現実逃避から始まるメンヘラ狂騒曲

片山樹

8

 赤と青と白の自販機があった。
どの自販機を選ぼうと俺の一生にはあまり関係の無いことかもしれないけれど、白には1本買うごとにルーレットが発生し、見事ゾロ目にすることができれば、当たりでもう1本買えるらしい。つまり、当たればお金を節約できるというわけだ。しかし、白は品揃えが悪く、有名会社では無いコーラやソーダという缶ジュースしか無い。
正直飲んだことが無いので味は保証できないし、何よりこういうのは地雷が多い。
それに大抵のスーパーに行けば、1本30〜40円程度で買えそうである。それに120円もかかるのならば、普通に赤か青の自販機の缶ジュースを買うのが得策だろう。
 しかしルーレットっていうのを試したいお年頃なのである。
 さて……どうするものか。

「ゆうとぉ〜。早くしてよ!」
 自転車の荷台に座っている美穂が言った。
ドンドンと足音を立てて、早くしろと警告している。後ろをちらりと確認すると、顔を膨らませた彼女の姿があった。
 正直、めちゃくちゃ可愛かった。

「ちょっと、待ってろって」
 腕組みをして、もう一度考える。

「わたし、コーラでいいからさ」
 面倒くさそうな声で彼女が言った。
喉がかなり乾いているのだろう。

 それより、美穂はコーラか。
ここはやはり、コ○コーラさんに頼むとしよう。

 そう思い、俺は赤の自販機に五百円玉を入れる。

一つはコーラを。もう一つはファ○タグレープを買った。
 そしてもう一度ペダルを漕ぎ始める。


 家に辿り着くとそこには人影があった。

 あれ……誰だ?

「待っていましたよ。悠斗君」

 そこに居たのは俺の憧れの人だった。
俺をドン底の世界から救ってくれた人と言っても良いだろう。もう、本当に感謝の言葉しかない。

 そんな彼女が何故ここに?

「どうしたんですか? こんな夜遅くに……桐桜先輩」

 先輩に喋りかける。
美穂が俺のシャツの裾を握りしめている。
どんな意味なのかは分からない。

「悠斗君に実は相談があるんです」
 暗くてあまり先輩の顔が見えなかったが、彼女が本当に何か悩みを抱えているということは声色ですぐに分かった。それほど声に思いが篭っていたのだ。

「あの……こんな所で立ち話もアレなんで、俺の家に入りませんか?」
 家を指差しながら、彼女に問う。

「えっ……? いいんですか?」
 先輩が手で口を隠す。大袈裟だな。

「いいですよ。とりあえず、家に入りましょう」

「あのおひとついいですか?」
 先輩が微笑んだ。ニコニコといつも以上に笑っているので怖い。俺の気のせいだよね?

「なんですか? 先輩」

「あの……後ろにいる方は?」
 更に先輩のニコニコが酷くなった。
作り笑いって感じがする。

「あぁー、こいつは」
 従妹です。
と、俺が説明する前に美穂が俺の前に立って、腰に手を当て、先輩を挑発するかのように言う。

「彼女です」と。

 その瞬間、先輩がとっても怖い顔で微笑んできたけど、俺はそれを無視して家の中へと先輩を紹介した。

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コメント

  • ノベルバユーザー232154

    あらすじ
    再開→再会です。

    1
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