魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

【ハロウィン特別ストーリー】トリックオアトリート


夢のマイホームから二週間経過した頃の王宮でのある日。

「パパ〜」
「やいち〜」

「ん〜?二人ともどうした?」

「いらっしゃい二人とも」

健の部屋で健と二人で寛いでいた弥一のところへユノとメイが訪ねてきた。その後ろにはサニアもいる。

ユノとメイは歳が同じくらいとあって、出会ってすぐに仲良くなり、王宮に来るたびに二人でよく遊んだりする。今日も二人で遊んでいた。

二人は部屋に入ると、弥一の膝の上に器用に座る。そしてユノがこんなことを訪ねてきた。

「パパ、ハロウィンってなに?」

「え?ハロウィンか?」

地球では十月三十一日に行われる仮装なんかをしてみんなで盛り上がるイベント。

なぜこの世界でハロウィンが?と思っていると、健が「あぁ、」と事情を察したような声を漏らす。

「健、何か知ってるのか?」

「随分前になるんだけどな、この世界とあっちの世界の文化交流って事で、いろんなイベントとかを紹介してたんだけどな。そんときハロウィンのことを言うと、意外と受けが良くてな。仮装して練り歩くだけだから簡単だろうって事で、異文化交流の一環で、ハロウィンを王都全体でやろうっていう話になってたんだ」

「へぇ〜」

勇者達の世界の文化と聞けば、人々はどんなものかと興味を持つ、しかもつい二ヶ月程前に魔王軍六属による大規模進行があった為、暗い雰囲気を吹き飛ばすという事で、ハロウィンを試験的に王都全体でやることが決まっているのだ。

「確か来週だっけな。みんな楽しみにしてるぞ」

「なるほどな。確かにそれは楽しみだ」

「ねーパパ、ハロウィンは?」

「あーすまんすまん。そうだな、簡単に説明すれば、人々がいろんな怪物とか動物なんかに仮装して、お菓子をもらって回るイベントだな」

「おかしもらえるの!?」
「やいち!ほんとに!?」

お菓子を貰えるというところに目をキラッキラッさせるユノとメイ。そんな二人の頭を撫でつつ、説明を続ける。

「仮装して『トリック・オア・トリート』って言うんだ。『お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ』って言う意味でな」

「「とりっく・おあ・とりーと?」」

「そうそう」

可愛らしく首をかしげながら二人は言う。サニアも『わっふ?わふ?』とふたりに合わせて首をかしげる。健と弥一はそんな二人を見て微笑ましい気持ちになる。

「もっとも、最近じゃあ本来の目的が薄れて、ただの仮装イベントと化してるけどな」

「え?あの仮装に意味なんかあったのか?」

「お前はハロウィンをなんだと思ってたんだ?」

「仮装してふざけまくるイベント」

「ちげぇーよ!」

今度は健が可愛らしくもなく首をかしげながら弥一に質問する。

弥一はため息をつきつつも、改めてハロウィンを説明する。

「ハロウィンってのはアングロ・サクソン系民族の祭日で収穫祭のことだ。10月31日のこの日は、死の世界と現世が繋がって、死者や悪霊があちらの世界から溢れ出してくるんだ。そして死者は現世の人々を攫っていく。その為人々は、死者や悪霊の仮装をする事によって、仲間のふりをして、攫われないようにしていたんだ。それが時代が経つにつれ、本来の意味が薄れ、今では仮装を楽しむ行事になってるってことだ」

「へぇ〜、ハロウィンの仮装にそんな意味があったんだな」

ハロウィン、古くはケルト人の祝日で、ケルト暦の大みそかにあたり、この夜悪霊や魔術師達が戸外を駆け巡って次の年の予報を声高に叫び歩いたという。

ちなみにハロウィンで使われるカボチャのランタン、あれは生と死の境界に君臨せし大悪魔ジャックオーランタンの事だ。

「大変なんだぞ、魔術師にとってハロウィンは。死の世界との門が一気に開いて死の世界がこちらの世界に干渉してくるから、一晩中駆り出されるし、大魔術で一気に成仏させようにも、一般人に気づかれないようにしなきゃいけないから使えない。はぁ〜、大変だったな・・・」

