたは何者ですか?」

突如現れたグランに少女が警戒の色を強め完全に俺から注意が外れてる・・・今なら!
俺は隠密を発動して教会から脱出する
なんでグランがここにいるのかは知らないが・・・とにかく助かった

先程串刺しにされた民間人を発見した住民が教会付近に人を集めている
見つからないように隠密を発動しながら港に向かい海を確認する
海面には大量の船が浮かんでいる
これでは船に乗って脱出してもすぐ見つかってしまうだろう

「ならば!」

俺は杖に跨り飛翔、船の上を通過する
流石のオクトリア民も空の上は監視していないようで・・・
誰にも気づかれる事なくオクトリアを脱出する事に成功した

「あれ・・・?この状況・・・転移ポータルが使えない・・・」

転移ポータルが使えないって事は・・・
帰りの船旅の事を考え胃の中に不快感を感じる今日この頃であった

「BioGraphyOnline」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く