二面性男子の鏡

山本慎之介

その時─キクside─

……嫌な予感がする。

店を出たキクは直感で、否、己の魔法で感じた。

「虫の知らせ」、自分や自分に近しい人の危険を直前に察知できるキクの得意魔法が危ないと告げていた。
 ばっ、と辺りを見渡すが自分に危険が迫っているとは思えない。

となると、
「ティド、ダッシュで帰るぞ。」

街の中心から店まではそう遠くない。詠唱に時間がかかる転移魔法を使うよりは走ったほうが速い。

キク、76歳、まだ現役の魔法使いだ。魔法使いたる者移動は速くなくては。

その健脚に街がどよめく最中もキクは考えていた。

───これだけ目立ってもこちらはなにも起こる気配がない。ということはやはり店で何かが起こっているのだろう。

キクも一通り下級魔法は使いこなせるが、戦うのは得意ではない。ティドが戦力にはなるが、数も未知数なだけあって不安は拭いきれなかった。

そして店がそこに見えるようになった時、キクの不安を的中させられたように、



ボゥアァァァ!


フリムン亭から火が上がり、たちまち火達磨になってしまった。

「ティド!精一杯水魔法をかけておくれ!」

キクの合図にティドは水の中級魔法『ルロ・ビア』を展開。キクも下級魔法『ビア』を発動させる。

「中にレト達がいるかもしれん。ティド!行くよ。」
なんとか人が入れる程に火が落ち着くとキクは一目散に焦げた店内へ入っていく。


そこには、倒れているレト、テスラとコータロー。
そして3人の奥に見知らぬ男が立ち、キクを見やると、



「無詠唱だと……!?」
見開いた目でそう言った。


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