魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

フェルセン大迷宮

七夕から三日後、弥一一家は冒険者組合でビルファといた。
弥一とセナは旅用のリュックを背負っている。

「それじゃぁクライトさんユノをお願いします」

「ああ、ユノくんは冒険者組合で確かに預かろう」

弥一とセナはこれから迷宮を攻略しに行く。ユノはお留守番だ。
そのユノはセナの腰に抱きついたまま離れようとしない。

「ユノちゃんママとパパが帰るまでお留守番していてくれる?」

「やだ!パパとママと一緒がいい!!」

普段は聞き分けの良いのだがパパとママがいないとなると年齢相応のわがままをいう。そんなユノのわがままが嬉しくもあるがどうしようと困ってしまう。

「ユノ、これからパパとママは危険な所に行かなきゃならない。そんな場所にユノは危ないから連れていけないんだ。ユノは良い子だからそのへんよくわかるだろう?」

「でも・・・」

「じゃあパパとママがいない間これを渡しておく」

そう言ってユノに渡したのは二枚の呪符。ユノはなんだろう?、と不思議そうな目でみると弥一は呪符に魔力を流す。

「【式神生成】」

そう唱えると呪符が変化し、青い鳥と白い子猫になった。
目の前で紙が動物になった光景にユノは瞳を輝かせる。

「ねこさん!とりさん!」

ユノは白猫を抱き上げ、頭には鳥が止まっている。動物と戯れる我が子を見ながら弥一とセナは微笑み、再度ユノに話しかける。

「ユノ、これならお留守番できるか?」

「うん!」

「えらいね、ユノちゃん」

セナはユノの頭を撫でて褒める。弥一もユノの頭を撫で、そんあ二人に撫でられているユノはとても嬉しそうな表情を浮かべる。

そろそろ行かないとマズい時間になり二人は立ち上がろうとするとユノに裾を引かれる。

「パパ、ママ行ってらっしゃい!」

そう言って元気な明るい声で二人の頬に行ってらっしゃいのチュウをする。
娘の可愛い見送りにセナは微笑み、弥一は悶える。

「・・・セナ、俺もう死んでも良いかも」

「うん、気持ちはわかるけど私とユノちゃんが悲しむからやめようね?」

そんな親バカな弥一はユノの頭を撫でて立ち上がる。

「それじゃあ行ってきます」

「行ってくるねユノちゃん」

「行ってらっしゃい!」

二人は手を振り、歩く出す。ユノは手を大きく振りながら満面の明るい笑顔で二人を送り出す。ユノは二人が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

エルネ街から西に進み、ようやく目的地が見えてきた

フェルセン山岳地帯。ゴツゴツした岩でできた標高五千メートル級の山々が集まりそのどれもが崖や急勾配な坂でできている。とても一筋縄ではいかないような山がある中、その中でも一際大きな存在感がある山、その頂上に今回の目的地の【フェルセン大迷宮】の入り口がある。

入り口にたどり着くためには酸素が薄い山のなか、岩肌がむき出しの崖などを越えなければならない。それだけでも大変なのにこのあたりは魔物も多く発生する。そのためこの大迷宮に挑もうとする人は年間に片手で数えれるくらいしかいない。

このように厳しい環境なのは【フェルセン大迷宮】だけではない。すべての大迷宮が入り口にたどり着くまでの危険度が高く、その迷宮に挑むまでの危険度も【世界六大迷宮】と呼ばれる所以の一つでもある。

「あれがフェルセン山岳地帯か。確かにあの頂上まで行こうとしたら大変だな」

「山に魔物も多くいるし、それに空にも飛行型の魔物がいる。地上にも気おつけなきゃいけないし、空にも気おつけなきゃいけないから大変」

山の空には大型の鳥の魔物が複数見られ、また山にも【探査魔術】で多数の魔物の存在が確認できた。

こだけの難所となると入り口にたどり着くまでに相当な苦労を強いられる。

しかし弥一たちには関係ない。

「よし、それじゃ飛んでいくか」

「なんかインチキくさい・・・」

「いいだろべつに!?」

飛んでいけば山を登る必要はなく魔物を相手にする必要もない。飛んでいけば空の魔物に襲われるが、フェーズⅡでもない魔物など今の二人の相手にはならない。

【飛行魔術】をセナにもかけて飛ぼうとすると、セナが裾を引っ張ってくる。

「じー・・・」

「・・・もしかして抱えて飛ぶのか?」

「うん。そのほうが好き」

「でも魔物の相手は?」

「それは私がやる。それに弥一なら抱えたままでもあれくらいなんてことないはず」

「それはそうだが・・・ああ、わかった、わかった。まったく甘えん坊だな」

「それは弥一と二人きりの時だけ」

そういって微笑むセナがあまりにも魅力的でドキッとなり、まぁ抱えたままでも十分いけるか、と思いセナの背中と膝裏に腕を回して、引き寄せながら抱き上げる。

お姫様だっこで抱きかかえられたセナは、前に【飛行魔術】で朝焼けの空を飛んだことを思い出して嬉しくなり、離れないように弥一の首に腕を回ししっかりと密着する。

「よし、飛ぶぞ!」

この前は滑空が限界だった【飛行魔術】も、今ではお手の物。

足ともから魔術陣が通り過ぎていくと、二人は重力の楔から解き放たれ、空へと舞う。

コートの裾をたなびかせ空を自由自在に飛び回る。
そんな弥一たちを見つけた飛行型の魔物たちが一斉に殺到してくる。
先行してきたのは鷲の魔物。鷲の魔物は翼を閉じ全速力の急降下で弥一たちを襲うが、弥一はそれをさっ、と回避しつつすれ違いざまに回し蹴りをその側面に喰らわせる。

