現実逃避から始まるメンヘラ狂騒曲

片山樹

1

 視界は赤電球が点いてる程度で薄暗かった。
おまけに手と足を紐で結ばれ身動きが取れない。
口にはガムテープを貼られ、助けての声も出ない。
俺は上半身裸にされ、その上に少女が跨がっている。
ベットの片隅に少女が脱ぎ捨てたスカートとパンツがある。つまり彼女は下は履いていなかった。
自分のシャツとは違い、大きいシャツ(俺のシャツ)を着ている少女は嬉しそうに腰を揺らす。
その動きに合わせて、俺の身体も揺れた。

狂気に満ちた彼女は俺の口にカッターを向けて叫んだ。
「ねぇ、私とキスしようよ」
 ガムテープがカッターで切れ、声が出せる。
これで助けが呼べる。そう思った時には俺の口に彼女の手に塞がれた。

「そんなに興奮しちゃ、ダメ」
彼女に耳元で囁かれる。

 そして俺は初めてキスをした。


✢✢✢―――――――✢✢✢


 夏の日。太陽が一番高い所に昇っている時間帯にそいつはやってきた。ピーンポーンというインターホンを鳴らしながら。

「はいはいはい。ちょっと待ってくださいぃ〜」
 散らかっていた自分の部屋を片付ける。
その中に学校の夏休みの宿題があってうんざりした。
高校生にもなって、宿題があるとは……本当にめんどくせぇーな。

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン。
 おまけにインターホンはガンガン鳴るし。
クソが! なんなんだよ!
ったくよぉー。

「はいはいはいはいはいはいはい。分かってるって。一回押せば分かってるって。ちょっとぐらい待てねぇーのかよ」

 ドタドタと音を立てて、階段を降りる。
その間にもインターホンは鳴り止まない。
近所迷惑も考えやがれ、バカヤロォー。

ガチャリンコ。ドアを開ける。

「おぉー久しぶり!」
 それにしても……綺麗になった。

 俺の目の前にいる彼女――吉乃坂ヨシノザカ美穂ミホは微笑んだ。
白のワンピースに身を包み、麦わら帽子を被っている。
童貞が好きそうなファッションだ。
そして大きなキャリーバッグが。

「どうかしたの?」
 俺より低い彼女が前屈みになり、真ん丸い目で俺を見つめてくる。ちょっ、胸元がガラ空きなんだけど。

「い、いや……何もねぇーし」
 顔が少しだけ赤くなる。

「あ、それより早く上がれよ。外、暑いだろ?」
 こうして、俺は吉乃坂美穂を家に入れる。


 ここで少しだけ説明が必須だろう。
あれからというもの(愛してると言った日から)俺と俺のフォロワーさんで俺のことを愛しすぎている女とのDMは続いている。まぁーどうでも良いようなことを会話しているけどさ。電話はあの日以来やってはいない。

 リビングのソファーに座るよう美穂に伝える。
あ、皆様方はこの吉乃坂美穂とは誰か?
そんな疑問が出てきたところだろう。
今回はそれを説明して、お開きにさせて頂く。

吉乃坂美穂――俺の従妹。説明終わり。
もっと説明しろという声が聞こえてきそうなのでもう少しだけ説明しよう。
俺の母親側のお姉さんの子供で俺と歳は一緒だったっけ? それとも俺より1歳上か? それとも俺の1歳下か? 思い出せん。
だけど従妹だし。従『妹』だし。
俺より下だよな。多分。
俺と小さい頃に良く遊んでいたらしいが全く覚えていない。それなら何故彼女を綺麗になったと言っているのかという矛盾点が出るかもしれないけどそれは俺の部屋にどこかの海(どこで撮ったか覚えていない)で撮ったと思える写真があったからだ。
それを見て、俺の隣にいる可愛い女の子は誰なのだろう。不思議に思ってそれを母親に聞いたら、従妹であることを伝えられたわけだ。
で。先週。母親から「あ、そうだ。夏休みの間、美穂ちゃんこの家に遊びに来ることになったから」と言われ、その今日。つまり今日から彼女は俺の家に泊まることになった。母親は看護師で病院で寝泊まりをしている。
父親は海外出張。正にラノベの典型例主人公みたいな俺だ。だけど残念なことに俺はそんなテンプレ主人公の様な特殊な力も無いけどね。
あぁーでもメンヘラ女に好かれた。
それだけが俺のテンプレ主人公みたいなところかな。

「ねぇー、悠斗ユウト。おばさんは?」
 頭を動かし、辺りをキョロキョロし始める。

ここで俺の説明もしとくか。
山田悠斗――それが俺の名前。
どこにでも居そうな平凡な名前だろ?
だからTwitter名(リア垢)は『youto』にしている。
それだったら、ヨウトになるよってな。
だけどさ、『you to』あなたに。
良いだろ? ちょっとした洒落だ。

「いないよ。今日も明日も」

「えっ?」
 彼女はビックリしたようだ。
それはそうだ。俺もビックリするさ。
母親が居るだろうと思うのが普通さ。
俺も自分と同年代の女の子と一緒に、同じ屋根の下で過ごすとなると緊張するし、俺も彼女と同じ立場ならそんな風になる。

あぁー、彼女俯いちゃったよ。
そんなに俺と二人きりで過ごすのが嫌か。
嫌だよな……そりゃー。イトコと言えど、全く知らない男なんだしな。

「俺は部屋でゲームでもしてるから。適当に過ごしてもらって構わない。勝手に冷蔵庫でも戸棚でも開けてお菓子とか食っていいし、ジュースも飲んでいい。じゃあー」

 リビングを出て、自分の部屋へレッツゴー!

とほほ……やっぱり、俺はモテナイな。


「ま、待って!!」
 彼女が俺を呼び止める。

俺が後ろを向こうとした時、背中に違和感を感じた。

ん? なんだ……この冷たくて鋭いものは。

「やっと会えましたね。悠斗。今日から貴方は私のモノです」
 耳元でそう囁かれたが、俺は無視して部屋へと戻った。
 なんだ……あいつ。


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