魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

日伊月甲明

最後のボスを倒し謎の地下施設に辿り着いた弥一とセナはそこで名前が刻まれているプレートを見つけた。

そのプレートには弥一が一番知っている名前が刻まれていた。

「日伊月 甲明・・・俺の父親だ。」

「弥一のお父さん?」

「父さんは5年前に神獣との戦いで爆発に巻き込まれて死んだ・・・と思われていたんだ。」

「でもこの名前は」

「ああ、間違いなく父さんだ。爆発に巻き込まれて死んだとばかり思ってたが、まさかこの世界に来ていたなんて。」

「じゃあこの迷宮を作ったのはもしかして。」

「父さんだろう。最後に出て来たゴーレムなんか魔術以外にも科学についても詳しくないとあんなのも作れない。そんな人間父さんくらいしか知らない。」

弥一の父親、日伊月甲明は魔術師としての顔だけでなく科学者としての顔も持ち合わせており、あの様な魔導人形を作れる者は地球には甲明しかいない。

とこの迷宮を作ったのが弥一の父親なら一つの疑問が生まれる。

「この迷宮を作ったのが弥一のお父さんなら時間が合わないよ?この迷宮は15年前くらいに現れたんだから。」

そう弥一の父親、甲明が消えたのは5年前。15年前に出現したこの迷宮とは時間が合わないのである。

「そうなんだよなぁ〜。でもあのゴーレムを作れるのは父さんしかいないしこのプレートも父さんの名前だから、多分こっちの世界に来る時なんかあったんだろうけどこればっかりはどうもわからん。」

弥一もこの謎についてはお手上げで手を振る。

「まぁここで悩んでもしょうがない、ここである程度準備してここを出るか。さっき確認した時に転移用魔術陣もみっけたし。」

「わかった。私も疲れた、早くあのベットで寝たい。ふぁ〜っ。」

迷宮では交代で見張りをし睡眠をとっていたが、熟睡できるほどではなかったので、緊張感が解けた所為で眠気が襲ってきたのか少し眠そうにあくびをもらすセナ。

「風呂もあったし、入って寝ろよ。」

「うん。」

そうしてセナは先に眠気でふらつきながら部屋を出て行った。

そんなセナを見送った弥一はプレートの横に掛かっているコートとに目を向ける。

そのコートは甲明が使っていた魔術加工が施してあるコートだった。

このコートは弥一が大人になった時貰い受ける物であったが、貰う前に甲明は消えてしまった。

コートを手に取り、ゴーレムとの戦闘によってボロボロになったコートを脱ぎ、着てみる。

サイズは弥一の大きさより少し大きかったが調節すれば問題ない大きさだった。

しかし弥一にとってこのコートは大きさ以上の意味を持つ。

「いつかこのコートに見合う様な魔術師になってみせる。だから父さん、俺に力を貸してくれ。」

それは弥一にとっての宣言だ。コートに見合う父をも超える最高の魔術師になるという宣言だった。

そうして物思いにふけていると、胸ポケットに何かがはいっていた。

それは写真だった。家族三人で撮った写真でこの写真が最後の家族写真だった。

写真を見て弥一は泣きそうになった。だが先程最高の魔術師になると宣言したからには泣くわけにはいかない。グッと涙をこらえる。

すると写真の裏に何かが書かれていることに気づき裏を見る。そこにはこう書かれていた。

『越えてみせろ弥一』

限界だった。こらえようと下唇を噛むも涙が溢れて地面に落ちる。

甲明が残したこの言葉は弥一が地球で良く言われていた言葉でとても懐かしく、今一番欲しかった言葉だった。

荒々しく涙を拭くがその度に言い表せない感情とともに涙が溢れてくる。

一人残った部屋で弥一は涙を流しながら静かに泣いていた。




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