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第七十二章 それぞれの戦い

「報告!東の平原に和の国の軍勢が集まっています!」

グラフ城城壁の上にて、兵士の報告を聞き老兵が顔を顰める

「まさか四方の国全てが敵に回るとはのう」

表立って交戦する気配は無い
だがもし攻め入られた時の為に兵を出さねばなるまい

「すぐに兵を送れ!国境の守りを固めるのじゃ!」

老兵は城下町を見下ろすと溜息を吐く
残存兵力だけなら冒険者を上回るが・・・
強豪の多い冒険者が相手だ、楽観視はできまい

「そもそも今回の騒動は王子の独断で起きたからのう・・・」

今すぐ王子の首を差し出すなりしたほうが被害が出なくて済むかもしれない
王国の兵士として不謹慎な事を考えていると静寂に包まれていた城に笛の声が響く

「来たか!」

冒険者達が雄叫びと共に三方向から城に攻めよせる
どの軍団の先頭にも青髪の冒険者が見える

「陽動じゃな」

一つは少し背が低い気がするが恐らくアズという冒険者に少しでも背を近づけさせる為だろう
もう一つは明らかに他の青髪より背が高い
これは間違いなく違う
となれば・・・

「敵の総大将は西にあり!」
「敵総大将は西!各軍追えー!」

被害を少なくする為には、いかに敵総大将をはやく討つかが鍵を握るだろう

「全軍放て!!!」

号令と共に大量の矢が冒険者達を襲う
しかし矢は冒険者達に届く前に軌道を変えて地面に刺さる
あれが王子の言っていた風を操る術・・・!

「間違いない!兵力を増やせ!一気に畳み掛ける!」

西の冒険者と交戦を開始し、青髪の小童まで一目散に距離を縮める

「ここまでだ!精霊術師アズ!貴様を国家反逆ざ・・・い・・・?」

台詞の途中でフードを投げ捨てた青髪の顔を見て言葉を失う
そこには青髪の少女・・・アクア様がいた

「馬鹿な!?」

上段に構えた剣の軌道が変わり体勢を崩す
ここに来て相手の作戦を理解した老兵は舌打ちをする

神の加護により、兵士は非戦闘状態の民を攻撃することが出来ない
それは弓等の遠距離攻撃にも反映される
兵士の放った矢は風で飛ばされたのではなく自動的にそれてしまったのだ
つまりこの軍団は民で構成された軍団か!?

「この軍は囮じゃ!急ぎ城に戻れ!」

自分の判断ミスに焦り、体勢を崩したままの老兵の脇腹をピンク髪の女性が蹴とばす

「ぐう!その髪色!姫様!おやめください!」

兵士がフードを引っ張った事によりピンク色の髪が視界を覆う

「あら?・・・私・・・今度はお姫様なのね?」

AKIHOがニッコリと兵士に微笑む

「なぁ!?姫様じゃない!?」

驚愕の表情を浮かべたまま老兵の首が地面に落ちる
AKIHOは大量の返り血を浴びならか不知火の刀を取り出す

『く・・・首狩りだ!』
『首狩りが出たぞー!』

兵士の動揺を見ながらAKIHOはクスクスと笑うと
口を三日月のように歪ませる

「さぁ!楽しみましょう?」

完全に混乱している兵士の首をはねようとAKIHOが刀を振るう
しかしキィンという音と共にAKIHOの刀が虚空を彷徨う

『お・・・おお!用心棒の先生!』

AKIHOは自分の刀を弾いた人物に視線を送る

そこには金髪の和服姿イヌミミが特徴的な剣豪が立っていた

「まさかこんな所でかの剣豪と戦えるなんて!」

AKIHOが不知火の刀を片手に構え陽炎を出現させながら一気に疾風で間合いを詰める
このゲームを始めてこの一撃を躱せた人間はそうそういない

「どう・・・動くかしら?」

剣豪は何をするでもなくAKIHOに笑顔を向ける
何故か胸が高鳴りを感じたAKIHOは剣の動きが鈍り、剣豪は軽く斬撃を避ける

「何を・・・したの?」

返事は無い
剣豪が無言のまま大太刀を振るい陽炎を消滅させる
AKIHOにはその斬撃が・・・見えなかった

この子には勝てない、瞬時にその事を悟ったAKIHO
しかしたった数回の剣捌きを見て何か引っかかりを感じる
この動き・・・確か前に戦ったことがある
剣豪は特に攻める様子は無くフラフラとしている

「な・・・何やってんだ先生!さっさとやらなきゃ約束の飯は無しだぞ!」

動かない二人に業を煮やしたのか、先ほどの兵士が何か言っている
その台詞に剣豪が初めてAKIHOに大太刀を向ける
飯・・・その言葉にアズとの記憶がよみがえる

「あら?もしかして?」

見えない斬撃を、微かに残る記憶を頼りに動きを予測する
鉄がぶつかり合う音と共に剣豪の剣の軌道をそらすと
不知火の刀を上段に構え必殺の一撃を叩き込む
剣豪が目を見開く



剣豪の大太刀が宙を舞い遥か後方に落ちたのだ

今なら!

