Spiral Labyrinth……螺旋の迷宮
1
指揮者の志摩憲広とその妻でピアニストの悠紀子には6人の子供がいる。
夫婦共に音楽が縁で結ばれたために、音楽に関連のある名前を子供たちにつけた。
長男は、ピチカート……pizzicato 弦を指ではじくという意味の海音。
長女は、エレガンテ……elegante 優雅にから英玲奈。
二女は、カノン……canon ギリシャ語で「規則」から歌音。
次男は、スタッカート……staccatto 音と音の間を切って音をあけるから高飛。
三男は、レント……lento 緩やかにから蓮斗。
そして、末娘がリズム……rhythmから里鶴夢。
夫婦も、年の離れた兄姉は演奏家として忙しく、里鶴夢は家政婦さんや乳母に育てられたようなものである。
しかし、里鶴夢は両親や兄姉のことが大好きだったし、尊敬していた。
そして、今日は皆揃うことと、次兄の高飛が迎えに来てくれると先程メールが来ていたので急いでいたのだった。
だが、里鶴夢は転落し、地面に横たわっていた。
叩きつけられた先がセメントやアスファルトではなかったとは言え、4階から転落したのである。
先生や生徒たちが集まり、おろおろとしている。
そこをすり抜けるようにして現れたのが志摩高飛。
「何があったんですか?」
「あ、し、志摩さんの……」
担任の教師は蒼白になる。
「えぇ、志摩里鶴夢の兄ですが……リズに何かあったんですか?」
「あのっ!」
近づいてくるのは救急車、そしてパトカー。
「お、お兄さん、落ち着いてください!」
「俺は落ち着いてますが?何か、リズにあったんですか?」
何人かの教師に取り囲まれていた場所で、小さい声が響いた。
「高飛……お、にい……」
「……リズ?リズがそこにいるんですか?」
教師を押し退け、覗き込んだ高飛は言葉を失う。
小さな妹の身体から深紅の液体が広がっていく……腕や足があり得ない方向に曲がって……。
「り、リズゥゥ!」
「志摩さん!落ち着いてください!救急車が来ます!」
「何があった?リズ?リズ!兄ちゃんだぞ?お兄ちゃんって呼べ!リズ!」
その叫びに薄く目を開けた里鶴夢は、唇を動かすと意識をなくした。
「リズ!何故だ?どうして!何で!」
背後から、救急隊員が寝台を運んでくる。
「すみません!飛び降りと言うのはこちらですか?」
「違う!リズはそんなことしない!」
「……ご家族ですか?」
「志摩高飛!この子は妹の里鶴夢です!今日は部活があったのですが、早退して戻ると言うので迎えに来たんです!自殺なんかとんでもない!誰だ!リズをこんなめに遇わせたのは!」
「待ってください。まずは妹さんの命が最優先です。運びますので、お兄さんも付き添って戴けますか?」
隊員の言葉にうなずく。
「はい!解りました。どこの病院に連れていくのでしょう?家族が心配しているかも、教えてください!」
「病院は今日の救急病院です」
寝台を追いかけながら、高飛は一番冷静……だと思われる長兄に電話を掛ける。
「もしもし?兄貴!」
『なんだい?リズは?一番にだっこしたいんだけど……』
30代半ばの兄だが、20下の妹を実の娘のように盲愛している。
内心、失敗したと思いつつ、
「兄貴!落ち着いて聞いてくれ!」
『落ち着いてないのは、高飛だよ』
「突っ込みはいい!すぐに父さんや母さんや姉貴たちにも知らせてくれ!リズが!リズが学校の螺旋階段から転落した!周囲は自殺だの言ってるがそんなことはあり得ない!救急病院に行くから!俺の車、学校に置いてるから、蓮斗にでもスペアで」
『螺旋階段から転落しただって?解った!すぐに向かう!』
「一人で来んなよ。父さんや母さんたちにも連絡してくれよ!」
