魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

夢のマイホーム

木々の色が変わり始める頃合。行き交う人々を眺めつつ、弥一は大通りを歩く。

「思えば一度も此処に来た事なかったな。召喚されてからすぐに襲撃があったもんな・・・」

アーセラム聖堂王国王都【セレナ】の中央通りを弥一は歩いていた。

魔王軍六属の襲撃から二ヶ月近くが経っている。

あの後魔王軍六属の大規模襲撃があった所為で、訓練どころではなくなり、王都に帰ってきたのだ。弥一もそれに便乗し
、一度王都に戻る事にしたのだ。

「すごいね弥一、街並みがすごく綺麗」

「流石は王都って言ったとこかな」

側にいたセナが話しかけて来る。その手は恋人繋ぎだ。

現在二人は一緒に帰ってきたクラスメイトとは別行動している。それは緊急依頼の報告を冒険者組合にしに行くためだ。

本来はもっと前にするべきだったのだが、弥一はすっかり忘れていた。

「色んなお店があるね。服屋に宝石店、武器屋・・・あっ!焼き菓子屋だって、後でユノちゃんとエルに買って帰ろ?」

「おぉうまそうだな。そうだな買って帰ろう。ついでに凛音達にも買って帰るか」

「・・・むぅ〜〜」

弥一が凛緒の名前を出すと、口を尖らせ目に見えて不満そうになる。にぎにぎと握っていた手が、ギチギチに移行して痛い。

「いててて・・・まだ喧嘩してるのか?」

「・・・別にそうじゃないけど・・・」

むぅ〜〜と再び口を尖らせる。弥一はどうしたもんかとため息をこぼす。

セナと凛緒は古城での喧嘩以降、時々弥一を巡って衝突する事が多々ある。この二ヶ月間の移動中も、どっちが弥一と寝るかなどを争って、魔法の撃ち合いにまで発展する事などがあった。

魔法の腕はセナが圧倒的に上なのだが、凛緒は魔法と卓越した杖術を使ってくる為、両者互角の争いを繰り広げていた。

弥一としては二人とも仲良くして欲しいのだが、乙女心は複雑なのだ。

「・・・弥一は凛緒のことどう思ってるの?」

「そうだな・・・小さい頃から一緒だったから、家族というか兄妹みたいなもんだな。もっとも、どっちが妹と弟かわかんねぇけどな」

凛緒とは小学校の頃からの付き合いになる。弥一の家の隣に小学生の時引越ししてきたのだ。家族以外では最も付き合いの長い人物だろう。

その頃から弥一は魔術を習い始めた為、必然的に同年代との友達との交流も少なかった。その為、隣の家で同年代での友達であった凛緒とは、家族ぐるみで遊ぶことが多かったのだ。

「・・・恋愛感情とかなかったの?」

「え?う〜ん・・・正直そう意識したことはないな。凛緒は家族とか、親友みたいな感じで接してきたしな」

「なら、私が弥一の初めて?」

弥一の言葉に嬉しそうにセナが顔を覗き込む。

「そうだ」

そう言って目の前の唇にキスをする。一秒にも満たない触れるようなキスだったが、今のセナにはたまらないほど嬉しく、蕩けた表情で顔に手を当てイヤンイヤンしている。

その際、周囲からもの凄い殺意が注がれたが、此処最近で鍛え上げられてきたスルースキルで無視する。いちいち気にしていてはイチャイチャ出来ないから!と言って鍛え上げたのだ。

「私も弥一が初めての相手。恋人も、夫婦も・・・夜も。大好き、弥一」

愛おしい眼差しを弥一に向け、今度はセナから顔を近づける。首に腕を絡め、少し背伸びしながらキスをする。

そんなセナを弥一も同じように愛おしく抱きしめる。二人はしばらくそのまま人目もはばからず唇を重ね続ける。

やがて「ちゅぱっ」と音を立てて二人が離れる。そこでようやく周囲の状況を理解した。

「流石にやり過ぎたな」

「早く行こう」

逃げるんだよぉ〜〜!と二人で即座にその場から退散する。(その際魔法や矢が飛んできたが、華麗に回避もしくは迎撃しておく)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その後なんやかんやありつつ、無事冒険者組合にたどり着いた。

