魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

【連載1周年記念ストーリー】浮気(?)調査

「ふんふんふ~ん」

天気の良い午後の昼下がり。弥一邸のキッチンから上機嫌な鼻声が聞こえてくる。コトコトと音を立てる鍋の前にいる鼻歌の張本人はセナだった。

「あとはこれにカブツの葉をいれて」

薬や料理にも使われる香りのよい葉を鍋に一つまみ入れて蓋をする。最後にコンロの火を止めて出来上がりだ。

「う~ん、出来上がるの夕方ごろになるしなにしようかな」

エプロンを椅子に掛けて少し悩む。ユノとエルは二人で出かけていて今家には弥一とセナしかいない。

セナはリビングにでて弥一を探す。が、弥一はいない。

「もしかしてベランダ?」

天気のいい日はよくベランダのソファで寝っ転がっていることの多い弥一。ベランダに目を向けるといた。

ベランダのドアをそっと開けてこっそり近づく。弥一はなにやら読んでいるようでセナには気づかない。

「やーいち」

後ろから首に腕を絡めて抱き着く。

「うぉっ!?」

すると弥一は手に持っていた紙をサッと隠し振り返る。

「な、なんだセナか。脅かさないでくれ」

「ごめんね。なに読んでたの?」

そう聞くと、途端に弥一が少し動揺したような声色で話し出す。

「ちょ、ちょっと広告をな?ほ、ほら最近いろんな新しい店ができてるだろ?」

苦笑いでそう尋ねてくる弥一にセナは少し訝しむ。動揺したような声や態度、仕草、今まで見たことのない弥一の姿にセナ不思議そうに弥一を見る。

「そ、それでなにかようか?」

「あ、うんん。晩御飯の仕込みができて暇だったから甘えてみたの」

そういうと弥一の横に座り肩に頭を乗せ甘える。弥一もセナの頭を優しくなでる。

しばらく無言の時間が続き、森から小鳥のさえずりがのどかに聞こえてくる。

やがてのどかな日差しに眠気が襲ってくる。

しかしそこで弥一が腕時計を確認すると、セナの肩をゆする。

「ごめんセナ。ちょっと俺買い物に出てくるよ」

「ん?じゃあ私も行く」

そう答えると、弥一が慌てて遮る。

「いや、すぐに済むしわざわざついてくる必要ないよ」

「え、でも.......」

なんだかいつもと違う弥一の様子にセナの中で疑問が生まれていく。こうゆうときいつも一緒に買い物に出るのに。

「......わかった。じゃあ玄関までお見送りさせて」

二人で玄関に行き、弥一を見送る。

「それじゃあ行ってくる。夕方までには戻るから」

「うん。行ってらっしゃい」

お互いにいってらっしゃいのキスをすると、セナは笑顔のまま手を振る。そして玄関を出ていってバタンと扉が閉まる。

弥一の態度には疑問が残るが、まぁ弥一なら大丈夫だろうと思い掃除でもするかと二階に上がる。

二人の寝室を通り過ぎ、弥一の部屋に向かう。弥一の部屋は魔術媒体や資料、工具などが散乱しているのでたまにセナが片づけをしているのだ。

そうして扉のドアのぶに手をかけ、開けようとすると。

「あれ?開かない」

何度捻っても扉があく気配がない。カギは内側からしか掛からないので、部屋に誰もいない状態であかないということはない。

それに、ドアが開かないのは『カギが掛かっている』という感触ではなく、まるで『ドアそのものが固定されている』という風に感じる。

気になったセナは目を閉じ、集中して解析魔術を使う。弥一に魔術を教わっているため、セナも簡単な魔術なら使うことができる。

しかし

「んん?なにも出てこない」

解析の結果は何もなし。魔術の反応がしないのだ。

カギが掛かっているわけでもなく、魔術が仕掛けられているわけでもなく。開かないドアを前にセナは困惑する。

「あっ、もしかして」

ぽんっと手を打つと目を閉じ集中して周囲の精霊に呼びかける。

これは精霊に呼びかけることで魔力の流れや魔法を感知する精霊神であるセナだけが使える索敵魔法だ。魔術の解析はできなくとも魔術の気配を感知することができる。

「......見つけた」

ぼそりとつぶやき目を開く。索敵の結果僅かながらドアから不自然な魔力の流れを感じる。

どうやら弥一はドアが開かないように魔術を掛け、そしてその魔術自体を隠蔽していたのだ。

過剰なまでの周到さにさすがにセナも怪しむ。これではまるで部屋の中に何か見られては困るものがあると言っているようなものだ。