念を押し、電話を切る。
そして、着いていきつつ、周囲を見回し、
「……敬太郎、いねぇなぁ。いつもならいるのに……」
呟く。
里鶴夢の幼馴染みで同級生である。
と、学校の玄関から走り出てくる敬太郎を見つける。
「よぉ、敬太郎。傍にいなかったのか?」
汗だくになりつつ近づいてきた敬太郎は、
「……ご、ごめんなさい……高飛兄ちゃん。俺が近くにいた……」
「何だと?」
「……リズに苛められてるって言ってた子がいて、その事で階段の上で言い合いになって……」
高飛は敬太郎を睨み付ける。
「……お前は、リズを信じなかったんだな?」
「引っ張ったのはその子で……」
「言い訳すんな!」
高飛の声が、敬太郎の胸に突き刺さる。
「……リズをきちんと調べもせず、独断で責めた……!幼馴染みがどんな人間かわからない時点で、お前はリズを傷つけたんだ!もう会うな!謝罪も受けない!じゃぁな」
「にっ!」
「お前の謝罪で、リズが元気な姿で家に帰ってくるなら良いが、この状態で、何が言える!言ってみろ!着いてくるな!」
高飛は怒鳴り付け、救急車に乗り込む。
そして扉が閉ざされ、救急車は走り去ったのだった。
その様子を呆然と見つめていた敬太郎の背後から、
「谷崎くん。警察の人が説明してほしいって言っているの。良いかしら?」
音楽教諭の声に振り返った。
「は、はい……説明します。現場まで上がっていった方が良いでしょうか?」
「あの螺旋階段は、かなり古いですし、鉄柵がないので……中の階段から行きましょうか」
教師と敬太郎、和真に捕まえられている香也と数人の警察官は学校に入っていったのだった。
ちなみに、当然部活動や、図書館などでの勉強も中止となり、一応教諭たちに箝口令は敷かれたものの、生徒たちは志摩里鶴夢という少女が転落した理由を想像しながら帰っていくのだった。
夫婦共に音楽が縁で結ばれたために、音楽に関連のある名前を子供たちにつけた。
長男は、ピチカート……pizzicato 弦を指ではじくという意味の海音。
長女は、エレガンテ……elegante 優雅にから英玲奈。
二女は、カノン……canon ギリシャ語で「規則」から歌音。
次男は、スタッカート……staccatto 音と音の間を切って音をあけるから高飛。
三男は、レント……lento 緩やかにから蓮斗。
そして、末娘がリズム……rhythmから里鶴夢。
夫婦も、年の離れた兄姉は演奏家として忙しく、里鶴夢は家政婦さんや乳母に育てられたようなものである。
しかし、里鶴夢は両親や兄姉のことが大好きだったし、尊敬していた。
そして、今日は皆揃うことと、次兄の高飛が迎えに来てくれると先程メールが来ていたので急いでいたのだった。
だが、里鶴夢は転落し、地面に横たわっていた。
叩きつけられた先がセメントやアスファルトではなかったとは言え、4階から転落したのである。
先生や生徒たちが集まり、おろおろとしている。
そこをすり抜けるようにして現れたのが志摩高飛。
「何があったんですか?」
「あ、し、志摩さんの……」
担任の教師は蒼白になる。
「えぇ、志摩里鶴夢の兄ですが……リズに何かあったんですか?」
「あのっ!」
近づいてくるのは救急車、そしてパトカー。
「お、お兄さん、落ち着いてください!」
「俺は落ち着いてますが?何か、リズにあったんですか?」
何人かの教師に取り囲まれていた場所で、小さい声が響いた。
「高飛……お、にい……」
「……リズ?リズがそこにいるんですか?」
教師を押し退け、覗き込んだ高飛は言葉を失う。
小さな妹の身体から深紅の液体が広がっていく……腕や足があり得ない方向に曲がって……。
「り、リズゥゥ!」