「すみません。依頼の完了の報告をしに来ました」

「はい、ありがとうございます。それでは、依頼書の方を確認しますので提出をお願いします」

「分かりました。これです」

受付嬢に緊急依頼の依頼書を渡すと、受付嬢は目を見開いて驚く。

「え!?・・・すみません、お名前をお伺いしても?」

「日伊月弥一です。こっちがセナ・アイヤード。あと、今いないですけどエルネウィアもです」

「少々お待ちください。・・・えーっと、日伊月弥一様とセナ・アイヤード様、エルネウィア様ですね、すみませんでした。なにぶん、二ヶ月前の事でしたので」

「こっちこそすいません。いろいろあってすっかり忘れていたもので・・・」

「いいえとんでもございません、むしろ皆様が無事で良かったです。皆様は冒険者組合の貴重な最上級冒険者様ですから」

そう言って受付嬢は手元の資料を整理し、何やら書き込んで奥の方に消えると、大きな袋を持ってきた。

「こちらが今回の緊急依頼の報酬、お一人二億ネクトでございます!」

「「・・・え?」」

報酬金額の大きさに、しばし目が点になる二人。そして時間が経つにつれ脳の処理が追いつくと、二人は焦ったように聞く。

「え!?二億!?そんなにですか!?」

「・・・?はいそうですが?」

「どうしてそんなに?」

「緊急依頼は通常、国が所有の戦力では対処できない場合冒険者組合に依頼されるもので、その為危険度が通常の依頼とは桁違いなので、報酬金は高く設定されているんです。今回の場合案件が世界の希望である勇者様の命に関わる重要な案件でした為、国から相当な額の報酬金が用意されているんです」

