二面性男子の鏡

山本慎之介

火の玉

「それで、ヤマトンチュってなんですか?」
 コータローが記憶喪失設定を発表してから、まず疑問に思ったのは『ヤマトンチュ』なるものの正体である。
「記憶喪失とはいえ、ほんとに何も知らないんですね……。ヤマトンチュっていうのはですね、魔法が使える人のことです。さっきのチンピラみたいに表向きは魔法使いと言っても通じるんですが、魔法使いというと他の人が怖がりますからね、コードネームみたいなもんですよ。」

「てことは俺、自分は魔法使いって言ってたの!?」
レトの説明を聞いて、自分が魔法使いを自称していたことを知ってコータローは軽くビビる。

「まあ、そうなるな。そうだコータロー、お前魔法が使えるかためしてみないか?」

「いやいや絶対……いや、やってみるか!」
無理だ、と言うのを(もしかしたら?)という微かな期待で止めて、コータローはテスラの提案に乗る。

─正直ノリノリであることはコータロー以外気づいていないし、気づかれたくない。

一旦店の外に出ると、レトが説明してくれた。

「いいですかコータロー、まずはさっきやった『メア』をやります。」

「お、火の玉か!」
バレバレだが、できればノリノリなのはバレたくない。

「まあそれで間違いはありませんが……。とりあえずやっていきましょうか。」

「おっし!お願いします!」
ノリノリなのはバレたくない。

「コータロー楽しそうですね。ま、まずは体の中を巡っている、魔力をイメージしてください。」

「いまいちピンと来ないけど、こう、かな?」

「イメージできたらその魔力を凝縮して火の玉にするのをイメージしてください。」

「難しいな……こうかな?」

「そしたら手のひらを突き出して、そこから放出しながら『メア』と詠唱!」

「『メア』!!」
瞬間コータローの手のひらになにかの感触。

「きた!これが……魔法!」

思わず顔が綻ぶコータローの手のひらから出てきたのは



───マッチといい勝負の火の玉だった。

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