そこで先ほどの弥一の行動が脳裏をよぎる。とっさに何か隠し、ついていこうとすると焦ったように止め、挙句の果てに用意周到なまでの部屋の魔術。

「......もしかして、浮気.....?」

ふと頭に浮かんだ言葉を漏らす。けどすぐにそんな馬鹿なと笑う。

だが一度可能性が出るとずーっと気になるのが人というもの。内心あり得ないと思いつつもセナはぐるぐると頭を回す。

「.........確かめる」

そう、わからないのなら調べるのみ。

そうと決まればすぐに動かなければ。弥一が出てからまだ15分しかたっていない。ならまだ弥一は王都についたばかりだろう。

すぐに動きやすい服装に着替え、地下工房に降りる。そこにはいろいろな魔導器があり、セナはその中から黒いポンチョを着込む。

このポンチョは迷彩機能と隠形の魔術が掛けられている隠密行動向けの魔導器だ。弥一もまさか自分の浮気調査で嫁に使われるとは思ってもみなかっただろう。

ポンチョを着込みセナは地下工房から森に続く隠し通路を使って外に出る。そして森に出るとポンチョの迷彩機能が働き周囲の風景に紛れる。

「【疾風加速ゲイル・アクセラレイション】」

風を纏いセナは一気に森に突っ込む。生い茂る木を風を纏いながら猛スピードで駆け抜ける。

やがて燦燦と生い茂っている森を抜け王都の中心街に出る。屋根の上をセナは飛び越えていくがポンチョの隠形のおかげで誰も見向きもしない。

「弥一どこにいるかな?」

ぴょんぴょんと屋根を飛び越えながら上から王都を見渡す。お昼とあって人通りも多く、この中から弥一一人を見つけ出すのは困難だ。

索敵魔術を使えば少しは楽になるが、魔術に関しては弥一に敵うはずもない。索敵魔術を使った瞬間に弥一にバレてゲームオーバーだ。

「むむむ.....どうしたら.....」

ひとまず屋根から降りて大通りを歩く。知り合いに見つかるのは避けたいのでポンチョは着たままだ。

たくさんの人を避けながらあたりに目を凝らし弥一を探す。

やがてそのまま進むと露店エリアを抜け服や装飾品が並ぶエリアに来た。

「あっ!ママ~!」

左から愛らしい声が聞こえると、ユノがこちらに向かって小走りに駆けてくる。セナがしゃがんで両手を広げると、ジャンプしてその胸に飛び込んできた。

「ママもおかいもの?」

「う~ん、まぁそんなところかな?エルは?」

「ここですセナ様」

ユノが走ってきた方向からエルも歩いてくる。その手には大きな紙袋を抱えている。

「ごめんねエル。買い物任せて」

「いいえ、これくらいなんてことないです。それにユノ様と一緒の買い物も楽しいですし」

「ねぇママ!ユノ、エルおねぇちゃんのおてつだいがんばったよ!ね!えるおねぇちゃん!」

「ええ、ありがとうございます。おかげで助かりました」

えっへんと小さな胸を張るユノにエルは微笑んでその頭を撫でる。

「それでセナ様はここでなにを?」

「実は.......」

エルに聞かれこれまでの経緯を話す。

「....なるほど。ですがマスターに限って浮気するなどあり得ないと思うのですが」

「うん、私もそう思う。でも、一時気になったら頭から離れなくて」

「....わかりました。でした私も協力します。探査なら私のほうが得意ですから」

「ママ!ユノもさがす!ユノもパパにめっ!する!」

「ありがとう二人とも」

「そうと決まれば早速」

大きな紙袋をバックにしまうと、エルは腕を上に向かって向振る。すると服の袖から呪符がばら撒かれ、次の瞬間には本物そっくりな猛禽類に変わり、空に一斉に舞う。

「私は空からマスターを探します」

「じゃあユノもうえからさがす!」

ユノは降霊化すると屋根に上り跳んで行った。サニアもユノに続いて行ってしまった。

「じゃあ私は地上から」

「待ってくださいセナ様」

セナが走り出そうとすると、エルが呼び止めスマホを取り出して誰かに電話をする。

「何してるの?」

すると電話を終えたエルが答える。

「援軍を呼びました」

「?援軍?」


10分後。近くの喫茶店で待っていると、人だかりの中からこちらに向かって歩いてくる集団がいた。

そしてその集団はセナとエルを見つけると一人が駆けてくる。その一人とは凛緒だった。そしてその後ろには健、彩、大地、智花、美奈がいる。どうやら凛緒たちがエルの言う援軍なのだろう。

