二面性男子の鏡

山本慎之介

尻尾

浩太郎が来ているのはごくごく普通の灰のパーカー、灰のスウェットにトイレ用のスリッパ、それほど違和感のある格好ではない。

──ここが現代日本であるのなら、の話だが。

「ここどこだ?」
そう言わずにはいられない。
目の前には噴水、これはまだ分かる。しかし、頭上を飛ぶ人……のようなものという方が正しいか。どうみても尻尾にしかみえない突起があるいうなれば獣人はどう説明したら良いのか。

とりあえず誰かに聞いてみようか。
近くにいた老婆に声をかける。
ちなみにこの婆さんには尻尾はない。

「あのーすみません」

「なんね?ワノーナマやいすがさっちょね~。」
……はい?
「あのー、今なんと?」

「えぇ!あなた、ヤマトンチュな?」
ヤマトンチュ?とりあえずそういうことにしといた方がいいなもな。
「あ、はいはいはい、そうです!や、ヤマトン、ちゅ?です」
「そーかい、それならユミタも通じないねぇ〜」
「ゆみた?」
あだ名か?
「ユミタっちば『言葉』っちことよ〜」
日本語が通じるようで微妙に通じない、もどかしい。
「それで、ここは?」
「ここは?っちイキカ王国のカツテミカじゃろうがよ〜」
イキカ王国……?
世界地理は得意な方であったはずだが、そんな国聞いたことない。

知らない土地、通じない言葉

となると……
「異世界召喚ってかぁ!?」

とは言ってもそうそう信じられる話ではなかった。

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