８－４妖精擬きに、２人の時間

「たでーま」
「ユウくん、おかえり～。お仕事片付いたの？」
　マイカはユウトの気配をいち早く察し、屋敷の玄関に迎えに来た。
「いや、仕事は途中だ。なんなら、明日もある。けど、気になることが出来てな」
「そっかー、無理はしないでよ」
「ああ、気を付ける。で、気になることってのは、こいつの事なんだが」
　ユウトは無限倉庫ストレージボックスから妖精のような生き物を取り出して見せる。
「何この子？　妖精か何か？　すっごく私になついてるんだけど」
「まあ、こいつを任せたかったってのが１つな。まだあと３日くらいは仕事があるし」
「そっかー、忙しいんだね。ユウくん、頑張って」
　マイカは、そう言ってユウトをソファーに座らせると、キッチンに向かう。そして慣れた手つきで髪を纏め、エプロンを着る。それが妙に様になっていて、ユウトは感慨深そうに、マイカの事を見ていた。
「そういえばユウくん、あの妖精みたいな子、何食べるかな？」
「うーん、分からんな」
　これでも食うか？　と言いながらユウトは、食べ物をいくつか取り出してみるが反応はなく、もしやと、魔力を細々と出してみる。すると、妖精擬きは魔力にすごい勢いで飛びつくが、ユウトの魔力を少し食べてみて、まずいと言わんばかりに吐き出す。
「俺の魔力ってのは不味いのかよ。あー、あれだ、マイカ。多分こいつの食い物魔力だわ。俺のはダメらしいが」
「魔力に美味しい不味いってあるの？」
「分からんけど、俺のは色々混じりすぎなんだろ。ハーフエルフに魔王、災厄竜に悪魔。こんだけ色々入っていれば不味くても頷けるだろ」
「ユウくんの魔力ってかなり悪役っぽいね～。私が言えたことじゃないんだけどね」
　マイカはそう言いながら、完成した料理を手早くさらに盛り付ける。普段なら料理を始めほとんどの家事をこなすのはニカとミーシャだが、２人とも今は休暇を取って温泉旅行中のためマイカがやっている。
「はい、お待たせー」
「おお、美味そうだな」
「私にかかればこんなもんだよ～」
「そうか？　まあいい、いただきます」
「そうだって。いただきます」
　机の上の皿には、パンをメインにした西洋風の料理が綺麗に盛り付けられている。ユウトとマイカは料理に手を伸ばしながら、元の世界の頃のように他愛もない話をする。
「しかし、マイカの料理は美味いな。うん、すごく上達してる」
「そうかな～？　毎日手伝ってはいるけど、ニカに比べたらまだまだだし」
　そう言うマイカの顔は、自然とにやけていた。
「うん、俺好みの味だ」
「幼馴染だし、ユウくんの好きなものも、好きな味付けも分かるんだ～」
　マイカは、最後にぼそりと、再現できるようになったのは最近だけど、と付け足した。
「あと、あれだろ。考えてることとかも分かるんだろ？」
　マイカは、うん、と満面の笑みで答えて見せた。その笑みは、昔の守れなかったマイカのもので、ユウトはようやくこの世界もいいなと思えてきた。
「ユウくん、顔赤いよ？　もしかして照れた～」
「ほっとけ」
「照れてる、照れてる～」
　ユウトは、全くマイカは、と言い皿に残った料理を食べきり、片付けを始める。
「この子って魔力食べるんだよね？」
「分からんが、多分そうだろ。俺のヘンテコ魔力でも寄って来たし」
「でもさ、私が魔力を出してるのに、全然寄ってこないんだけど」
「分かった、ちょっと待ってくれ。もうすぐ皿洗い終わるから」
　マイカが、うん、と返事をしてから５分と経たずにユウトは皿洗いを終え戻ってくる。
「ほら、こいつにこう、魔力を」
　指から僅かに魔力を流すと、それにつられたかのようにしてやってくる。しかし、さっきと同じように少しその魔力を吸収しては、また吐き出す。しかもさっきよりもひどい顔で。
「う～ん、こう？」
　マイカも同じように魔力を流してみるが、ユウトの時のようにやってくることはない。
「なんでだろうな？　魔力の質？」
「分かんないけど、ユウくんの魔力って色々混じってるじゃん。だからそのどれかに反応してとか～？」
「何にひかれるんだ？　俺の魔力にこの妖精擬きが好き好みしそうなものなんて、混じって無いと思うんだけど」
　ユウトは自分の魔力に含まれているものを、経緯と共に纏めて紙に書きだしそう言う。
「お義母さんがハーフエルフ、お義父さんが魔王、竜化した時の災厄竜、竜化状態から戻すときに悪魔と魔族か～。なんかどれも、それっぽくないよね～」
「そういえば、妖精っぽいのを見つけたら教会に来いって女神に言われたよな」
「女神なら分かるかもしれないし、連れてってみる？」
「まあ、俺らで分かるのは、この妖精擬きが良く分からない生き物って事だけだからな」
　ユウトはお手上げだと言わんばかりにそう言い、寄りかかってくるマイカの頭をそっと撫でる。
「ユウくん、明日も仕事なんだよね？」
「ああ、そうだけど」
「大変そうだし、私がユウくんを癒してあげるよ」
「えっ、なにすんの？　どう考えても俺が……」
「気にしないの。ユウくんだって好きでしょ？　それに私もユウくん成分補給できるから。ほら、何だっけウィーウィーってやつ」
「それを言うなら、ウィンウィンな。ウィーってどこのプロレスラーだよ。それとも家庭用ゲーム機？」
「細かいことは気にしなくていいの。ほら、早く」
　マイカは、ユウトを無理やり引っ張って２階の寝室に向かっていった。