飛ばされた鷲はそのまま横から襲おうとしてきた鷹の魔物二体に直撃し、まとめて吹き飛ばされる。

蹴りを喰らわせたと同時に今度は背後からツバメ型の魔物の集団が一斉に突撃を始める。

「【風碧砲】!」

風の大砲が放たれ突撃してくるツバメを飲み込み、その圧倒的圧力で、圧殺。

次から次へと襲ってくる魔物を避け、蹴り技で対処していく。セナも魔法で次々と魔物を撃ち落としていく。

しかし、どれだけ対処しても一向に減る様子のない魔物の集団に、少し焦り始める。

「セナ、このままじゃジリ貧だ。加速してここを抜けるからしっかり掴まってろ!」

「うん!」

グッと力を溜め、加速する。周りの景色が物凄い勢いで後ろに流れ、置き去りにしていく。襲い来る魔物を避けて、避けるいく。魔物は後ろから追跡して来るが遅過ぎる。
弥一はそれを確認すると振り切るために更に加速する。

程なくして魔物が追跡を諦め見えなくなる。そしてそのままの勢いで雲を抜け、山頂が見えた。

「何処だ入り口は?」

「弥一、あそこ!」

指を差した方向には入り口を緑に輝く幾何学模様の石材で縁取られた洞窟が見えた。
近くに着地し、セナを下ろすと入り口に向かう。

「この模様、【グリノア大迷宮】にもあったやつだ。あの時はわからなかったが、この術式は【空間魔術】のそれだ」

「つまり?」

「この迷宮の内部は外部から切り離された魔術的に空間が切断されてる。だから【探索魔術】も機能しない」

「なるほど」

「さて、いよいよ大迷宮だがここは【グリノア大迷宮】とはレベルが違う。気を引き締めていくぞ!」

「うん!」




大迷宮内部は【グリノア大迷宮】と同じように薄明かりが内部を照らし、視界の確保には困らなかった。

壁や天井は荒く切り抜かれた岩盤で出来ている。岩盤を掘って行けばと考えたが、所々にある緑色の杭が壁を破壊するたびに高速で修復していくためそれは出来ない。

二人は前と後ろを十分に警戒しながら進んでいく。今のところ魔物の気配はない。

「不思議だな、魔物の気配がない。」

「なんか不気味・・・」

不思議と先程から魔物の気配が感じ取れないことに、まだ層が浅いからか?、と思いながら進んでいきーー

「セナ!!」

「え?きゃっ!」

咄嗟にセナの腕を掴んで引き寄せる。腕の中に収まったセナはいきなりのことに動揺するが、さっきまで自分がいた所を見て、戦慄する。

さっきまでセナがいた所の地面が、シュゥウウーと音を立てて溶けているのだ。

弥一はレルバーホークを抜きざまに壁の一点に放つ。
銃口からプラズマのスパークを放ち発射された弾丸は壁の一部に命中しーーー肉片と血を撒き散らす。

一体何が!?、とセナが驚愕していると壁の一部がぼやけたと思ったらそこから元は生き物だったであろう肉片がぼとりと落ちる。

「い、いったいなに?」

「迷彩能力をもった魔物だ、壁の一部に同化して獲物が来たら強力な酸性の毒を浴びせるんだろう。魔力も隠蔽しているとなると多分この魔物はフェーズⅡだ。まさかいきなりの魔物がフェーズⅡとはな・・・こりゃ確かに【グリノア大迷宮】とは比べ物にならないな」

「確かに・・・あと、ありがとう弥一」

「気にするな。俺も攻撃されるまで気づけなかったんだ。ダメだな、父さんならこんなの攻撃される前に見つけられたどろうに。俺もまだまだだな」

「そんなことない。弥一は私を必ず守ってくれる。それにこれからそうなればいいだけの話」

「そうだな。よし!先に行くか!」

「うん!」

弥一は【解析眼】で看破系の魔術を発動し、壁や天井、床などに魔物が隠れていないかを視認しながら、セナは周りに炎の球体を展開しながらいつでも反撃できるようにして二人は先を急ぐ。



