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第二十九章 静かな侵食

フワフワした感覚の中
俺は何かに運ばれる感覚に目を開ける
寝落ちしていたのだろうか?
椅子から転がり落ちた俺を小さいジローとアルがベットまで運ぶ、そんな夢を見た気がする


見慣れた天井
昨日は三人に蹂躙された後ログアウト、精神的な疲れでそのまま椅子の上で寝てしまったはずだ
毎日見ている天井を眺める

「やっぱり夢遊病か?ヤバイ」

上体を起こして周りを見るとジローを抱いてベッドで眠っているのだ

伸びをしながら部屋のスタンドミラーで自分の姿を確認
うん!いつもの大きさだ!
ゲーム内では永続的にちっちゃくなってしまった為
現実の姿を見ると安心する

「もしかしたら永続効果ってのも間違いでログインしたら治ってるかもな」

隣の部屋では馬鹿兄のいびきが聞こえる
いつもの如く夜更かししたのだろう
壁ドンをしていびきが止まったのを確認してから一階に降りる

姉が上機嫌で台所に立っている

「姉さんや姉さんや?何か良いことでもあったのかい?」
「あ!おはよー!ひろー!やっぱりいつもの姿も可愛いよー!」

抱き付いてくる姉の腹にブローをいれる

「いた・・・痛いって!地味に痛いんだって!」
「歳をかんがえろ!歳を!」

しかし、ふむ?いつもと若干手応えが違うな、腹の柔らかさがない

殴るのをやめて姉に真面目に言い聞かせる

「姉さん・・・ネトゲを紹介した俺が言うのもなんだけどちゃんとご飯食べてね?痩せてる姉さんなんて嫌だよ?」

姉が目に涙を浮かべて「ひろ!お姉ちゃんの事をそんなに!」と言って再び抱き付いてくる

全く、お腹の弾力が無くなったら殴り心地が悪くなってしまう
されるがままに頷いていると唐突に頭に刺激が走る

「あっ!ひろの若白髪発見ー!」

姉が白髪を抜いたらしい

「ヤメロォ!白髪でも抜かれると痛い時は痛いんだぞ!」
「ごめんごめんー!見つけるとついね!あれ?白髪ってこんな色だっけ?なんか青っぽいけど・・・白髪なんて久しぶりに見たからかなー?」
「謝罪に誠意を感じない!やり直し!」

二人でドタバタしていると馬鹿兄が目にクマを浮かべて降りてくる

「お!太郎兄!珍しく早起きじゃん!」

太郎兄は無言で椅子に座る

「エンドシャドウ!今朝は随分と早いな!」
「朝、大いなる脈動の音で、な」

若干馬鹿兄が睨んできている気がするが気のせいだろう

「しかし!今日は我らの従者が来たる日故!」

馬鹿兄が椅子から立ち上がり全身でポーズを決める

「大いなる脈動による覚醒は必然であったのだ!」
「ところで姉さん朝ご飯まだー?」
「今ちょうど出来たから二人共席についてー」

静かに席に座る馬鹿兄

「そういえば太郎兄の言ってた従者って?」

太郎兄は不貞腐れながらもこたえてくれる

「我らが従者といえばメアリーしかいまい」

ほーっメアリーさんともリア友だったか
昨日蹂躙してきた一人がうちに来るのか
顔を合わせたくないしさっさとBGOにログインしよう
それにしても†断罪者†はリア友で構成されたクランだったんだな

「しかしなんで今日メアリーさんが来るの?」
「よくぞ聞いてくれた!昨日、新たな同胞!サイレントキラーが入ったのだ!あの者の姿を消す能力!まさに†断罪者†の為のスキルであろう!」

姿を消す・・・か
†断罪者†的にアサシン的立ち位置だろうか?
いや、†断罪者†だとアサシンの立ち位置は取り合いになりそうだなぁ・・・
しかし昨日とはまた急な

「メアリーとは入団試験の打ち合わせをすべく我が居城にて会談を設けることになったのだ!」

いつからここはお前の居城になったんだよ
しかしサイレントキラーさんはこんな色者クランに入って大丈夫だろうか?

「せめて入団試験が落ちますように・・・と心の中で祈るばかりだ」
「我が血縁よ?なぜ落ちて欲しいのだ?」

おっと声に出てたか
尚も話を続けようとする馬鹿兄の相手を姉に任せて部屋に戻る

枕元のカロリーメイトを食べながらヘッドギアを装着
最近カロリーメイトの減りが早い?気のせいかな

「さて、今日こそはフーキの試合の応援をしないとな」

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「で?その格好はどうしたん?てかちっこ!」

フーキが笑いを堪えながらこちらを見ている
忘れていた、ログアウトする前メアリーさんの最後に希望した服を着ていることに

あの人すごいんです、姉とルピーが俺を着せ替え人形にしてる間に作ったんですよ
清楚な裾が長くフリルがついたメイド服を!
フーキが笑いを堪えきれなくなってきている
こいつ・・・
俺は声高らかに叫ぶ

「ひどいよお兄ちゃん!この服をプレゼントするからお兄ちゃんって呼んでって言ったんじゃない!」

周りのフーキを見る目がゴミを見る目に変わっている

フーキが慌てて俺の口を塞ぐが逆効果だ
塞がれた口をニヤリと心の中で呟く
ザマァ!