「エルさん!やいくんが浮気ってどうゆうこと!?」

「凛緒、それにみんな」

「弥一が浮気?あのセナさんにデレデレな弥一が?」

「なにかの間違いじゃないの?」

「それを証明するために皆さんに集まっていただいたのです」

全員が席に着くと、エルが王都全体の詳細な地図を広げる。ペンを使って地図を四分割するとその一部に印をつけていく。

「現在西側エリアでユノ様とサニアが捜索されています。私は北エリアを捜索するので、皆様に南と東エリアを捜索してもらいたいのです」

「わかったわ。弥一くんを見つけたら連絡すればいいの?」

「はい。マスターにバレるのはまずいので皆さん十分に注意してください。気づかれればマスターが私たちをまくことなど簡単でしょうから」

「わかったわ。みんな行くわよ!」

『おう!』

彩の号令で全員が立ち上がる。それを見ながらセナはみんなに頭を下げた。

「みんなありがとう」

「お安い御用よ。さ、行くわよセナ」

差し出された手をセナは見つめ、ぎゅと掴む。

感動的なシーン。だがこれは夫の浮気調査であった。






東エリアは住居や店が多く立ち並ぶエリアで、その分小さな路地などは多い。東エリアはセナと凛緒が担当で、二人はまず上空から捜索する。

セナの魔法で風を纏った二人は連なる建物の屋根を飛び越えて捜索していく。

「セナ!ここ路地が多すぎて上からじゃ見つけられない!一度下に降りよう!」

「わかった!」

そのまま二人は勢いを落とすことなく近くの路地に飛び降りる。

「聞き込み調査でもしてみる?」

「うん。この辺りはよく弥一と買い物にい来るから知り合いも多い」

早速二人は大通りに出ると、近くの肉屋に入っていく。

「いらっしゃいませ~。あら、セナちゃん」

「こんにちは」

「こんにちは。今日はいいお肉が入ったのよ~。買っていく?」

「今日は買い物に来たわけじゃなくて、うちの旦那を見かけませんでしたか?」

「あら旦那さん?そうね~見ていないわね」

「そうですか。ありがとうございます。あ、それとお肉買います」

「毎度~」

聞き込み調査の成果はいいお肉だけだった。

「何やってるの」

「ごめん、冷蔵庫の中にお肉が足りなこと思い出して。明日はハンバーグにする予定だったから」

「え?ハンバーグ?」

「凛緒も食べる?」

「食べる!じゃあ明日は晩御飯ごちそうになるね」

「うん別にいいよ」

明日の晩御飯がハンバーグと知って凛緒はご機嫌になり、セナも仕方ないなとほほ笑んで凛緒の隣を歩く。仲の良い二人はそのまま帰ろうと.......