弥一が疲れた顔で何処か遠い目で明後日の方向を向く。魔術師達にとってハロウィンは年間を通して一位二位を争うほどの忙しさなのだ。

「それで毎年ハロウィンパーティーにお前だけ来れなかったんだな」

「あぁ、・・・。でも!それならせっかくの人生初の楽しいだけのハロウィンだ、存分に楽しんでやる!!」

「「おー!」」

「・・・苦労してたんだなお前」

弥一の声にユノとメイが腕を振り上げて声を上げる。その際、健の眼差しが妙に生暖かったのが印象に残っていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そんな訳で一週間後。王都全体が待ちに待ったイベントに活気付く。王都の住人がハロウィンという新しいものに興味津々だったらしく、街の至る所では皆思い思いの仮装をして楽しんでいた。

弥一そのうちの一人で、このイベントを楽しみにしていた。

「すごい盛り上がりだな」

「そうだな」

弥一と健は王都の中心街にいた。弥一はバンパイアの仮装で、健は狼男の仮装だ。二人とも完成度は高い。

そしてその二人の他にもう一人。

「これだけの人が僕たちの世界のイベントで盛り上がってくれるのは嬉しいね」

そう言ったのはクラスのイケメン、雄也だ。雄也も楽しんでいるらしく、その格好は意外にもゾンビの仮装だった。

三人は今、待ち合わせをしている。しばらく待っていると、遠くから約束の相手がやってくる。

「パパ〜!!」
「やいち〜!!」

「おっと、おお!二人ともよく似合ってるぞ」

胸に飛び込んできた二人を受け止め、それぞれ片腕で抱っこする。

メイはウサギの仮装なのか、頭にウサギの耳を付けている。活発な性格と似合っている。そしてユノだが、これまたリアルな狼の耳と尻尾だ。というか、

「ユノ、これ本物じゃないか?もしかしてサニアを降霊させてるのか?」

「うん!でもサニアもいるよ!」

これは仮装なのか?と思うが、耳をピコピコ動かし、尻尾をぱたぱたと揺らす姿はとても可愛らしいので、まぁいいかと思う。そして弥一の足元にはサニアが。サニアは頭に小さな魔女の帽子を乗っけている。

