二面性男子の鏡

山本慎之介

奇跡

いきなり来たものだから、持ち物は全くのゼロだ。
「せめて財布だけでもあったらなぁ。」
 そもそも円が使えるかも疑問だが。

改めて周りを見渡してみる。

さっきは噴水と空飛ぶ獣人に気を取られたが、よく見てると、日本よりも進んでいる気がする。
まず移動手段、自動車なんてものはもちろんなく、籠が浮いているような形の乗り物が道を行き交っている。

ここは商店街らしいが、野菜も果物も日本とどこか違う形をしているし、飲食店らしき店ではこれまた微妙に違う料理をだしていた。
 猫耳の少女がおつかいだろうか、八百屋で大根らしき野菜を買っている。
──やはり円は使えそうにない。持ってないが。

「そういえば、何も持ってないようだけど、ヤマトンチュならこれもってないとユミタわかんないよ〜」
  婆さんまだいたんだな。
「それで、これは?」
なにか、補聴器のようなものをくれたが、はっきりいってなんなのかさっぱりわからない。
「これはね〜ユミタを標準語に直してくれるのよ〜」
なるほどやはり進んでいる。
つけてみると効果はすぐに出た。
「や?うりせばワンがぬーはなそんかわかろーりやぁ?
(ね?これしたら儂がなに話してるかわかるでしょ?)」
これはすごい、それなしではとても理解できそうになかったが、イキカ王国恐るべし。

「あんた家は?」
「……ない。」
「家族は?」
「……いない。」
「金は?」
「……ない。」
「……知り合いくらいは」
「いない。」

「……よく生きてきたねぇ」
お願いだから憐れみの目で見ないでください。

しかし、どうしよう。家、家族、金、つて、すべてない上に、当然土地勘なんてあるはずがない。
生きていけるのか?

「しょうがないねぇ。あんた、しばらくはうちで働かないかい?」
突然さした光明。手を差し伸べたのは他でもない婆さんだ。
「うちで……働く?」
しかしどういうことだ?
「あ〜儂の家はちょっとした飯屋をやっるわけよ〜、どうだ、住み込みで働いてみんね?」
なんというご都合主義、願ったり叶ったりではないか。
「いいんですか!?なんかいいことずくめなんですが!?」
思わずさっきの敬語が戻ってくる。
「まあ、人手が足りんかったしな。こっちとしても悪い話ではないのよね〜」
「ありがとうございます!!!!」


異世界召喚5分、衣食住の心配はなくなった。

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