『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

『M』再び

 デスゲームの元凶。『M』がそこにいた。
 拍手をしながらフラフラと歩いている。

 『M』は、初登場のあの日――― 陽葵が意識不明の重体になった日―――
 夜の薄暗い倉庫の中。1人だけスポットライトを浴びて、100キロの札束を椅子にして、デスゲームの開始を宣言した彼。

 本人?いや、違う。
 よく観察すれば、こちらを見てくる『M』の視線は僅かにブレがある。
 足元もフラフラと歩いているのは、現実の地形と映像を合わせるのに誤魔化しているからだ。
 そう、彼は映像。デスゲーム開始直後の彼は、立体映像ホログラムだった。あれはリアルタイムでこちらの様子を確認していたふしがあるが……今回は違う。
 彼は事前に録画された映像に過ぎない。

 俺の心音が高まる。
 彼が現れたという事は、この直後に起きる出来事が予想できてしまう。
 そんな俺の心情を理解しているのか、していないのか、彼は―――
 「やぁ」と妙に軽々しく片手を上げて挨拶をしてきた。

 「察しの通り、これは録画だ。君が男性なのか、女性なのか、年齢も分からないし、単騎なのか、集団なのかもわからない。だが、まぁ―――まずはイベントクエストのクリアおめでとう」

 ギリッと鳴るものがあった。
 自身の気づかないうちに力み入り、歯がこすれた音だった。
 彼によって俺―――いや、陽葵が与えられて理不尽に対する恨みと怒りが抑えられない。
 例え、目の前の『M』が映像だとわかっていても……

 「察しの良い君、あるいは君たちは、すでに気づいているだろう。この映像は私が既存のクエストに便乗させてもらい上書きしているものだ。本来の開始時間と開始場所が事前に告知される仕様ではなく、クエストクリア後に始まる特別仕様。わざわざ、言うまでもないと思うが――――
 つまりこれから始まるのは、ごく当たり前の話ではあるがデスゲームだ」

 携帯端末ディバイス『サラブレッド』が音を上げる。
 デスゲーム開始を知らせる情報の着信音。
 視界の端に表示されている地図アプリ。
 場所は―――

 ここだ。

 「この映像が、配信され誰の元に届いているか、今の私には知るすべはない。だが、私のデスゲームへの参加者であり、デスゲーム期間中にクエストに挑む者に送られているのだろう。そう設定したのだから……では、名もわからぬ勇者くん、頑張り給え」

 「M」の姿は色を失い。そして、消滅した。

 彼の目的は一体、なんなのか?
 金持ちの道楽―――金と権力を手に入れた金持ちが、下々の人がゲームで命を賭ける。
 フィクションで取り扱われるデスゲームはよくある設定だが……
 これは違うということがわかった。
 誰も、俺たちがこのクエストをクリアする日付もタイミングもわからないはず。
 この短時間で金持ちを集めてデスゲーム開催?それは無理だ。
 だとしたら……残された可能性は? 劇場型犯罪を起こすことで快楽を得るため? あるいは万能感から自身を神化させているのか?
 それとも……
 しかし、思考している時間は残されていなかった。

 川から何かが盛り上がり、何かが――― 何かが――― 何かが姿を現した。
 それは―――

 巨大な魔物だった。

 そして、表示された個体名は―――

 『メドゥーサ』

 先ほど、俺たちと戦いを共にした老人、ペルセウスの仇敵が姿を現した。

 

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