魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

本当の旅の主発


次の日弥一とセナはリカード邸で朝食をとっていた。リカードとエウラは日本食を大変気に入ったらしく、今朝は卵焼きに味噌汁ご飯、そしていつの間にかセナが教えていたたくあんだった。
またこのたくあんが一番気に入ったらしく朝食が終わった今もボリボリとみんなで食べている。

リカード邸のリビングにボリボリボリボリとたくあんの音が響く。ボリボリボリボリボリボリ・・・

やがてボリボリも終わり、みんなで一息してお茶を飲んでいるとリカードが少し茶化す様に聞いてくる。

「しかし昨日の結婚はある意味冗談の様なもので、時間をかけて改めて勧めてみようと思ったんだけど、まさかその日にプロポーズするとは、弥一君には驚かされてばっかりだよ。そこまでセナは魅力的だったってことかい?」

そう言って娘の結婚が嬉しいのかとても嬉しそうに微笑み、お茶をずずっとすする。

「もちろん。セナはとても魅力的な女の子ですよ」

そんなリカードの言葉にすぐにさも当たり前と言う様に言葉を返す弥一。その弥一を見て左手の指輪を抱きしめながら、ハートが見えそうなくらい幸せを辺りに振りまいているセナ。

「ははは、早く二人の結婚式が見たいものだ」

「ほんとね〜」

エウラはリカードに寄り添い、リカードもそんな妻を甘やかし、こちらでも幸せを振りまいている。

リビングに幸せが溢れとてつもなく甘い空間になっていた。

そんな中リカードが思い出した様に言う。

「そうだ弥一君、エルネ街についたら冒険者組合に行ってみるといい。」

「冒険者組合ですか?」

弥一は言葉からラノベなんかでよく聞く冒険者ギルドを思い浮かべる。ギルドではなく組合だがあまり意味は変わらないだろう。

「冒険者組合は全世界の国が認可している独立組織でね、そこで冒険者として登録すればどこの国でも通用する確かな身分が手に入る。それに冒険者だと様々な恩恵があるんだ。これから色々な国に旅をするとしたら登録しておくといいだろう。エルネ街の冒険者組合長とは少々知り合いでね、よかったら推薦状でも書くが、どうかね?」

どうやら弥一の知っている冒険者ギルドと同じらしい。どこの国でも通用する身分は確かにあった方が便利なので断る理由もない。

「そうですね、確かにあった方がいいのでお願いします。」

「分かった。あとで出発するときに渡そう」

「ありがとうございます」

冒険者というものは一度やってみたかったので少し気分が高揚する。冒険者組合に行ったら何をしようか?と想像しながら、横で甘えてくるセナの頭を撫でる。

その後弥一とセナは旅の準備をするため離れの家に戻って行った。




「ただいま、セナ・・・」

「おかえり、どうしたの?」

「いや、ちょっとな・・・」

旅の準備で足りないものが出て来たので里にある店に買い出しに出て行った弥一なのだが、そこで里の人達に捕まり、村を救ってくれてありがとうや昨日の決闘が凄かったや、結婚とはどういうことだ!?と次から次へと言われ、逃げ出すこともできず、しまいにはセナとの結婚で「勝負しろ!」と言ってくる者も多数いたため疲れ切っているのである。まぁ勝負に関しては「本当セナは愛されてるな・・・」と思いながら、開幕速攻のクイックドローで【硬度弾】無殺傷制圧用硬度(ゴム弾)を眉間にお見舞いし、沈めていったが。

「・・・なんか、ごめんなさい」

それを聞いて少し申し訳ない気持ちになり、弥一の頭をなでなでしながら謝る。

弥一は疲れをなでなでで癒されながら「愛されている様で嬉しいよ」と言って、準備の続きを再開する。

魔術品が不足がちだったので調達できたのでよかった。また、里の鍛冶屋で興味深い物を見つけた。

それは銀のかがやきを持つ金属だった。十キロくらいの見た目なのだが実際持ってみると見た目に反して軽い。

その金属の名はミスリル。弥一もこの名前を聞いたときは驚いた。
このミスリルは見た目に反して非常に軽く、また鋼よりも硬い希少金属である。

地球ではミスリルは、J・R・R・トールキンの小説『指輪物語』及び『シルマリルの物語』の世界に出てくる架空の金属として知られている。ゲームなどでもよく見かける金属だ。

描かれているミスリルとは少し違う様だが、架空の金属に思わず弥一は購入した。またこのミスリル、魔力の循環効率も良く、魔力も少しなら蓄積できる様で魔鉱石の一種である事も分かった。

このミスリルのおかげで新しいアイディアも出て来て魔術師としての血が騒ぐ。しかし今は旅の準備をしないといけないので、取り敢えず【錬成魔術】でミスリルをリング状にして小分けし、何かあった時のため2、3個腕や太ももに装着しておく。セナにも魔力を込めたミスリルを外付けの魔力タンクとしてブレスレットにして渡しておく。

こうして思わぬ収穫もありつつ昼頃には出発の準備が整った。準備を終えた弥一達はリカード邸を訪れ、出発の挨拶をする。

「弥一君。これが推薦状だ。組合に行ったら受付にでも渡せば通じるはずだから」

「本当にありがとうございます。リカードさんには色々な事でお世話になりました。」

「気にする事はない。これくらいなら幾らでも手をかそう、何せ未来の息子の為だからな」

「本当、あなたには敵わないですね」

受け取った封筒をカバンに入れそんな会話をする。短い間だったが二人の間には確かな繋がりができた。そして、団欒も程々にリカードとエウラと一緒に里の門に向かう。

四人が門に着くとそこには弥一達の出発を聞きつけた人たちが待っていた。里の英雄の旅立ちを見送りに来たのだ。

里の人々に見送られながら四人は門の前に行き立ち止まって、最後の挨拶を交わす。

「二人とも何かあったら遠慮なく帰って来て頼りなさい。私達が必ず力になろう。」

「短い間でしたけどありがとうございました。何かあったらその時は頼らさせてもらいます。」

「二人とも本当に気を付けてね。弥一さん、うちの娘をどうかよろしくお願いします。」

「心配し過ぎだよ二人とも、でもありがとね」

一言二言話をし、最後に里の人々に向かってお礼を言う。人々の方からも応援や感謝の言葉などいろんな言葉をかけてくる。たった二日しか居なかったけれども一人一人が暖かく、弥一にとってここはとても居心地がよく、第二の故郷にも思えた。そして、いよいよ時間になる。

「それじゃ、もう行きます」

「ああ、全ての迷宮を攻略してお父さんの謎を解き明かせることを祈っているよ」

最後の握手を交わし、弥一とセナは門の外に歩き出す。別れの言葉はこの場面では相応しくない、ここが第二の故郷でまた帰ってくるのなら、もっと相応しい言葉が存在する。

少し歩いたところで顔だけを振り向かせ、弥一とセナは手を挙げて元気な声をあげる。

「「行って来ます!」」


こうして異世界の魔術師と精霊の少女の本当の旅が始まった。



コメント

  • 恋

    おても面白いです!!これからもよろしくお願いします!! がんばって下さい!

    5
  • 海月13

    フォロー数600達成!!ありがとうございます!!

    7
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