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第五十五章 剣の道

BGOからログアウトした俺はカロリーメイトを口に含む
夜のとばりが明け、外は明るくなっている

「やっべぇ・・・徹夜しちまった・・・」

           ◇

日差しが眩しい夏の一日
登校中の俺の視界に心配そうに顔を覗き込むふるやんがうつる

「もしかしてクラーケン戦で何かあったん?」

最近こいつは何かと俺に対して過保護になってないか?
リポビタを一気に飲みゴミ箱に捨てる

「いや・・・単純に木漏れ日荘の厨房作業で徹夜してさ・・・」
「心配したわいがあほやったよ」

ふるやんが頭を抱えている
俺は友人がゲームとリアルの境界があやふやになっていることに頭を抱えたいよ

ふるやんと二人たわいない話をしながら登校する
学校に着いた俺達は各々の席に荷物を置く

『あ!またあの子来てる!』
『ほんとに青葉なんじゃない?』
『いやいや!アニメの見過ぎだって』

そんな会話が耳に入って来る
やっぱりまだ信じてもらえてないか

「これが当たり前の反応やってことやね」

頭をポンポン撫でるふるやん

『古川のやつもしかして・・・』
『ロリコンだな、いやショタコンなのか?』
『どちらにせよ犯罪者』

「なんでや!?」

涙目になりながらクラスメイトに突進していくふるやん
正直俺より彼のこれからの人生のほうが心配なんじゃないだろうか
クラスメイトとじゃれるふるやんを見ながら輪に入れない自分に溜息をつく

キーンコーンカーンコーンと、聞き飽きた授業終了のベルが鳴る
結局今日も一日誰にも話しかけられなかった・・・
陰鬱な気分で帰宅しようとする俺に学友が話しかけ来る

「青葉・・・?」
「ひゃい!?」

思わず変な声が出てしまった
話しかけてくれた学友は何かまずい事でもしたかな?と首をかしげて教室の入り口を指さす

「あの子が呼んでるよ?」

教室の入り口には見慣れぬ女生徒
黒髪ロングのお姫様カット、両手でカバンを持ちこちらを見ている
近寄りながら女生徒を観察するが少なくとも俺の交友関係の中にはいないはずだ
警戒する俺に彼女は笑みを浮かべる

「ねえ君?」

でもどこかで見たことあるような気がするんだよなー

「この前は助けてくれてありがとう」
「ああいえ?どういたしまして?」

誰かもわからないまま適当に相槌をうつ
やっぱりどこかで知り合ったのか?
頭を悩ませていると女生徒は無遠慮に俺の腕を触りだす

「君・・・体格の割に力あるよね?」
「えっと!?鍛えてるので」
「ふーん・・・」

俺の反応にクスクスと笑い女生徒が体を離す

「私、香月秋穂(かつきあきほ)っていいます、君・・・剣道に興味無い?」
「いいえ、ないです」

          ◇

条件反射で勧誘を断った俺は剣道部にお邪魔している
拒否権?なかったよそんなもの
そしてなぜか竹刀を握らされている

「まずは君の実力を再確認させてほしいな」

香月さんが竹刀を構える

「いやいや!?なんでこうなったの!?おかしいでしょう!?」
「私は君が欲しいかもしれないの」

目の前の人物が何を言ってるかわからない!?
問答無用で襲ってくる竹刀を捌く

「へぇ・・・やっぱり!私の初撃を捌くなん・・てぇい!」

横薙ぎの一閃を大きく飛びのきかわした俺は大声で対話を求める

「ねぇ!?俺達話し合いの余地があると思うんだぁ!?」

最後まで言う前に地面に着地した俺の頭上を竹刀が横切る

「もう話し合いで解決できる段階じゃないわ!」

なんで修羅場みたいになってるの!?
困惑する俺に対して一つ二つと斬撃が襲う
香月さんはギリギリの所で捌く俺を見て楽しそうに笑いだす

「やっぱり!すごいすごいすごい!あはははは!」

三つ四つ五つ
反撃に竹刀を振るうが彼女の姿がブレて上手く当たらない
尚も困惑する俺に対して斬撃の鋭さはどんどん増していき比例するかのように彼女の笑い声も増していく

「あはははははは!これはどうかな!?」

彼女の竹刀がブレるとまるで無理矢理竹刀を叩き落とされたような痛みを感じる
なんだ!?
次の攻撃を捌こうとして手に違和感を感じる
竹刀が・・・ない!?
周りを見渡すと俺の竹刀は宙を舞っていた

「これで!おしまい!」

眼前に彼女の竹刀が迫る
ドクンドクンと心臓が脈打つのを感じる
香月さんの本気の剣術を見た俺は・・・
楽しいと、勝ちたいと思ってしまった

リアルでは使わないようにしていたゲームの力を使ってでも

思った瞬間には風を纏い自身がブレるほどの勢い彼女の後ろをとる
ただの人間には到底できない速さで動いた俺を見て彼女は喜びで顔を綻ばせる

「今のは・・・縮地!?」

いいえ!精霊術です!
彼女の発言を無視して宙に吹き飛んだ竹刀を取りに飛翔する

「今度は舞空術!?」

いいえ!精霊術です!
吹き飛んだ竹刀を手に取り重力に身を任せてそのままの勢いで彼女の竹刀を打ち砕く・・・

痛みに顔を歪める彼女が視界にうつる

「すみません・・・やりすぎました・・・」

真っ青になりながら竹刀を地面に放り投げて両手を挙げる
香月さんはうつむいてブルブル震えている
やりすぎた・・・おそらく彼女には剣道に対して相当なトラウマを与えてしまったに違いない
なんとかしないと!
そう思い香月さんに話しかけようと近づいた瞬間満点の笑顔が視界を埋め尽くす

「やっぱり君の才能は本物だよ!不良から助けてくれた時の動きは本物だった!」

目をキラキラさせてこちらを見る彼女を見て・・・
不良・・・?ああ・・・商店街の帰り道に助けた子か・・・
どこで会った子か思い出した俺はゲンナリした顔で勧誘を断る

「いいえ、ないです」
「剣道部主将として君が欲しいわ」
「部活なんてしてる暇があったら俺はBGOをしたいので」
「BGO・・・?」
「ゲームです、それじゃあさようなら」

風を纏ったまま高速で逃げ出す
追いかけてくる香月さんが見えないところまできて俺は溜息をつく
今度こそ大丈夫だろう

「しかし・・・人ってあんなに速く動けるんだな・・・」

改めて香月さんの身体能力の高さを思い出し感慨にふけるのであった

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