６－４覚えがないんだけど

「さて、ユウくんどこ行こっか？」
　ユウトとマイカは、屋敷のあるスぺレイヤーの隣町、エストラに来ていた。そこの噴水が吹き上げる広場で話していた。スぺレイヤーとは違った発展の仕方をしていた。スぺレイヤーが商業だったのに対して、エストラは星空を中心とした観光の場となっていた。
「決めてないのかよ。行きたいところがあるって言ってなかったか？」
「いや、そうなんだけどさ、夜まで暇じゃ～ん。」
　マイカの提案でこの近くの丘で星を見に行くことになった。このあたりでは１番綺麗にみられると噂のスポットだ。
「じゃあ朝から連れ出すなよ。いや、まあいいんだけどさ。」
「いいじゃん、久しぶりのデート。」
「そういえばそうだな。じゃあ適当に見て回るか。」
「そこはしっかりエスコートしよ～よ。」
　ユウトはやれやれと言いながらマイカの手を取る。
「観光地ってだけあって色々あるな。」
「そうだね～。あれ、面白そうだよ。」
　マイカは広場の奥にある人だかりを指さして、ユウトを引っ張っていく。
「なんだ、あれ。大道芸かなんか？」
「そうっぽいね～。でも元の世界よりも面白そうだよ～。魔法とかも使ってるし。」
　魔法を使った芸を披露する人たちに驚きながらユウトも大道芸を眺める。ユウトは見ながらそれぞれの魔法の熟練度について考えていた。
「あそこまで魔法を思うように使えるようになるまでが大変そうだな。」
「もっと夢をもって見ようよ～。そう考えちゃうのもわかるんだけどさ。」
　ユウトとマイカは、チップを渡すと再び移動する。
　街中を歩いていると、子供達と、いい年した大人が１人の四歳ぐらいの竜人ドラゴニュート娘に襲い掛かってるのを見かける。
「やっぱり、どこでもこういう事はあるんだな。止めに行くか。」
「そうだね。かわいそうだし。」
　ユウトはその集団に近づこうとする。すると、竜人ドラゴニュート娘はユウトに飛びついてくる。パパ、助けて。と言いながら。
　竜人ドラゴニュート娘の父親がユウトだと誤解した子供と大人はすごい勢いで去っていった。その瞬間、場の気温が一気に下がる。
「ユウくん、お話しましょ。」
　ユウトはその子供と大人と共に逃げ出したいと思いながらマイカの方に恐る恐る振り向く。そこには恐ろしい笑いを浮かべるマイカの姿があった。
　とりあえず落ち着いて話しをするべく、喫茶店に移った。
「それで、ユウくんその子は誰？ユウくんのことパパって呼んでたよね。」
「俺も知らないよ。この鱗で勘違いしてるんじゃないかな？」
　竜人ドラゴニュート娘は、奴隷として扱われてた痕跡こそなかったが、先ほど負ったと思われる生々しい傷跡が体中にあった。
「とりあえずその子の傷を治してあげて。その子から話聞きたいし。」
「ああ、そうだな。傷を癒せ、ヒール。」
　竜人ドラゴニュート娘が白い光に包まれ傷口はあっという間に塞がり、傷口がなくなった。
「パパ、大好きー。」
　竜人ドラゴニュート娘は、思いっきりユウトに抱き着く。はたから見ればとても仲のよさそうな親子だった。しかしその雰囲気をマイカが容赦なく壊す。
「えっと、ユウくんがパパってどういう事かな？説明して。」
　竜人ドラゴニュート娘はユウトの膝の上に座って、ユウトに抱き着く。マイカの低い声におびえながら竜人ドラゴニュート娘は口を開く。
「パパは、パパなの。私のパパなの。」
「ユウくん場所を移して話し合おっか。」
　さすがに喫茶店で険悪な雰囲気はよくないので、近くの宿に部屋を借りそこで話し合うことになった。
「それで、その子との関係は？」
「血は繋がってないよ。まず間違いなく。何なら確認してもいいよ。多分この子は俺を父親と勘違いしてるんだろ。」
「本当なんだね。なら信じるけど。」
　マイカは寝ている竜人ドラゴニュート娘を撫でながら一つユウトに提案する。
「ねえユウくん、この娘を保護者が現れるまでは私たちが親代わりになってあげない？」
「俺も同じこと思った。マイカさえ良いならいいよ。」
　ユウトは竜人ドラゴニュート娘とマイカを暖かな目で見守った。
　日も暮れ始めた頃、ようやく２人が目を覚まし、星空を見に行くことにした。
「まだ自己紹介してなかったな。俺はユウトだよ。こっちはマイカ。ママって呼んであげて。」
「わかったの。パパ、ママ。私リーティス。」
「そっか、リーティスこれからよろしくね。」
　マイカは、リーティスの頭をそっと撫でる。
　それから少し歩き夜空を楽しむ。リーティスがいるので、冷えすぎないうちに戻ってきて適当に夕飯をとる。リーティスがいくら丈夫な竜人ドラゴニュートだからと言っても、無理をさせ体調を崩すと困るからだ。ユウトは部屋に戻ると、メニューを使い竜人ドラゴニュートについて調べ始める。しかし、少しすると家族揃って寝る事をマイカに強要され、３人川の字で寝た。
　翌日、ユウトとマイカの娘としてリーティスを連れて屋敷に帰ると、お騒ぎになったのだがそれはまた別の話。