「そ、そうなんですか・・・」

今回の緊急依頼を受けたのは弥一、セナ、エルの三人。一人当たり三億で換算し、トータル九億。弥一が日本にいた頃では想像も出来ない金額だ。

「では、どうぞ。今後ともこういった依頼があった場合はよろしくお願いします」

「は、はぁ・・・」

二人は袋一杯に詰まった金貨を受け取り、そのまま冒険者組合を出る。二人はすぐさま、別空間に九億ものお金を放り込む。完全にお金にビビっている。

「・・・とりあえず、エルに電話するか」

おもむろにスマホを取り出すと、エルに電話する。二、三回のコールの後繋がった。

「もしもしエル。今冒険者組合にいってきたんだが・・・」

『お疲れ様ですマスター。それでどうかなさったんですか?』

「・・・報酬が一人三億で合計で九億だった」

『ごほっ!ごほっ!・・・すみませんもう一度お願いします』

「報酬金が九億億だった」

『きゅ、九億ですか!?』

電話の向こうでエルが目を見開くのが分かる。弥一は受付嬢にされた話を説明すると、エルはなんとか納得する。

『そういうことですか・・・それでしたら私の分はマスターに渡します』

「え?いやそれはマズイだろ」

『いえいえ、私はマスターの従者ですので、私の物はマスターのものです』

「・・・本音は?」

『・・・そんな大金持っておくのが怖いので』

「まぁその気持ちは分かるよ」

エルの本音に弥一も同感だと思う。セナも怖いようで、三億を弥一に渡すといってきた。

その結果、弥一の手元には九億もの大金が。

「これだけの大金、ずっと持っておくのもなぁ〜・・・」

「だったら何か大きなものでも買う?」

「うーん・・・」

九億もの大金となると、大抵のものが買えてしまう。どんな物でも買っても大金が残ってしまうだろう。

散々悩み悩むと、ふと頭の上でLEDライトが点く。

「・・・そうだ!」

「ん?どうしたの?」

「今からエルとユノを読んで買い物に行こう」

「うんいいけど、何を買う気なの?」

セナが質問してくる。弥一はそんなセナに自信満々に言う。

「家を買おう」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

一時間後、弥一たちはエルとユノと合流し、王都最大の不動産屋に来ていた。

最大とあって至る所立派に作られており、全部で四階ある。弥一たち一行はその二階に来ていた。

弥一たちが部屋に案内されると、中には優しそうな笑みが特徴的な恰幅のいい男がいた。

「どうもようこそ王都最大の不動産【エンラルト不動産】へ!私はキャノン・フリクトバーと申します。本日はどのような物件をお探しでしょうか?」

「部屋が多くて、中心街から離れたところで、庭付きの物件なんかがあるといいんですけど、どうですか?」

事前に決めておいた内容を話すと、キャノンは手元の辞書の二倍はありそうな資料をめくって目を通すと、ページを開いて差し出してくる。

「候補としては三つありますね。一つは中心街から西に少し離れたところにある物件ですね。こちらは部屋数が六つと少し少ない気もしますが、庭がとても広いですね」

差し出された資料を見ると、確か庭は文句無しに広いが部屋数が少ない。弥一の理想としてはもう少し欲しいところだ。

「他は?」

「二つはここですね。先程より中心街に近くはありますが、庭も十分な広さがありそうな部屋数は十です」

二つ目の物件は、庭も先程よりは小さいがそれでも十分な広さもあり、部屋数も多い。ただ問題なのが、人が多く集まる中心街に近いことだ。

(魔術の実験は何が起こるからわからないから、できるだけ被害がないよう離れたほうがいいな)

家には魔術実験の部屋を設けたいと思っているので、人が多く集まらないほうが、何かあった時に対処が楽なのだ。

「最後は?」

「三つ目はこれですね」

差し出された資料を見る。それは中心街から程よく遠く、部屋数も十一と多い。しかも広い庭の他に、畑も用意されているというかなり優良な値段だ。

「どう思う?」

「いいと思う、台所も広いし、日当たりも良さそう。それに畑があるのは良い!一度家庭菜園してみたかったから」

「そうですね、私も家庭菜園やってみたいです」

「おにわー!おっきなおにわ!」

「・・・全員庭かよ。まぁ良いや、じゃあこの物件を直接見せてもらえませんか?」

「分かりました。それでは今から向かいましょう」

最終的に最後の物件を見ることになった弥一たちは馬車に乗ってその物件に向かう。





「ここがその物件になります」

王都から十五分、少し森に入ったところで馬車は止まった。

「へぇ〜、これか・・・」

白塗りの立派な外壁に、綺麗に整備された庭や庭の花壇。家の外観は普通の二階建て住宅より大きめ。

弥一たちの他にも全員声を漏らして思い思いに観察する。ユノは早速サニアを呼び出して、庭で遊んでいる。

「それでは中にご案内いたします」

キャノンは玄関の鍵を開けて、中に入る。

中の壁は綺麗に白塗りされており、床も高級感のある木材が使用されている。地球でもここまでの家は中々無いのではと思う程。

「壁と床もしっかりとした作りだ。それに・・・」

「ん?どうかしたの?」

弥一が目を瞑って黙り込む。セナが呼びかけると、弥一はゆっくりと目を開けた。

「いや、なんでも無い。それより次の場所に行かないか?次は台所でも」

キャノンは弥一に促され次の場所を案内する。その後、台所、リビング、寝室、書斎など案内される。

全ての案内が終わった後、全員満足の表情担っていた。セナとエルは台所などの家事周りの設備で盛り上がり、ユノとサニアは庭で盛り上がっていた。

そして弥一が一番気に入ったのは、風呂場だった。風呂場は香りの良い木材を使用した風呂で、風呂好きの日本人としては、日本を感じさせる風呂に親しみを覚える。

全てを見終わる頃には、全員の気持ちは一致していた。

「それではいかがなさいますか?」

「条件もピッタリだし、どの設備も良いし、ここにします。それでここは幾らですか?」

「ざっと五億ネクト程になります。本当はこれだけの物件はもっとするんですが、中心街から遠いのでこれくらいの値段になります」

弥一たちの所持金の半分くらいの額で、当初の目的である、大金を一気に消費するという目的を達成できる。残りは四億あるが、家具などを買えばもう少し減るだろう。

「五億ですね、ならこれで」

そう言って弥一は五億入った袋をその場で渡す。キャノンも流石に即その場で五億もの大金を払うとは思わず、軽く驚く。それでも流石プロというべきか、すぐに営業の顔に戻ると、書類を差し出してくる。