「「って違う!」」

二人同時にツッコミを入れて目的を思い出す。目的は仲良く買い物ではなく、弥一の聞き込み調査だ。

二人は次の店に向かう。次は向かいの八百屋さんだ。

「いらっしゃい!お、セナの嬢ちゃんと凛緒の嬢ちゃんか。なにか買いに来たのかい?」

「こんにちは。今日は買い物じゃなくて、旦那を見ませんでしたか?」

「ヤイチか?見てねぇな」

「そうですか、ありがとうございます。あ、それと大根とニンジン二つづつください」

「はいよ!毎度!」

二回目の聞き込み調査も成果は大根とニンジンだった。

「だから何やってるの!」

「だって安かったし.....」

「もう!セナに任せていられない!今度は私が行くからね!」

しょぼんと落ち込むセナに変わり、今度は凛緒が行く。次は少し進んだところにある道具屋。

「いらっしゃいませ~。あ、凛緒さん。今日は何かお買い求めで?」

「こんにちは。今日は違くて、やいくん見ませんでしたか?」

「ヒイヅキさんですか?う~ん、見てないです」

「わかりました。ありがとうございます」

「あ!凛緒さん、そういえばこの間言っていたナイフ入荷してましたよ!」

「ほんとですか!?買います!」

三度目の聞き込み調査の成果はナイフだった。

「何やってるの。というかなんでナイフ」

「う、実はこの前から近接武器でナイフが欲しくて....」

普通の女子高生の買い物ではない買い物をしてきた友人にセナは。、はぁとため息をつく。

「つ、次こそは任せて!」

「大丈夫?」

「大丈夫!」

10分後。

そこには紙袋いっぱいに入った投擲武器や近接武器、ワイヤーなどをもって立っている凛緒の姿があった。

「「..........」」

二人とも沈黙。セナに関しては若干頬を引きつらせていた。

「.......普通に探そっか」

「.......うん」

反省した二人は聞き込み調査をやめて再び自力で探し出す作戦に。

昼下がりとあって人通りは多く、二人は人込みを避けながら探していく。

そしてついに、

「!....見つけた!」

「どこ!?」

「ほら、あの路地の入口」

凛緒が指さした方向を見ると、だいぶ先のほうに弥一がいた。弥一は誰かと話しているようだが、こちらからは家の壁が邪魔で見えない。

「もうちょっと近づこう」

セナがそういって近くの露店のカウンターの下に隠れる。お客さと店員さんは戸惑っていたが、二人のただならぬ形相に何も文句は言えない。

二人はじっくりと目を凝らして弥一を見る。

その弥一は楽しそうに誰かと話していて、その表情からは浮気をしているような雰囲気はない。

「ねぇ、セナ気のせいなんじゃないの?」

「うん。そうだと思う」

二人はそうして少し安心すると、一応エルたちに現在位置を知らせる。すぐに駆け付けるとのことなので、すぐに来るだろう。

二人はまた弥一を監視する。そのまま何も起きなければ、ひとまず弥一の疑惑は晴れる。だが、

「あっ!あれ!」

「っ!!」

凛緒が声を上げる。それは路地から伸びてきた手が、弥一の手を引いて弥一を路地に引き込んだのだ。

そして二人はその時引き込んだ手が女性の手だったのを見た。

「「.............」」

長く重い沈黙。浮気の疑惑が晴れそうになったところでこの事態。凛緒はセナの表情をうかがう。セナは悲しそうな表情で弥一が消えた路地を見ていた。

そんなセナを見ていられなくて凛緒はセナの肩をつかむ。

「まだやいくんが浮気したって決まったわけじゃないでしょ!いこ!」

「......うん!」


セナは自分の泣きそうな顔を叩いて気を取り直し、凛緒と二人で弥一が消えた路地に駆け込む。

路地にはすでに弥一の姿はなく、セナと凛緒は一度顔を見合わせた後、路地に入る。

路地は微妙に薄暗く、多少の分岐があるが、路地に積もる誇りに残った弥一ともう一人の足跡をたどっていく。

『聞こえますかセナ様凛緒様?』

耳につけたインカムから聞こえてくるエルの声に耳を傾ける。

「エル?今どこに?」

『上です』

上を向くと確かにそこにはエルと、ユノがいた。

「彩たちは?」

『今こちらに向かっているそうです』

「エルさん。この道の先にやいくんがいるはず。上空から探索して」

『了解いたしました』

エルとユノが先行する。セナと凛緒も再び足跡を頼りに路地を進む。

『見つけました。その先を左に曲がった通路の500メートル先です』

エルの指示で先の通路を左に曲がり、そこで止まってこっそりと覗くと、いた。そして弥一の隣には一人の妖艶な大人の女性が。

「........ひっぐっ......えっぐっ、」

「せ、セナ.....!泣かないで....!まだ決まったわけじゃないから.....!」

弥一の横に立つ女性を見てセナが割とガチで泣き出す。凛緒も必死にフォローしようとするが、凛緒自身もだいぶ動揺している。

そのまましばらく弥一の様子を見ていると、弥一と女性が扉を開けて建物の中に入っていった。

半泣きのセナを連れて凛緒が弥一がたちが入っていった扉に耳をつけて中の様子を聞こうとする。しかし扉は思いのほか厚いのか、中の様子をうかがい知ることはできない。

「到着っ、ってセナ!?どうしたの!?」

「えっぐっ....弥一が......大人の魅力に.....」

遅れてきた彩たちが合流すると、半泣きのセナをみて仰天。でもすぐに状況を察したのか、扉を見つめる。

「セナ、どうする?」