「志摩さん!落ち着いてください!救急車が来ます!」
「何があった?リズ?リズ!兄ちゃんだぞ?お兄ちゃんって呼べ!リズ!」
その叫びに薄く目を開けた里鶴夢は、唇を動かすと意識をなくした。
「リズ!何故だ?どうして!何で!」
背後から、救急隊員が寝台を運んでくる。
「すみません!飛び降りと言うのはこちらですか?」
「違う!リズはそんなことしない!」
「……ご家族ですか?」
「志摩高飛!この子は妹の里鶴夢です!今日は部活があったのですが、早退して戻ると言うので迎えに来たんです!自殺なんかとんでもない!誰だ!リズをこんなめに遇わせたのは!」
「待ってください。まずは妹さんの命が最優先です。運びますので、お兄さんも付き添って戴けますか?」
隊員の言葉にうなずく。
「はい!解りました。どこの病院に連れていくのでしょう?家族が心配しているかも、教えてください!」
「病院は今日の救急病院です」
寝台を追いかけながら、高飛は一番冷静……だと思われる長兄に電話を掛ける。
「もしもし?兄貴!」
『なんだい?リズは?一番にだっこしたいんだけど……』
30代半ばの兄だが、20下の妹を実の娘のように盲愛している。
内心、失敗したと思いつつ、
「兄貴!落ち着いて聞いてくれ!」
『落ち着いてないのは、高飛だよ』
「突っ込みはいい!すぐに父さんや母さんや姉貴たちにも知らせてくれ!リズが!リズが学校の螺旋階段から転落した!周囲は自殺だの言ってるがそんなことはあり得ない!救急病院に行くから!俺の車、学校に置いてるから、蓮斗にでもスペアで」
『螺旋階段から転落しただって?解った!すぐに向かう!』
「一人で来んなよ。父さんや母さんたちにも連絡してくれよ!」
念を押し、電話を切る。
そして、着いていきつつ、周囲を見回し、
「……敬太郎、いねぇなぁ。いつもならいるのに……」
呟く。
里鶴夢の幼馴染みで同級生である。
と、学校の玄関から走り出てくる敬太郎を見つける。
「よぉ、敬太郎。傍にいなかったのか?」
汗だくになりつつ近づいてきた敬太郎は、
「……ご、ごめんなさい……高飛兄ちゃん。俺が近くにいた……」
「何だと?」
「……リズに苛められてるって言ってた子がいて、その事で階段の上で言い合いになって……」
高飛は敬太郎を睨み付ける。
「……お前は、リズを信じなかったんだな?」
「引っ張ったのはその子で……」
「言い訳すんな!」
高飛の声が、敬太郎の胸に突き刺さる。
「……リズをきちんと調べもせず、独断で責めた……!幼馴染みがどんな人間かわからない時点で、お前はリズを傷つけたんだ!もう会うな!謝罪も受けない!じゃぁな」
「にっ!」
「お前の謝罪で、リズが元気な姿で家に帰ってくるなら良いが、この状態で、何が言える!言ってみろ!着いてくるな!」
高飛は怒鳴り付け、救急車に乗り込む。
そして扉が閉ざされ、救急車は走り去ったのだった。
その様子を呆然と見つめていた敬太郎の背後から、
「谷崎くん。警察の人が説明してほしいって言っているの。良いかしら?」
音楽教諭の声に振り返った。
「は、はい……説明します。現場まで上がっていった方が良いでしょうか?」
「あの螺旋階段は、かなり古いですし、鉄柵がないので……中の階段から行きましょうか」
教師と敬太郎、和真に捕まえられている香也と数人の警察官は学校に入っていったのだった。
ちなみに、当然部活動や、図書館などでの勉強も中止となり、一応教諭たちに箝口令は敷かれたものの、生徒たちは志摩里鶴夢という少女が転落した理由を想像しながら帰っていくのだった。
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