「サニアも似合ってるぞ」

『わっふ!』

弥一に褒められて嬉しそうに尻尾を振るサニア。するとメイとユノが弥一から降りて、弥一と健と雄也の三人に向けて「せーの」と息を合わせていう。

「「とりっく・おあ・とりーと!!」」

可愛らしい満面の笑みで、両手を差し出してくるウサギ幼女と狼幼女。そんな愛らしい二人に勝てるはずも無く、弥一は写真を激写しながら、二人にお菓子を渡す。

「二人とも可愛いぞ!!」

「・・・弥一がただの親バカな父親にしかみえねぇ」

「ハハ、気持ちはわからなくもないけど」

写真を撮りまくる弥一に、健と雄也は呆れ混れの苦笑いをして、ユノとメイにお菓子を渡す。

ユノとメイは受け取ったお菓子を嬉しそうに袋にしまう。するとようやく約束の人達が集まってきた。

やってきたのは、エル、彩、ヘンリの三人。それぞれ、猫、フランケンシュタイン、ウサギの仮装だ。

「エル、セナと凛緒は?」

「えっと、お二人でしたら・・・」

と気まずそうな顔をして、言葉を濁した次の瞬間、ズドォオオオーーーンッ!!という爆発音と共に巨大な土煙が舞う。

「な、なんだ!?」

咄嗟に身構え、爆発の方向を見ると、土煙の中から二つの影が。

「いやぁあああああああーーーっ!!」
「てぇああああああああーーーっ!!」

声を出して叫びながら現れたのは、セナと凛緒だった。

セナが凛緒に向けて無数の火球を放つ。全面を覆い尽くす火球を、凛緒は氷の槍と化した杖を握り、自分に当たる物だけを切り払っていく。

「くっ!しつこい・・・っ!!」

「そっちこそ・・・っ!!」

凛緒が一気にセナに詰め寄り、迅速の三段突きを放つ。セナは凛緒との間に風の爆発を起こし、間一髪で槍を回避すると、そのまま【疾風加速ゲイル・アクセラレイション】を発動して、一気に距離を取って、お返しとばかりに魔法を放つ。

両者、共に攻め切れない激しい攻防が繰り広げられる。しばらくフリーズする弥一たち。

「・・・何やってんだ・・・?」

「実はですね・・・」

エルが経緯を説明し始める。なんでも、セナが弥一を誘惑しようと派手な猫又の衣装で仮装しようとしていた所で、凛緒が止めに入り、そのまま言い争いになった結果、今に至るという。

「取り敢えず止めないとまずくないか!?」

健が叫んだと同じ時にして、凛緒とセナが構える。まるで騎士と騎士の決闘のように。

「「ハァアアアアアアアアアーーーっ!!」」

お互いの魔力を全力解放し、一気に駆け出す。そしてお互いの魔力が大気をうねり、激突しーーーー

「やめろ、って」

弥一が足を踏み鳴らすと、激突寸前の二人の間に黄金の魔術陣が現れ、そこから黄金の鎖が飛び出し、二人を捕縛する。

「わっ!」
「きゃっ!」

手足や胴体に黄金の鎖が絡み付き、完全に身動きが出来なくなった二人は、大人しくなる。弥一はそれを確認すると、鎖を解く。

「まったく、なに考えてんだ二人とも」

「だ、だって凛緒が・・・」
「だ、だってセナが・・・」

「だってじゃない」

「「はい・・・」」

弥一に一喝されると、二人は借りてきた猫のように静かになる。 弥一はため息を漏らすと、二人に手を貸して立ち上がらせる。

「ほら、早く着替えてこい。みんな待ってるぞ」

「うん!」
「わかった!」

許されたことに表情を輝かせ、二人はすぐさま近くの服屋に駆け込む。弥一はその間に、「すみませんねぇ〜」と周りに謝りながら、ちちゃっと錬成魔術で地面や建物を修復していく。

「弥一さんも大変ですね」

「まったくだ。セナはわからんでもないが、なんで凛緒もあんなになるのやら・・・」

するとヘンリが言う。

「本当は気付いていらしてるのでは?」

見透かされてそうなヘンリの声音に、弥一は手を止める。

「・・・さぁ、どうだろうな・・・」

ヘンリに言われ一瞬弥一は手を止めるが、とぼけたように答えるとすぐに手を動かし始める。ヘンリはその様子を黙って見ていた。





それから程なくして二人が戻って来た。凛緒は犬耳と犬尻尾で犬の仮装、セナは
魔女の仮装だ。

「どうやいくん?」

「似合ってるぞ。犬耳が何処となく凛緒にピッタリだ、忠犬っぽくて」

「どういう意味!?」

ぐるるる!と今にも噛み付いてきそうな勢いの凛緒に、弥一は笑って「冗談だ冗談」と言って宥めると、横から裾を引っ張られた。

「私はどう?」

セナは魔女の帽子に、黒いローブとミニスカという格好だ。魔女というより何処か魔法少女っぽさがあるが、意外にもマッチしている。

「可愛いいな、綺麗な蒼髪が映えてとても似合ってる」

そう言って褒めると、人目もはばからず、キスをする。その光景を見て彩たちは、顔を赤らめ気まづそうに視線を逸らす。エルとユノはいつもの光景なので特に恥ずかしがることもなく、ユノは逆に「パパ〜!ユノも〜!」と両手を広げておねだりしてくる。