その問いかけにセナは涙を拭うと、しっかりとした目で扉を見る。

「......突入する」









「はい、弥一君。これ」

「ありがとうございますネヴァさん」

「いいのよこれくらい。それで、ご褒美は.........」

目の前の妖艶な女性が弥一のそばにやってくる。弥一はそれを苦笑いして、自分の懐に手を伸ばしーーー

『バンッ!!』

「弥一......っ!!!」

「せ、セナっ!?」

大きな音を立てて扉が開くと、そこからセナが飛び出してくる。セナは弥一をみつけるとそのまま弥一の胸の中に飛び込む。

突然現れたセナに弥一はどうようする。セナは弥一の腕の中から顔を見上げる。

「弥一っ!どうしてっ!どうしてなの?私のこと嫌いになったの?」

「ちょっ、ちょっとまて!なんのことだ!?」

突然声を上げるセナに弥一は大変困惑する。泣き出すセナに弥一はどうしたらいいかわからなくなる。そこに遅れてエルたちも入ってくる。

「マスター素直に話してください」

「エルまで!?いったいなんなんだ!?」

説明を求める弥一に、エルがこれまでの経緯を説明する。

「---ということです」

「.....なるほどな」

説明を聞いて弥一はため息をつく。そのあと腕の中のから見上げてくるセナに顔を向ける。

「聞いてくれセナ。それは誤解だ。俺は浮気もしてないし、する気もない」

「.......じゃあなんで私がついていくの断って、部屋に魔術を掛けてたの?」

「え、え~っと......」

その質問に弥一は言葉に詰まる。それを見てセナが再び泣きそうになると、弥一は慌てて言葉を紡ぐ。

「.......セナにプレゼントを渡そうと思ってたんだ。そろそろ結婚半年目だろ?ドッキリで渡そうとおもって黙ってたんだ」

「........えっ........」

「部屋にはそのプレゼントの案とドッキリの計画があるから閉じてて、今日はネヴァさんに頼んでたそのプレゼントが届いたって手紙が来たから取りに来ただけなんだ」

そう説明するとセナは目を見開いて弥一の顔を見る。少し照れ臭そうにする弥一を見て、それが嘘ではないことを見抜く。

「じゃ、じゃあ、私を嫌いになったわけじゃない?」

「当たり前だ。こんな可愛い嫁を見捨てて俺が浮気なんかするわけがないだろ?」

そうして笑いかけると、セナも少しの停滞の後、ぽろぽろと涙を流しだす。そんなセナの涙を指で拭ってやると、弥一は一度セナを離して、机の上の小箱をとる。

それをセナに渡す。

「開けていい?」

「ああ」

手の中にある小箱を開けると、小さなガラスの小瓶。

「これは?」

「最近貴族の間で流行ってる人気の香水だ。ほら、前にたまには香水を使ってみたい言ってたろ?」

「覚えててくれたの?」

「おう。大変だったんだぞ?貴族の間でしか流通しないものだったからネヴァさんに無理して頼んだんだから」

小瓶を手に取って眺めるセナに弥一は冗談交じりの声で髪を撫でる。するとうれし涙を流すセナは再び弥一に抱き着く。

「ありがとう弥一。あと、ごめんね疑ったりして」

「俺もごめんな?セナを不安がらせて」

そうして二人は自然と顔を近づけて唇と唇を重ねる。重ねただけのキスが二人を一つにする。

やがていっそう強く抱き合うと、セナが唇を動かす。

「んっ....やいち......一生離さないで.....んんっ」

「おい、みんな見てーーーー」

「だめっ....今は、私だけを見て......ちゅっ、んっ.....」

嬉しさのせいで弥一しか見えなくなっているセナは、弥一の静止を無視して頭に腕を回し濃厚に口づけをする。

「はうんっ......弥一.....好き.....ずっと大好き....あんっ、んっんっ....」

だんだんと弥一のほうも周りの目を気にしなくなって、弥一のほうからも積極的に舌を絡める。

二人とも周りに人がいるのにもかかわらず、情熱的に唇を重ね続ける。

だいぶたって二人が唇を離すと二人の間で唾液がツーっと糸を引く。そして二人は周りを見ると、すでに誰もいなかった。どうやら全員空気を読んで先に帰ったようだ。

周りが見えないくらいに集中していた二人は少し反省して建物を出る。

建物を出るとすでに外は赤く、夕焼けの空が見える。かなりの時間二人でキスをしていたのだ。

「さ、帰ろうか」

「うん!」

差し出された手を、二度と離さないといった風にぎゅっと指を絡めて腕に抱き着く。そのまま二人は帰り道を歩く。

「ねぇ弥一。すこしデートして帰ろ?」

「そうだな。なんとなく俺もそんな気分だったんだ」

そういってお互いに微笑むと、少し遠回りな道を選ぶ。

暁にそめる太陽はそんな二人を照らし、決して離れることのない一つの影を作っていた。




コメント

  • 海月13

    いつもありがとうございます!新作もご期待に添えるよう頑張ります!

    1
  • 蒼羽 彼方

    おめでとーございます!
    これからも末永く更新続けていって下さい!
    新作の方も期待ですw

    1
  • 海月13

    祝!連載1周年!

    読者の皆様のおかげで1年間も続けることができました!今後ともどうか魔術がない世界で魔術を使って世界最強をよろしくお願いします!

    感想などもどしどしお待ちしております!

    3
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