「それではこれが誓約書です、こちらにお名前を」

受け取った誓約書を読み、名前を記入する。

こうして弥一たちは、一生で一番の買い物と呼ばれるマイホームを、大金が怖いからという理由で手に入れた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

マイホームを購入し、取り敢えず寝れるようにと、高いベットを購入して今日は寝る事にした。

「そういえば弥一、家に入った時何で目を瞑ってたの?」

腕の中でセナが上目遣いに見上げてくる。格好は二人とも何も身につけていない。生まれた姿のままベットの中に入っている。

「あぁあれか、魔力の確認をしてたんだ」

「魔力の?」

「ここは龍脈が太い場所なんだ」

龍脈とは、大地を流れる魔力が多く集まるパイプのようなものである。そのパイプが大地をグネグネとまるで龍のような流れを取るため、龍脈と名付けられている。

この家は、浅い所を巨大な龍脈が流れているのだ。この龍脈が流れているところも、弥一がこの家を選んだ一つである。

「潤沢な魔力は魔術に必要不可欠だからな」

「へぇ〜、そうなんだ」

説明を終わると、セナが甘えるように身体を摺り寄せてくる。耳元では甘く熱い吐息。

そのまま弥一の唇にキスをし、そのまま貪るような激しいキスを何度も交わす。

「んっ、んちゅ・・・はむっ、んぁっ、やいちぃ、んっ・・・すきぃ、だいすきぃ、んちゅ、んくっ、んんっ・・・」

熱い吐息と舌が交わり、ぴちゃぴちゃと淫靡な水音が響く。それに混じり、セナが熱く愛を囁き、貪るようにキスをねだる。

「んっ、どうしたんだ?今日はいつも以上に積極的じゃないか」

「んぁっ・・・憧れてたの」

「憧れ?」

弥一の両頬に手を当て、顔を覗き込む。

「こうして好きな人と一緒にいられて、二人の家で過ごすのが。ちょっとした憧れだったの」

そう言ってセナが微笑む。すると弥一は、セナの後頭部に手を当てて引き寄せ、その唇を奪う。

「んっ!・・・ちゅっ、んくっ、んぁっ」

一度激しくキスを交わした後、弥一はセナを抱えて押し倒す形になる。

「なら、もっと叶えていこう。そう言った小さな憧れを。他には何かないのか?」

「多いよ?」

「上等だ、全部叶えてやろうじゃないか。それにその方が楽しい結婚生活になる・・・愛してる、セナ」

「ちゅっ、んんっ!はむっ、くちゅ、だめぇ、幸せ過ぎて、おかしくなっちゃう・・・!」

愛する夫に愛を囁かれ激しく求められ、今にも蕩けてしまいそうな表情で頬を赤く染める。

弥一は唇を解放すると、セナの小さな耳を甘噛みし、熱く囁く。

「もっと俺に、俺の、俺だけのセナを見せてくれ。大好きじゃ足りないくらい大好きだ、セナ」

そう囁くとセナの身体が震える。俺だけのと呼ばれ、その独占欲が堪らなく嬉しく、身体の内側から愛されているという幸福で満たされ、熱くなる。そうして弥一は、セナの唇を荒々しく奪い、そのまま手がセナの下腹部に伸びていく。

「んっ!あっ!だ、だめぇ!そんなに激しくしちぁ、んっ!あっ!!んやぁん!やいちぃ、わたしもっ!わたしもだいすきぃ!んっ、あん!・・・ーーーーーー」

それから一晩中、シーツの擦れる音とベットが軋む音が、セナの艶やかな声と一緒に微かに外に響いていた。




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