セナは仮装を似合ってると言われキスをされて、頬を染めてイヤンイヤンする。弥一は可愛らしくおねだりしてくるユノを抱き上げて、柔らかい頬にキスをする。ユノは尻尾をぱたぱた振りながら、弥一に抱きつく。

突如として発生した甘い砂糖の空間に、どうしていいのかわからないといった表情のメンバー。その中でも凛緒はわなわなと震えている。

「わ、私と反応が違う・・・!」

「そりゃぁ、・・・夫婦だからな」

弥一はなんともないように答え、凛緒はプルプルと涙目で震える。

そんな凛緒を見たセナは、得意げに言う。

「これが格の差」

「ーーーーーー。」

凛緒が俯く。その表情は暗くてよくわからないが、凛緒の周囲に魔力が漂い、剣吞な空気が流れる。そして凛緒の手にはいつの間にか杖が。

「やっぱり、今日ここで、決着をつける・・・」

「・・・受けて立つ」

向き合う二人。その瞬間二人から莫大な魔力の奔流が吹き出し、中間で嵐を創り出す。

セナが腕を振るうと背後に様々な魔法が生まれる。数々の魔法を背に悠々と佇むセナは、まるで何処かの英雄王。

凛緒が杖を構えれば、先端に氷気が集まり、氷の刃を創り出す。たった一本の槍で数々の魔法に立ち向かう凛緒は、まるで何処かの正義の味方。

向かう正義の味方は、槍を構え静かに言う。

「行くよセナ、魔法の貯蔵は十分か!」

「・・・ふんっ、思い上がったな泥棒猫」

激突する両者。撃ち出される魔法を凛緒が斬り払い、突き出される槍を魔法で防ぐ。

攻守攻防が入れ替わり、お互いに一歩も譲らない戦いに発展する。

「てっ、やめんかぁ!!ここはフェ◯トじゃないんだぞ!!てかなんでセナまでそのネタ知ってんだ!?」

周りへ被害が及ばぬよう、即座に結界を展開し、弥一が慌てて止めに入った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

なんやかんや有りつつ、ようやく全員集合したので、改めて全員で街を見て回る。(ちなみに全員には認識を誤魔化す魔術を掛けてあるため、人物がわかることはない)

「健、いっぱい露店があるのね」

「ほんとだな、日本とは違うが、やっぱりハロウィンだ」

「懐かしいな・・・」

「やっぱりそう思うよな」

「うん。まだ半年くらいしか経ってないけど、大分昔のことのように感じるよ。やっぱりこっちでも出来事が濃すぎたからかな」

その言葉で三人はこれまであったことを振り返る。勇者召喚、襲撃事件、訓練、こっちの世界の文化、人々、最近では魔王軍最強戦力との衝突と、色々なことがあった。

それと同時に、地球での生活や家族のことが頭を掠める。

雲行きが怪しくなってきた空気を健は、吹き飛ばす。

「・・・来年のハロウィンは、あっちで楽しもうぜ!」

「ええ、必ず」

「そうだね」

立ち並ぶ露店の数と、すれ違う人々の仮装に健と彩、雄也は懐かしく思う。懐かしく思うとは反対に、隣ではこんな会話も。

「パパ!パパ!あれおもしろそう!」

「弥一!メイもやりたい!」

「的当てか。賞品はかぼちゃのケーキ、うまそうだな。よし!やるか!」

ユノとメイに左右の袖を引っ張られ、露店に連れてかれる。その露店は、10個あるボールを的に何個当てられるかというゲームをしている店だ。見事パーフェクト達成ならかぼちゃのケーキが貰えるらしい。