そして爆弾発言投下により、周りにいた冒険者がフーキの周りに集まってくる

「おいそこのあんた!動くな!今GM連れてくる!」
「俺!取り押さえる!」
「お前はそこの嬢ちゃん守れ!」
「「「イエスロリコンノータッチ!」」」

嬢ちゃん言うな嬢ちゃん、あとロリとも言うなこの変質者共が

「お兄ちゃん達!ありがとう!でも邪魔だから失せろ」

周りの冒険者は俺の満面の笑みに鼻血をだして卒倒
これは使えるかもしれない

しかし悪ふざけしていたせいでフィン対†エンドシャドウ†の対戦に間に合わなくなってしまった

結果は・・・†エンドシャドウ†の勝ちか・・・意外だな

メイド服だと目立つしロリコンが集まるので
短パン、厚布の服にレザーベストを着てフード付きのマントに装備を変更

能力は鬼のローブやメイド服より劣るが小学生サイズの防具が市場であまり出回っていない為見た目で選ぶことになった
今度はショタコンが集まりそうやな・・・とフーキが呟いた気がするが気のせいだろう

「フーキが冒険者にからまれたから間に合わなかったじゃないか」
「そもそもの原因がアズやん?しかもその後の装備代まで請求してきよってからに・・・」
 
フーキの財布はまた0Rに戻っている

「それよりフーキの試合間に合うの?」
「ちょうど始まるぐらいやね、ほないこか」

諦めたようにフーキが言うと歩いていく

「おう!・・・ってちょま!」

小さくなったせいでフーキに追いつくことができず転んでしまう

「おぃおぃ!坊主!でぇしょうぶか!?」

手を差し伸べてくる見覚えのある筋肉を見て思わず飛び退く

「?どうしたんでぃ?」

キンニクンさんだ
PVPでフルボッコにされた記憶で思わず体が震える
あと坊主言うなこの筋肉

「わいの連れに何しとるん?」

心配して戻ってきたフーキが俺とキンニクンの間に立つ

「いや、なにもしてねぇはずなんだがなぁ?まぁ良いか」

そのまま会場に入っていった

「なにかされたん?」
「いや・・・PVPでフルボッコにされてちょっとね」
「なんやそんなことかいな、あの人には悪い事したな」

フーキが笑みを浮かべる

「まぁ次の相手はあの人やし、謝るついでに楽しませてもらうで」

今度は転ばないようにジローを取り出して乗ると
若干戦闘狂になりつつあるフーキの後ろをついていく

「あの人かなり強いけど大丈夫か?」
「どんな風に強いかによるよね、フィンさんみたいな特別な能力やと初見では勝ち目ないんやけど」
「普通に早くて強いかな、あと筋肉で目くらまししてくる・・・というか初見じゃなかったらフィンさんに勝てるの?」
「なんや、あんま強そうやないな、フィンさんに関しては†エンドシャドウ†からヒントをもらったんよ」
「ヒント?」
「まぁ勝手に見たっちゅうほうが正しいね」

ますますわけがわからなくなってきた

「じゃあアズが見とることやし、わいの必殺技を次の試合でみせるよ」

フーキがニッコリ笑いながらコロシアムに入場していくのを見届けてから選手席に移動する

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筋肉がテカテカに光るキンニクンの前に立つ

「おっさん!さっきは悪かったで、こっちの勘違いやったみたいやわ」

キンニクンは豪快に笑いながらわいの肩を叩く

「がっはっは!良いって事よ!俺ぐらいでけぇとあのぐれぇのガキは怖がるもんさ!」

良いやつやな、ただ・・・今回は勝ちを譲ってもらうで

「今回の試合、みさせてもらいますよ」

尚も豪快に笑うキンニクンは手を差しだしてくる

「ちったぁやりそうだな!よろしくな!」

握手をしてお互い距離をとる

<トーナメント2日目第二試合始め!>

「キンニーク!ソニックパンチ」

奇妙な掛け声と共にキンニクンが一瞬で距離を詰め腹に拳を突き出す
予想以上の速さだがルピー程ではなく横にズレて避ける

「キンニーク!ラッシュ!」

掛け声と共に連続で拳を突き出してくるキンニクンをいなしながら納得する
あぁ確かにアズとは相性最悪やわ

俊敏値は動体視力等にも影響する、アズは知らんっぽいな
わいの俊敏でこの速度ならアズやと見えんレベルやな
しかも防御が紙のアズやから俊敏特化にちょっと火力があると一瞬で溶けること間違いない
思わず笑ってしまいながらキンニクンにカウンターを決める

キンニクンは後ろに吹き飛びながら油断なくこちらの様子を伺っている

「なるほど!なかなかやるな小僧!だがこれならどうだ?」

豪快な笑みを消して真面目な顔になったキンニクンが、一瞬で間合いを詰めて叩き込んできた拳を受け止める

「なるほど、掛け声は必要無いんやね」
「おぃおぃ!まさか受け止めるとは!恐れ入ったぜ!」
「今度はこっちからいくよ?」

ガントレットに力を込めるとキンニクンは大胸筋を突き出してくる

「キンニーク!フラッシュ!」

掛け声はいらないだろうに、苦笑しながらも暗闇状態で何も見えなくなる

「俺相手によくやったぜ!だがここまでだ!」

近くでキンニクンが拳を振り上げる音が聞こえる

「今度はこっちのばんやって言ったやろ?」

暗闇状態でキンニクンの緩みきった腹にガントレットを叩き込む
ドサー!という音と共に暗闇状態が解ける

「がぁっ!なっ!なんだとぅ!?」

驚愕をあらわにするキンニクンに笑顔を向ける

「えーと、こうやったかな?キンニーク!ソニックパンチ!」

息を整えているキンニクンに追撃を加える
キンニクンは何が起きているか全く状況が掴めていないようだ

「これで最後やで?キンニーク!ラッシュ!」

キンニクンよりも遅いが、重さの乗った拳で一気にHPを削る

<YOU WIN!>

「まぁこんなもんやろうね」

フーキは苦笑し選手席で馬鹿面をしているチビッ子の方へと向かうのであった

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