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第三十三章 木漏れ日荘の管理人


 「なんじゃこりゃぁぁぁ!」

 夏休みもあと一週間
アズ事俺、青葉大和は朝から叫びながら部屋のスタンドミラーにへばりついている

「え!?は!?なにこれ!?」

 鏡の中の自分の姿を再度確認する

青色の髪に金色の目、背が縮み小学生ぐらいの身長になっている
顔立ちは元々中性的だったのもあり、男か女かわからないくらいだ

「・・・BGOのアバター?夢・・・じゃないみたいだし」

 叩いて痛む頬を撫でながら深呼吸
 どうみても最近ハマッてるフルダイブ型オンラインゲーム
BGO(BioGraphyOnline)のキャラクターの姿である

「ゲームにログインしたままとか?」

 普段ゲームでするようにメニューを開こうとするが出てこない

 メニューは出ない、当たり前かな?
じゃあ・・・

目を閉じゲーム内のスキルを思い浮かべる
今回使ったスキルは精霊術
 精霊を視る事が出来るようになり、精霊を意のままに操る事ができる

目を開けると見たことがない精霊が空中に浮かんでいる

「おかしいな・・・すでにおかしい状態ではあったけどさ」

ゲーム内と違う所は精霊を視てもその精霊の種類がわからない事だろうか

「ゲームのやりすぎかな・・・俺も末期患者の仲間入りか・・・」

見えない物が見えますとか病院行きだろうなと
ぼーっとしているとお腹がなる
そういえば昨日は晩御飯も食べていなかった
枕元に置いていたカロリーメイトを取り出すべくベッドに登ろうとした所で
着ているダボダボになったシャツを踏んでベッドに倒れる

「なにがどうなってんだ・・・」

 呟きながらうつ伏せのまま手探りでカロリーメイトを探していると
首元を掴まれたように後ろに引っ張られる

「姉さん!?部屋に勝手に入ってくるとは!ぼっこぼっこにしてやんぜ!」

 後ろを振り向き様に慣れた手つきで拳を叩き込む

 ボフッ

「ん?いくら姉さんのお腹が柔らかくなってもこの感触は・・・」

 目の前には熊のぬいぐるみジロー・・・を成人男性並みのサイズにした物
どうやら首根っこを銜えて俺を起こしたようだ

「質量を持った幻?」

キキッという声と共に肩の上にカロリーメイトを食べながらサルのぬいぐるみ、アルが残りのカロリーメイトをこちらに差し出している

受け取ったカロリーメイトを食べながらベッドに仰向けになる
夢でもゲームでも幻でも無いとなると・・・

「ここが現実で、俺がゲームの中のキャラになってる」

その非日常的なワードが一番しっくりくる

「俺一人じゃどうにも出来んなこれは・・・」

ダボダボになったシャツのままジローを背にして姉にLINEを送る

『俺はしばらくゲームの民になる、ご飯は部屋の前に置いといて』
 『寂しいけどわかったよー、気が向いたら食べに降りてきてね?』

 俺の事だからいつも通りゲームに夢中で降りてこないと思ったのだろう
今はその勘違いが助かる
 しばらくしたら戻るかもしれない
姉からの返信を見ながらヘッドギアを被る

「今日は大型アップデートの後だし、楽しみだ」

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<アップデート内容>
ゲーム内とリアルの時間が連動、それに伴い天候、時間の概念が実装(夜は危険なモンスターが出現します
NPCの無限POP、街の自動修復システムが無くなりました
一部現実世界の道具をアイテムとして実装致します
…etc
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アップデート内容を確認の後、ログインした俺は木漏れ日荘の入居者の朝食を作る為、割烹着を装備する
生産職装備が割烹着しかない以上これを着るのは必然である

調理場に向かう最中洗面所で水色の髪、水玉ワンピの女の子が抱き着いてくる

「あずちゃんあずちゃん!おはよー!」
 「おはよーアクア、今から朝食の準備するからホールと外の掃除お願い」

わかった!と寝ぐせをそのままに笑顔満点で外に出ようとするアクアを引きとめる

「まったまった、寝ぐせを直すからちょっとこっちに来なさい」

 水精霊でアクアの髪をしめらせながら風と火精霊で簡易ドライヤーをかける
洗面台の櫛で髪を梳いているとアクアがニヤニヤしている

「アクアさんアクアさん?今日はご機嫌だね?」
 「うん!昨日家族がいっぱい増えたからね!」

なるほど住人は皆家族ということか
頷く俺をアクアがジーっと見つめる

「それに・・・」
「それに?」
「ううん!なんでも無い!」

アクアは心底嬉しそうに髪をとかれている
なんだってんだ
髪がサラサラになったのを確認してアクアの頭をぽんぽんと撫でる

「じゃあ掃除お願いね?」
 「がってん招致の助!」

アクアの元気な返事を聞きながら付き合う相手を改めさせる必要性を感じる
住人の金髪っ子にも悪影響を及ぼすかもしれない

「しかし・・・」

 今回のアップデートでNPCの無限沸きは無くなった、もしアクアのHPが0になったらどうなるのだろう
一抹の不安を残して調理場に向かう

調理場でサンドワームをライス風にして炊きながら
ジン魚の稚魚でだしを取る
しっかりだしが取れたジン魚を触手部分だけ取ってそのまま火精霊で炙り焼き魚にする
触手部分はお昼にソーメンに使う為に冷水につけておく