「行け!」

セナがピッと指を指すと辺りに浮遊していた数十の焔の弾丸が焔の尾を引いて一斉に放たれる。
流星群のように通路を埋め尽くし、迫り来る魔物の集団に直撃し、殲滅する。

 「ハッ!」

壁から現れた石でできたゴリラ型の魔物を弥一は攻撃をされる前に懐に潜り込む。

そして地面を踏み抜き、腰だめの拳の一撃を顎に叩き込む。
ゴリラの巨体は弥一の拳を受け天井に頭だけ突き刺さる。

ゴリラはぷらーんと垂れ下がっていたが意識を取り戻したのか脱出しようともがき天井を両手で押す。だが迷宮の自動修復のせいで高速で隙間が埋まり、頭部が完全に天井の一部となり、呼吸ができなくなったゴリラが思いっきり暴れた後、再びぷらーんとなって動かなくなった。

「弥一、さすがにそのやり方は酷い・・・」

「し、しかたないだろこうなったんだから」

ぷらーんと垂れ下がるゴリラを見てセナが哀れむような視線を向ける。弥一もまさかぷらーんとなるとは思わなくて、言い訳がましくセナに言葉を返す。

二人はぷらーんとなったシュールなゴリラを見据え「行くか」「うん」と再び歩き出した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ん?この鉱石はもしかしてミスリルか!?」

あれから魔物や階層のボスを倒しながら進み、現在は第十六層階層で通路を進んでいると壁に鈍く銀色に輝く鉱石を見つけた。
【錬成魔術】で鉱石を取り出すとそれはミスリル鉱石だった。

「おお!凄い!この前のミスリルより魔力循環率もいいぞ!」

「そんなに凄いの?」

「この前のミスリルにこのミスリルを混ぜればより上質なミスリルになるはずだ」

「でも弥一ミスリル使ってないよね?」

「まぁミスリルを加工しようにも設備がないしな。【グリノア大迷宮】の工房ならできるけど、ここんとこ忙しくて行けてないしな。あ、それならちょうど道も狭くなってきたしミスリル使ってみるか」

弥一は腕に装着しているミスリルのリングに触れ、魔術を発動する。

「《魔鉱錬成》」

するとリングがドロッと液体のようにうねり腕を伝って手のひらに集まる。集まったミスリルは手の中で剣の形になった。剣の長さは刃渡り四十センチ程の両刃の短剣だ。

弥一はそのミスリルの短剣をその場で払い感触を確かめる。

「うん、なかなかのできだ。流石ミスリルだ」

「剣?」

「ここからは道が狭くなってて【蒼羽】じゃあ満足に振るえないからな」

「なるほど。それにしても鉱石がこんなに簡単に変形するなんて」

「魔力を込めた鉱石をあらかじめ設定しておいた武器に変形させる【錬成魔術】の一種だ。なかなか汎用性高いぞ?」

弥一は【蒼羽】を転移させて仕舞うと代わりにミスリル剣をこちらもミスリルで作った鞘に仕舞い腰に装着して歩き出す。

「さて、ミスリルを回収したわけだが、そろそろ次のボス部屋だ。さっさと倒して最深部でいくぞ」

「うん。ユノちゃんが待ってるもんね」

見えてきたボス部屋を見つつ二人は戦闘態勢になる。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

数十時間後、二人はようやく迷宮の二十九層まで来ていた。戦闘自体は大したことは無かったが流石に連続の戦闘に精神的疲労はある。

最後のボス戦を前に食事をとって休憩をしている。

「はい弥一、あーん」

「あーん」

差し出されたサンドイッチを食べる。レタスのシャキシャキ感とハムとチーズとマヨネーズの組み合わせがよく合っておりまたマスタードが効いていて疲れた脳に喝を入れ集中力が増す。シンプルながらも丁寧に作られておりさらには先を体調を見据えた料理に驚く。

「うん!うまい!流石セナだなよく考えて作ってある」

「ありがと、まだあるよ?食べる?」

「もちろん食べるけどセナも食べるだろ?ほら、あーん」

「あーん。・・・うんよくできた」

「うん、ほんとにうまい。もぐもぐ」

「あっ、弥一マヨネーズついてる」

「え?どこだ?」

「まって・・・ぺろっ」

「うお!?」

マヨネーズをセナが舐めてふき取る。突然の事に弥一は思わず驚いて飛び跳ねる。セナはやっておいて恥ずかしくなったのか少し頬を赤く染める。

「これ、思いのほか恥ずかしい・・・」

「そ、そうか・・・」

弥一は舐められたところに手を当て目を逸らす。セナも自然を目を逸らす。いつもはこれ以上の凄いことしているのだが初めての事に恥ずかしさが勝ったのだろう。

「さ、さぁそろそろいくか」

「・・・うん」

二人は恥ずかしくなりつつも片付け、休憩を終える。片付けた後最終準備をする。意識を切り替え準備を完了する。

「さぁ、いくぞ」


コメント

  • 海月13

    最近更新が遅くなってすみません!その、色々と忙しくって、、、(言い訳)。ごめんなさい!でも安心して下さい!この後の展開はもう既に考えているので! これからもよろしくお願いします!

    3
  • 旧ネオン道理

    更新はよw

    1
  • SIno

    めっちゃおもしろいです!!

    6
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