ヘタレ魔法学生の俺に、四人も美少女が寄ってくるなんてあり得ない!

神楽旭

貴方の答えが聞きたいのです

三日後。八月八日、天条鳳邸。
「『三日待ってください』か……」
三日前、私は告白しました。十一年来の想い人雨宮暁さんに……。
そして、今日。いつ来るのだろうか。フラれたらどうしよう。どんな顔をして会えば良いのか分からない。
私がどんどんマイナスの方向に考え込んでいると、
ピロンッと、スマホに着信が届く。
私はそれを聞くやいなや、スマホの電源を入れた。
【夜分遅くにすいません。結論から言うと、先輩の告白には答えられません】
「嘘……」
一番あって欲しくないことが現実になってしまった。
じわりと涙が浮かぶ。何故でしょう。フラれてしまったのに、どこか清々しい気持ちが私を支配する。
気晴らしにシャワーでも浴びようと立ち上がると、またしても着信が届いた。雨宮さんからのようです。
【告白には答えられませんが、まだフッた訳じゃ無いです。俺が一人を選ぶには、まだちょっと早いかなと思って……】
様々な感情が私の内側を駆け巡る。
しまいには泣き崩れてしまった。でも、私の中にあったのは、悲しみとは真逆の感情。
私は涙で歪んでしまった視界に映るスマホを操作し、打ち込んだ文を送信する。
【これからもお願いします。『暁さん』】
「さて、ちょっとシャワーでも浴びましょう!」
そう言って浴室に向かう私の足取りは、怖いくらいに弾んでいました。

「……『一人を選ぶにはまだ早い』……彼らしいですわね」
広いバスルームで、独りごちる。
優柔不断な言葉。まるで……まるで……、
「……焦らされている気分ですわ……」
いつになっても良いから、私を選んでくれないかしら……。そんな事を考えながら、浴槽に身を沈める。
「九条さんもキャサリンさんも、華さんも、皆魅力的な女性なのに……私には何があるのでしょう……」
九条さんは包容力、キャサリンさんは無邪気さ、華さんは庇護欲をそそる行動。
「私には……。ああ、分かりませんわ。私の長所……」
今度、暁さんにでも聞いてみましょうか。
『お嬢様。悠真様がお呼びです』
「お父様が?」
唐突に聞こえたのは、私の専属メイドの緋川さん。……お父様がお呼びだなんて、何かあったのでしょうか……?
私は少しの不安を抱きつつ、バスルームを出た。


「やあ桜良。夜遅くに済まないね」
「いえ、お父様。そして、何かご用件があるのですか?」
リビングにいたのは、お父様_____彼は五十過ぎのはずなのに、老いを知らないようです_____と、お母様。家族三人だけが、リビングを占拠していた。
「何、用件って程でも無いよ。ほら、そこ座って、リラックスリラックス」
お父様……。暁さん一般の方が見たら、『この人本当に先輩の家の当主なんですか?』と、首をかしげながら問うて来るでしょう。
しかし、彼こそが天条鳳グループを世界的な大企業を経営するまでに導いた張本人であり、ご令嬢の父親なのです。
「で、桜良。君は海外留学をする気は無いかい?」
「海外留学?どこに?」
「イギリスのウェストミンスター校。彼の国でも両手の指に入る程の名門校さ」
ウェストミンスター校……将来的にグループの跡取りになるだろう私には魅力的な提案ですが、
「お父様。私、留学は致しませんわ」
「日本の学校では得られない事も学べるかも知れないのに?」
「ええ。だって、私には_____」
「雨宮暁君がいるから。だろう?」
「どうしてそれを?」
思わず目を見開いてしまう。
「ふふん。僕も娘の恋を応援する人間の一人なのさ」
お母様も微笑んでいる。
「雨宮君、どんな子なのかしら?桜良が惚れる程の子ですもの。きっととても聡明な子なのでしょうね」
……彼は聡明と言うより、心配りの出来る方でしょう。……いや、心配りではなく、力を他人の為に使える方でしょうか?
「私と暁さん、九条さん、キャサリンさん、そして華さんの五人で海に行ったことがありまして」
「ああ。どうだい?楽しかった?」
「ええ。……そこで私がナンパされているところに、暁さんが割って入ってくれましたの」
あの身体強化魔法……かけ方がずさんでしたので、相当焦っていたのでは無いでしょうか……。
「彼は何か武道を習っているのかな?」
「いいえ。魔法を使ったのですわ」
彼自身から武道を習っているという話は聞いたことがありませんし、他の皆さんもそのような事は話しておりませんでした。
……なのに、無駄に体格が良いのです……。
「ほう。雨宮君は魔導師なのか。優秀だろうなあ」
「彼の成績は分かりかねますが……少なくとも、潜在能力ポテンシャルが高いのは確かですわ」
しばし微妙な空気が私達を包む。
「おや、もうこんな時間だ。ごめんよ。長話に付き合わせちゃって」
「おきになさらず。お父様。では、お休みなさい」
「ああ。お休み」
お母様にも一礼し、私は自分の部屋へ戻ったのでした。

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