「日本人の朝食といったらこんな感じかな?」

 <ワーム飯>
 満腹度+30 力+1
<魚スープ>
 満腹度+20 知力+1
<魚の炙り焼き>
 満腹度+25 知力+1

満腹度をMAXにしないのは食べきれない可能性があるからだ
 お残しはゆるしまへんで?
 苦笑しながらアイテムストレージにしまい住人のログインチェックを行う

「今ログインしているのは・・・グレイだけか、流石にはやいな」

 宿屋に泊まるだけでレベルが最前線プレイヤーと肩を並べる事はある、ログインするのも早い

今までフレンドではないグレイの情報は無いに等しかったが
 グレイが木漏れ日荘の住人になった事で知らない人以上、フレンド未満の最低限の情報が手に入るようになった
今木漏れ日荘内にいるかもある程度わかる

 グレイの部屋の扉の前でオタマとフライパンをクロスさせカンカンカンと金属をぶつける音を鳴らす

「おいグレイ、朝だぞ!木漏れ日荘ルールそのいーち!ご飯は一階で食べましょう!」

 今作ったルールを読み上げながら扉を叩く
返事がない、ただのひっきー部屋のようだ

木精霊で鍵を作り扉の鍵を開けて中に入ると
緑髪のイケメンがジャージ姿のまま目を見開いてこちらを見ている

「なんだいるじゃないか肉か・・・グレイ」
 「ちょっとー!?何勝手に入ってきてんの!?アズさん!?なんで縄持ってるの!?」
 「うちのご飯は一階で食べる、降りてこないなら無理矢理に・・・というルールを今作りました」
 「横暴だ・・・!断る!俺は部屋から出ないぞ!」

ベッドに大の字で横になり意地でも動かない様子のグレイ

「良い覚悟だ!いけ!ジロー!」

アイテムストレージからジローを召喚してグレイをベッドから引き離させようとする
 だがグレイは微動だにしない

「甘いよアズさん!いつまでもジロー君に負ける程やわじゃないのさ!」

なん・・・だと・・・
今までHPしかなかったと言えるグレイがジローの力では動かせなくなっている
 ジローの力は15
それ以上の力を手に入れたというのか!?

 「はっはっはー!諦めるんだアズ!さぁ扉の前にご飯を置いて・・・アズさん?近い、近いって」

 俺はジローを縄で縛り後方に待機させて空いてる片側の縄でグレイを縛る

「行くぞージロー!」

 綱引きのように二人の力でグレイを引っ張る
 グレイは必死にベッドにしがみつきながら叫ぶ

「ぐおおおお!負けられない!負けれない戦いがここにあるんだ!」
 「なかなかやるじゃないか!グレイ!」

これはもう肉壁呼ばわりはできないかもしれない
 グレイはニヤリと口角を上げる

「ふふふ!アズさんこそ!後衛職の力で高レベルの俺をここまで追い詰めるなんて!」

 叫びながら縄を引いていると後ろから肩を叩かれる
振り向くと金髪サイドを腰まで伸ばし、ボディアーマーを外した和服姿の犬耳っ子ルピー
 アクセサリーの犬耳をぶんぶん回しながらメモを見せてくる

[お腹がすきました!]
「もう出来てるよー一階に集まってみんなで食べよう!」

 再び縄に力を込めてグレイを引っ張るがびくともしない
 まさかグレイがここまで強くなっているとは
 ルピーは俺とグレイを交互に見るとメモを取り出す

[この人がこれば食べれますか?]
「その予定だけど・・・」

ルピーが怨敵を見るような目でグレイに近づいていく

「ふっふっふ!いくら前衛職のお嬢ちゃんでもこの俺はイダダダダダダダダ」

 決め顔を作っていたグレイをアイアンクローで持ち上げてそのまま一階に降りていくルピー
縄を持ったまま呆然としながらつぶやく

「馬鹿力だとは思っていたがまさかあれほどとは・・・」

 最後の住人がログインしている事に気づき部屋をノックするが返事がない
 まさか姉さんが引き籠り・・・?いやないな
大方先に降りて騒いでるに違いない

窓を開けながら一階に降りると
案の定リアル容姿そのままの姉が、白魔導士のローブを着てルピーとアクアに頬擦りしている
 グレイは・・・真っ白に燃え尽きて椅子に座っている

「おはよー!ひろー!」

 俺に気づいた姉がこちらにターゲットを移す
抱き着いてこようとする姉の前にアルを召喚する
姉との距離が縮まった瞬間アルが姉の顔にへばりつき姉がそのまま後ろに倒れる
姉のレベルならアル一匹で事足りるのだ

「ひろのいけずー!ぶーぶー!」
 「歳を考えろ!歳を!」

いつものやり取りをしながら席に座るよう促す
各々席に着いたのを確認してモーニングセットを並べる
 ルピーとアクアは顔を輝かせ
 グレイと姉は目を閉じ手と手を合わせる

「それではみなさん」
 「「「いただきます!」」」

 今日も平和な一日が始まりそうだ

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