二面性男子の鏡

山本慎之介

二面性生物

「しかし、ティドのやつ……遅せぇな……」

テスラがぼやく。

キューショー団とかいうチンピラが逃げてから4時間、ティドは未だに帰宅しないでいる。

「いつもはどのくらいで帰ってくるんだ?」

「そうですねぇ、遅くても1時間くらいしたら大体僕の所に餌を食べに来ますよ。」

爪を噛むテスラに代わりレトが答える。

いつもは1時間、いくらなんでも遅い。

「テスラ、やっぱりなにかあったんじゃ……」

「レト、そんなに心配しない。まあ、もう少し待って来なかったら探しに行こうか。」

「そう……ですね」
テスラがなだめるが、レトは落ち着かない様子だ。

そこへ────


パタパタパタパタパタパタパタパタ



「!?」
レトが外へ飛び出す。

少し緊張していた彼の表情筋がゆっくりと緩んでいった。







─────少し行った街の路地裏


「はぁ……はぁ……くそっ、なんなんだよ……」


その男は切れ切れの息を必死に続け、右手を脇腹に当てたまま横たわっていた。

その右手の中、彼の腹部は真っ赤な鮮血で染め上げられていた。


「やっぱりドラゴンはドラゴンってことか……」

自分を生命の危機に追いやった元凶───あの純白のドラゴン。



腕の中で目が覚めたかと思えば、金色だった目がみるみるうちに黒くなり、いきなり左腕に噛み付いた。

  

  左腕は、無くなっていた。

彼に初めにやって来たのは無理解だった。

白い悪魔は自分の右の脇腹を貪った。

次に襲いかかったのは肉が裂けたような、否、肉が裂けた激痛。

「ぐ…………あぁ!?」

そんな声を上げながら男は崩れ落ちる。

すると悪魔の目は金に戻り、パタパタと飛んで行った。

人通りの少ない路地裏、男の心を孤独と恐怖が染めていった。





──そして男に最後に訪れたのは、死だった。





















「ティド!」
レトは嬉しそうに白い天使を精一杯抱きしめる。


───その悪魔の口から血のついた歯が覗くのに気付かずに。

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