「すみません、うちの妹が」

「全然構わないさ。ユノにも同世代の女の子友達が欲しかっただろうし、メイがユノの友達になってくれて良かったよ」

「本当にありがとう、ヘンリ」

「それを言えばこちらもですよ。王族の第三皇女という立場上、私以外メイと遊べる人はいませんから、メイが毎晩ユノちゃんの話を楽しそうに話すので、家族皆喜んでました。・・・でもちょっと寂しい気もしますけどね」

「「それはわかる」」

ヘンリの言葉にうんうんと頷く弥一とセナの二人。同世代の友達が出来るのは嬉しいが、一緒に遊ぶ時間が少なくなるのは少し寂しくも感じる。親心はそういうものなのだろう。

今度、五人で何処かピクニックにでも行こうかと話を弾ませる保護者たちと、仲良く遊ぶ子供達。

そんな隣では、凛緒とエルが二人でいた。

「・・・あの空気に入り込めない」

「・・・私もいつもそう思います」

「・・・苦労してますね、エルさん」

「・・・凛緒様も」

何故か不思議なところで意気投合する二人。しばらく、二人でブツブツと愚痴を言い合った後、凛緒は我慢の限界を迎え、弥一とセナの間に突撃する。

弥一とのラブラブ空間を邪魔されたセナは、邪険な雰囲気を身に纏い、魔法の嵐を無差別にぶつけ、凛緒も魔法と槍の嵐をぶつけ、第3ラウンドが始まってしまった。

それからは、それぞれが思い思いのハロウィンを過ごしていった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ん、ぱぱぁ・・・スースー・・・」

「よっぽど疲れたみたいだな」

「そうだね」

夕食を食べ終わり、リビングのソファで今日撮った写真を全員で鑑賞していると、弥一の膝の上に座っていたユノが、コクコクと船を漕いで寝てしまった。

胸元の服を小さな手でギュッと握り眠る愛娘の頭を優しく撫でながら、三人で微笑ましく笑う。

「もう十時ですからね。今日はメイ様と沢山遊んでいらしたようですから」

「少し早いがもう寝るとするか」

「そうだね」

そうして三人はリビングを出て二階に上がる。

「では、お二人ともお休みなさいませ」

「え?エルも一緒に寝ないの?」

廊下で別れようとするエルを、セナが引き止める。エルも「え?」というような表情だったが、すぐに首を振る。

昼のハロウィンの時、エルと凛緒の話を聞いて、偶には四人で寝てみようと思ったのだ。

「いえ、お三人の時間を邪魔するわけにはいきませんので」

「別に気にしないよ、今日はせっかくのハロウィンだったんだから。弥一もいいよね?」

「ああ、たまには家族四人でどうだ?」

「ですが・・・」

従者としての立場からか、頑なに断ろうとするエルに、セナは「こうなれば力尽くにでも」と捕まえようとしたその時、

「まま・・・えるおねぇちゃん・・・」

可愛い寝言で、ユノがセナとエルの名前を呼ぶ。それを見て弥一が笑い、「な?」とエルに言う。エルは困ったようにでも何処か嬉しそうにはにかむ。

「・・・そうですね、ユノ様にまで言われては断れません」

「エルもユノに甘いな」

「ええ、こんなにも可愛い私たちのお姫様ですからね」

流石のエルも日伊月家のお姫様には勝てないようだ。

それで改めて四人でベットに入る。金を消費するために高級なベットを買った為、四人で寝ることができる。

左から弥一、セナ、ユノ、エルで寝っ転がる。四人で寝ると心地よい狭さを感じる。それは人としての温もりが集まるからだろうか。

「おやすみ二人とも」

「おやすみ」
「おやすみなさいませ」

瞳を閉じれば、ベットの中の人の温もりを鋭敏に感じる。今日一日楽しんだせいか、その温もりと共に微睡みが支配する。

しばらくすると、二人の規則正しい呼吸が聞こえ、弥一も意識を微睡みに手放す。

普段は二人で使う広いベットは、この時ばかり心地よい狭さだった。

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