２－４とある日に

「おはよう、ユウくん」
　ユウトは、いつものようにマイカに起こされる。元の世界と違う点があるとすれば、マイカも同じベッドで横になっているという事だけである。
「おぉ、おはよう。ところでなんで、まだ一緒の部屋にいるの？」
「気にしない、気にしない」
　魔王軍幹部であるデュラハンを倒して早くも１ヶ月。魔王軍幹部であるデュラハンの討伐報酬は相当なもので一生遊んで暮らせるほどだった。しかし、マイカはユウトと同じ部屋を借りていた。
「ユウトくーん」
「なにするんですか、エリさん」
「なにって、それを私に言わせる？」
　扉をバンと開いて部屋に入って来たエリザベートは、ユウトに抱き着いて照れる。それを見てマイカが起こらないはずもなく、マイカは声を荒げる。
「ユウくん、なんでエリさんいるの？　なにをやらせてるの？」
「誤解だ、なにもしてない」
「本当に、なにもしてないの？　やましいことなんてないの？」
　ユウトは、おぞましい形相で問い詰めてくるマイカに、すごい勢いで頷く。
「酷いわユウトくん。ギルドで、婚約者宣言したのに」
「どう言う事なのユウくん、お話しましょ」
　うわー、マイカすごくいい笑顔。俺知ってる。マイカがこんな顔してる時はすっごく怒ってるんだよ。
「婚約者である私が、ユウトくんとあなたが２人きりでいることを許すと思って」
　ユウトは、２人の間の火花におびえながらも、説明を始める。
「婚約者じゃないからな。ついこの間、エリさんに無理やりギルドに連れていかれたときに、勝手にエリさんが婚約宣言しただけだ」
「へー、じゃあやましいことなんてないんだ」
　マイカは、ユウトを疑わしい目で見続ける。
「ユウトくん、この間の夜のことも忘れたの？」
「酔いつぶれたあんたを、宿まで送ってやったっけ」
　エリザベートは、ユウトに連れないなぁと言う。
「さてユウくん、言い残すことはある？」
「いや、待て。おかしいだろ。俺の話聞いてた？」
　マイカは、ユウトの話を一切聞く気は無いらしく、ユウトを押し倒して問い詰める。ユウトはやれやれと言いながら、マイカの肩をつかみ向き合う。
「話を聞け、マイカ。前も言ったろ、マイカを守るって」
　マイカは顔をボンと爆発させたように真っ赤にして、力が抜けたように倒れこむ。
　それからマイカが回復するまで待って、話を切り出す。
「なぁ、そろそろ隣の国に行こうと思うんだけど、ちょっとお金に余裕あるし、奴隷でも見に行かない？」
　ユウトは、マイカとエリザベートに睨まれ、必死に弁明しようとする。
「一応言っておくけど、そういう事のために買うんじゃないからな」
「本当かな～」
「嘘はやめなさいユウトくん」
　ユウトは２人に問い詰めらながら、買う理由を説明する。
「いや、ほら、これから隣の国に行くまで少し、野宿とかすることになるだろ」
「まさか、けど」
「ユウトさんだしあるかもしれないわ」
　ちょっとー、何を想像してるか知らないけど、そういう趣味の人じゃないからね。
　ユウトは２人の話に心でツッコみながら、話を続ける。
「けど、俺らには料理スキルが絶望的と言っていいほど欠如している訳だ。だから、料理ができる奴隷を買わないか？　と言う提案だよ」
「よかった、特殊な人じゃなかったよ～」
「例え特殊でも私は受け入れましたけど」
　反応するところはそこなのかよ。
「まぁ、ユウくんの言ってることも事実だし、私はさんせ～い」
「私も異論はないわ」
　ユウトの言葉は全くもってその通りで、２人は納得した様子で頷く。
「エリさんもついて来る気なのかよ」
「えっ、エリさんも付いてくるの？　なんで私のユウくん独り占めを邪魔するの」
　そこかよ。それに俺はものじゃありません。人間扱いしてください。
「どうするにしても、ユウトくんは奴隷を買う気満々なのだから、２人きりは無理なはずよ。それに私は婚約者なのだからついて行くのは当然でしょ」
「何度も言うようだけど、勝手に宣言しただけだよね」
　あの時、ギルドにいた冒険者がめちゃくちゃ怖かった。
　ユウトは冒険者ギルドでの出来事に顔を青ざめさせながらエリザベートに言う。
「とりあえず、見に行くだけ見に行かないか？」
　ユウトはデュラハン討伐という偉業を成したことが、王都にも伝わっている事を危惧してほかの国に移住しようとしていた。それもそのはず、国王の命に背いたのだ。普通なら国家反逆罪か何かで打ち首に決まっている。ユウトは、この生活を悪くないと思っているし、巻き込んだマイカが処罰されるのが嫌なので、逃げる準備を整えようという訳だ。
「と、り、あ、え、ず、行こ～」
「そうですね、と、り、あ、え、ず、行きますよ」
　そんなにとりあえず強調する？　その必要ないよね？　ねぇ、ないよね？
　こうして３人は奴隷商があるらしい通りを目指して宿を出た。