接近しようとした所を嫌な気配を感じ後ろに下がる
ヒュン!という音と共に今自分がいた所を小太刀が通過する
剣豪はそのままの勢いでグルリと回転してもう一方の手の小太刀を突き出してくる

勝つのは無理・・・でも・・・

一撃を捌き剣豪に話しかける

「君が戦ってるのはアズ君よ?良いのかしら?今後食事を作ってもらえなくなるかもしれないわよ?」

我ながら苦しい発言だ
こんな言葉でこの剣豪が太刀をおさめるわけが・・・わけが・・・
剣豪は大太刀を兵士達に向ける

「な!裏切る気か!」

無言で残りの兵士を真っ二つにすると
剣豪はメモを取り出す

[飯は命より重い]

所変わってもう一つの陽動部隊を任せられているクラウスは、アクアが向かった方向から聞こえてくる戦闘音に、表情を硬くする

陽動作戦の成功に一抹の不安を感じ青髪の男、クラウスはポツリと呟く

「アクアは無事だろうか」

アクアは陽動で西の兵の先頭を任されている
非戦闘状態の民に兵士は攻撃する事が出来ないのは知っているが
それはそれとして親として心配なのである
西の空を見上げながら再度溜息をすると、クラウスの応戦している貴族が眉間に皺をよせて叫ぶ

「おいおいクラァァァウス!裏切り者のクラァァァウス!」

目の前の貴族が地面を剣で叩きながら他の兵士を差し向ける
相手の兵士の数は30人くらいで今も尚増えている、対するクラウスの陣営には2人しかいない

「俺様はよぉ?すぐにわかったんだぜぇ?裏切り者のクラァァァウス!」
「ええ、私に近しい人物ならあの程度の変装すぐに看破したでしょうね」

丸腰のクラウスに近づいてきた兵士が斬りかかってくる

「・・・・ぬぅん!」

クラウスに同行していた海王が掛け声と共に斧を振るい兵士が宙を舞う
周りの兵士達が地面に落下した兵士達を見て歩みを止める
しかしそんな様子を見ても貴族は全く臆する事無く更に兵士を差し向ける

「ずっとこの時を待っていたんだぁ!クラウス・・・貴様を殺す大義名分を得る機会をなぁぁぁぁ!」
「ええ、上手く釣られてくれて助かりましたよ」

おかげで作戦が上手く進む
クラウスが無表情で貴族を見つめる中、新たな兵士がクラウスに斬りかかる

「・・・・ぬぅん!」

新たに投入された兵士が宙を舞いHPゲージを白く染める
たった二振りで6人の兵士を屠った海王と全く動じないクラウスに、貴族以外の兵士達が距離をとる
クラウスは海王に守られながら貴族に問いかける

「このままいけば君達が全滅するだけだと思うが?」
「っは!馬鹿じゃねぇのか?」

貴族が指を鳴らすと更に兵士が追加される
中には今回の目的の一つ、王国近衛兵の姿も見える
貴族には最低三人は専任の近衛兵が着任する
つまり貴族一人につき三人の近衛兵を城から引きはがせるのだ

「・・・近衛が出て来た・・・クラウス・・・下がれ・・・」

クラウスは海王の言葉に頷き後方に下がる
クラウスが下がったのを確認した海王は近づいてきた近衛兵に斧を振るう
剣と斧が衝突してけたたましい音が鳴り響く

「・・・・ぬう・・・」

三人の王国近衛兵は吹き飛ばされる事無く海王と討ち合いを始め、たちまち拮抗状態に陥る
海王と近衛兵の戦いの最中にも兵士はどんどん増えていく

今や三桁はいるのではないだろうか
しかしクラウスの所まで到達した兵士はいない
いつまでたってもクラウスに兵士が届かない事に貴族が苛立ちをあらわにする

「おいおい!クラァァァウス!後ろで守られてばかりで情けねぇなぁ!」

貴族が挑発してくるが、クラウスが前に出る様子は無い
クラウスは「やれやれ」と両手を広げると、上空を見上げる

「私達は戦闘は専門外ですからね・・・私達は私達の戦いをしましょう」

近衛兵と海王の戦いを避けて兵士が接近してくる
クラウスは涼しい顔で腕をあげると大量のRが屋根から降って来る
唐突なRの雨に貴族は大口を開ける

「あぁ?金?」
「ええ、金です」
「まさかこの期に及んで命乞いかぁぁぁ?クラァァァウス!」

貴族は血管が切れるのではないかというくらい叫び声をあげ憤怒の形相でクラウスを睨む
クラウスは「まさか」と軽く笑うと金貨の中を歩きだす

『か・・・金だ・・・・!』
『お・・・俺のだ!』
『馬鹿言え!これは俺のだ!』

クラウスを討つ絶好のチャンスだった兵士達は金に目がくらみ
その場で四つん這いになってRを搔き集め始める
それどころか、Rがばら撒かれた事により仲間割れが始まり、貴族の周りに兵士がいなくなる

「ちぃ!金で雇った兵士はこれだからよぉ!?」

貴族は金を集めるのに必死になっている兵士を蹴り飛ばすと
金を集めていない兵士で自分の周りを固める

「は!そんな小細工程度で俺様の忠実な僕を全員足止めできるとでも思ったか?」

貴族の周りの兵士が剣を構える
だがクラウスの歩みは止まらない
手を伸ばせば届きそうなくらい貴族とクラウスの距離が縮む
貴族は勝ち誇った顔でクラウスを見下ろす

「はん!これで終わりだ!」
「ええ・・・終わりです・・・私の勝ちのようですがね?」
「なぁぁぁにぃぃぃ?」

貴族の口から赤い液体が噴き出る
貴族は何が起こったかわからず呆然と手についた赤い液体を眺める

「あ・・・?なんだ・・・これ・・・?」
「簡単な事です、あなたの周りの兵士は・・・全員買収済みです」

意味が理解できないといった表情のまま、背中から串刺しにされた貴族は痙攣しながらその場で倒れる
貴族が倒れた事により戦意を喪失した近衛兵を海王が吹き飛ばす

「・・・まず一人・・・」

海王の言葉に頷き街道に目をやると、新たな貴族と近衛兵がこちらに走り寄ってきている

アズ君達が向かった方向からも戦闘音が聞こえてきだした

「子供達は・・・無事だろうか・・・」

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