シニガミヒロイン~プロトタイプメモリー~

山本正純

第10話 2回目の投票

一方、真紀の後姿を確認した谷村は黒墨と顔を合わせる。
「黒墨さん。ちょっと森園さんについて聞きたいことがあります。黒墨さんは休憩時間の度、森園さんに会いに行っていたようですね?」
「だから何?」
「彼女から何かを聞いていないかと思ったんだけど。例えば学校裏サイトの管理人についてとか。あの通り魔事件の日の昼休み、森園さんは珍しく携帯電話で裏サイトを閲覧していたんだ。真面目な森園さんが、校舎内での携帯電話の使用は禁止っていう校則を破るなんて珍しいと思いました。このゲームのプレイヤーの人選って学校裏サイトが関わっているんでしょう。だから、何か関係あるんじゃないかって思ったんです」
事実を積み重ねて新たな事実を聞きだそうとする谷村に対して、黒墨は首を横に振った。
「今は言えない。私に協力してくれたら話す」
「何をするって?」
谷村の聞き返してきた声に反応した凛は、彼に頼んだ。



第二ターン開始直前、ラブは教室に戻ってきた。室内には七人のプレイヤーたちが集まっている。ラブは彼らの方へ視線を向け、一回だけ手を叩いた。
「皆様。第二ターンの始まりです。次のターン開始までに一人でも脱落したら、スケジュール変更で夕方までに帰れますよ。ということで二回目の投票タイム開始……」
「ちょっと待った!」
ラブのアナウンスは、東の一声によって遮られた。ラブは首を傾げながら、東に尋ねる。
「何でしょう?」
「恵美はゲームの様子を見ているのか?」
「気になります? もしかしたら見ているかもしれませんね。それどころじゃないと思うけど」
直感的に恵美に危害が及んでいるのではないかと思った東大輔は激怒した。
「お前、恵美に何をした!」
「そんなに気になるのなら、ゲームをクリアしてくださいよ。もしくは仲良く脱落するか。いずれにしても彼女に会うことは可能です。といことで、ゲーム開始です」
質問コーナーは打ち切られ、二回目の投票が始まった。凛と吉川はお互いに視線を合わせ、端末を操作する。丁度同じタイミングで東も端末に触れる。次々に動き出すプレイヤーたちの中で池澤は悩んだ。
彼が迷い込んだのは、協力と裏切りの狭間。
前回自分を追い詰めた黒墨凛を倒すために協力するのか。それとも何もしないことを選び、東を裏切るのか。
山吹の「見損なった」という言葉が、池澤の頭から離れない。このまま東に協力してしまえば、彼女は自分を幻滅してしまうだろう。
それだけはどうしても避けなければならない。
いずれにしても、東と山吹のどちらかを裏切らなければならない。悩み続け周りが見えなくなった時、誰かが池澤文太の右手を掴んだ。
横を見ると、そこには顔を赤くした山吹日奈子が立っていた。無言でジッと彼の顔を見る山吹。そんな彼女の顔を見ていたら、裏切りはどうでもいい悩みに思えてくる。
池澤は少しだけ頬を緩め、アイテムを買わずに投票ページに進んだ。
そうとは知らない東は、充血した目で余裕そうな黒墨の顔を見つめた。これで恵美を脱落させた凛を追い詰めることができる。そう思いながら彼は、バンクで池澤にハートを二個だけ預け、凛のマニフェストをライターで書き換える。
この時、彼は違和感を覚えた。
『黒墨凛のマニフェスト』
① 山吹日奈子にジュースを奢る 0~1票
② 椎名真紀に昔話をする 2~4票
③ 黒墨凛を褒める  5~7票
④ 蒼乃恵美に顎クイする 8票以上。


違和感の正体は一目瞭然だった。凛のマニフェストは、どういうわけか同姓と絡む物になっていたのだ。一体何が起きているのかと東は首を傾げたが、今はどうでもいい。東は作戦通りに『黒墨凛を褒める』というマニフェストを『東大輔に赤いバラを送る』に書き換えた。


東が端末を使い凛のマニフェストを書き換える三十秒前、凛と吉川は池澤を脱落させるため動き始める。まずは凛がシャッフルを使う。すると端末が二分割され、右側に四つの数字が降られた裏向きのカードが四枚。左側に表向きで自分のマニフェストが書かれたカードが四枚だけ表示されていた。
「さあ、始めましょうか? お目当てのカードは三番ですよ」
凛の事前告知を聞き、吉川は安心しきり笑みを浮かべた。
「そうか。こっちは準備完了だからな、早速頂くとするよ。こっちは二番を選んでくれ」
お互いに欲しいカードを選択して交換成立のはずが、吉川は画面に表示されたカードを見て、両目を大きく見開いた。
『黒墨凛を褒める』
交換されたマニフェストを読み、吉川は黒墨凛を睨み付けた。
「お前、まさか俺を裏切ったのか?」
怒りを買った凛はクスっと笑う。
「愉快。谷村君と組んだ方が面白い」
「何だと!」
「まず先生は、リプレイで蒼乃さんに関するマニフェストをキープ。次に私がシャッフルで標的の池澤君に関するマニフェストをプレゼント。三番目の手順として、先生が池澤君を標的にして、現段階のマニフェストをコピーさせる。後は私がアップで得票数を二倍にして、四票投票すれば終了。池澤君は自作自演を余儀なくされて、マニフェスト未達成で脱落。仮に六票以上獲得したら、脱落した蒼乃さんに関するマニフェストをやらなくてはいけなくなって、同じようにゲームオーバー。先生は恥を捨てて男子と絡めばマニフェスト達成。独創的な作戦だけど、面白くない」
「面白くない? まさかそんなことで俺を裏切ったのか?」
「それは誤解。この作戦聞いた時から裏切るつもりだった」
凛は無表情でジッと吉川の顔を見た後で、彼の耳元で囁いた。
「これはあなたの罰」
裏切りによって絶望した吉川先生の顔を、横眼で見ていた凛は、視線を端末に表示された自分のマニフェストに映した。
「やっぱり」
そこに映し出されていたのは、『東大輔に赤いバラを送る』という公約だった。

          

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