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第六十六章 グレイ観察日記

今日も朝から平和な木漏れ日荘
のほほんとした空気の中、トーストを頬張るグレイを見る

「なぁグレイ?ちょっと脱げ」
 「!?」

アホ面をかますグレイを無理矢理むこうとした所をアレクとルピーが止めに入る

「アズ!?流石に金が無いからと言って体で払わせるのはどうなんだ!?」
[グレイお兄さんは美味しくないと思います]

・・・?ああ!少し言い方が悪かったな
納得した俺は改めてグレイのほうに向きなおる
 グレイはカタカタ震えながら「やめて!乱暴する気でしょう!エロ同人みたいに!」と叫んでいる

「悪い悪い・・・グレイ?服を脱げ!」

 叫ぶグレイから無理矢理剥ぎ取り
 グレイは部屋の隅でシクシクと泣き
 アレクは顔を真っ赤にして顔を覆っている
 ルピーに関してはいつも通り至福の表情でご飯を食べている
俺はシクシク無くグレイの・・・服を見ながら唸る

「やっぱこれかなり良いやつだ・・・金も無いのになんで装備はいつも良いやつなんだ・・・?」

そう、彼は期待を裏切らない人物だった
クラーケン戦で得た報酬の1000Rは見事カジノで使い切ったらしい
 俺の発言に得心が言ったアレクが頷く

「確かに・・・これはかなりの上物ですね・・・」

 今更になって家にいないときのグレイの生態が気になった俺は後をつけてみる事にした

          ◇

木漏れ日荘を出たグレイの後をつけ物陰に隠れる
今日は探偵帽にサングラスをかけて変装してきている
そこら辺に漂う緑の発光体、風精霊を鷲掴みにすると
最近編み出した新技の実験を開始する

「こちらアズ、目標は現在酒場にて掲示板を見ている模様」

手元の風精霊に声を吹き込むと、同じく他の物陰から対象を確認しているアレクのいる方向に飛ばす
風精霊が飛んでいった後、しばらくすると同じようにこちらに風精霊が飛んでくる

『こちらアレク、この距離でこの伝達の意味はあるのか』

もちろんある
精霊が見える者同士にしか使えないこの技だが、チャットが使えないNPCでも使える
今はまだ普通に叫んだ方が早いレベルだが、きっとその内トランシーバー並みの術になるはずだ!
目を輝かせて新技の将来性に胸を躍らせていると
いつの間にか隣にきていたアレクが俺の子脇を突く

「ひゃい!?」
「アズ!グレイが貧民街に向かっているぞ!」
「・・・ああ・・・尾行を続けよう・・・」

口をムニムニさせながらアレクと共にグレイの後を追う
しばらく貧民街を歩くと
小汚い酒場の前でグレイが立ち止まる

「アレク!ストップ!・・・あれは・・・」

酒場の中から女が出てくるとグレイに近寄り胸を押し付け頬にキスをしている

「あああああアズ!?僕達はここで引き返した方が良いんではないだろうか!?」

どうやらお子様には刺激が強かったらしく
耳まで真っ赤にして顔を覆っている

「落ち着けアレク、よく見てよく聞くんだ」

俺の言葉に冷静さを取り戻したアレクが静かに二人の話を盗み聞く

「あぁん、私も今月ピンチでねぇん・・・ごめんねぇんグレイ・・・」
「いいよいいよ!気にするなって!そんなにピンチなら今度俺が飯おごるからさ!」

そう言って女に別れを告げて路地裏に入っていくグレイの後を追う
グレイは路地裏の小石を蹴って何やらぼやいている

「っち!あの女はもう駄目かもしれないな・・・」

いや・・・駄目なのはお前の頭の方じゃないかな?
アレクが俺の袖を引っ張って来る

「アズ・・・大人はああも狡猾なものなのか・・・?」
「大丈夫だ、あいつは人一倍クズなだけだから」

 俺のフォローにアレクが愕然としているが今はグレイの追跡が優先だ

 所変わって露店通りに来たグレイはどこかで見た事のあるような冒険者に金をせびっている
あれはグレイと知り合う前にグレイを取り巻いていた連中だっけか?

「なぁなぁ頼むよ~昔馴染みだろ~?」
「いやいや・・・ひっきーもいい加減30代だろ?そろそろまっとうに稼ぎなよ」
「30代なんてー・・・俺ってそんな老けて見える?」
「いやレベルの話だから」
「だよねー!知ってた!レベルの話だよねー!HAHAHA!」
「HAHAHA!」

グレイは冒険者と笑いながら別れの挨拶をすると再び路地裏に入る
そんなグレイは路地裏でバケツを蹴っていた

「くそ!あいつはもう駄目だな!」

いや・・・駄目なのはお前のほうだと思うぞ?
軽蔑の眼差しをグレイに向ける俺の袖をアレクが引っ張っている

「アズ・・・人はああも簡単に友を裏切るのか・・・?」
「いや、あいつが人一倍ゴミクズなだけだよ」

優しく笑みを浮かべ、頭を撫でてグレイの後を追う
後ろのアレクの表情が絶望に染まっている気がするが気のせいだろう


所変わって貴族通り
グレイは大きな屋敷の前で深呼吸をして入っていく

「こんな大きな屋敷に知り合いが・・・?」
「アズ・・・いい加減やめないか?僕はこれ以上知ってはいけない気がするんだ」

 弱気になるアレク、だが毒もくらわば皿までともいう
庭園が広いので中の声は聞こえないが・・・
俺は門の外からチラリと中の様子を伺う

グレイは土下座をしていた

「なにやってるんだあいつ?」

まさかゴミ以下を見る目線があるなんて思いもよらなかった
俺が絶対零度の目を向けているとアレクがおずおずと手をあげる

「アズ・・・グレイはまさか・・・盗みに入ったのでは・・・」

いやいやいくらあいつがゴミクズ糞野郎でもそこまでは・・・
まさかまさかとグレイと衛兵に視線を向ける

衛兵が槍をグレイに向けている
急ぎ土下座するグレイの頭を地面にこすりつけて俺も一緒に土下座する

「うちの子が申し訳ありません!どうか命だけは!」
「ぶへぇ!?アズ!?何しやが!ぶへぇ!?アズさ・・・ぶへぇ!?」

 何度もグレイの頭を地面に叩きつけていると
騒ぎを聞きつけたのか屋敷の主人が現れる

「何事ですか・・・アズ君?」
「申し訳あ・・・・クラウスさん?」

そこには珍しく驚愕の表情を浮かべるクラウスさんがいた

「おいグレイ、まさかお前クラウスさんにまでRをかりてないだろうな」

グレイが視線を明後日の方向に向けて口笛を吹く
今度はクラウスさんを見る

「クラウスさん、このゴミにいくら貸してるんですか?」
「いやいやアズ君・・・彼は・・・その・・・」

珍しく歯切れが悪いクラウスさんに無言の笑みを浮かべる

「かしてなんて・・・いないよ?」
「本当は?」

クラウスさんが押し黙る

「さ・・・三百Rだ・・・」
「クラウスさん、本当は?」

クラウスさんは「まいった・・・」と一言

「三千Rだよ・・・」

この日グレイ死に戻りしたあげく野宿をすることになるのであった

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