『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

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ザリガニ男『クリュサオル』

  ザリガニ男『クリュサオル』

 甲殻類のボディに4本剣から繰り出される剣戟。
 見た目は怪物でありながら、その攻撃は洗練されクレバーだった。
 高い防御力を持ちながら、動き続けて1か所に留まらない。そして、突きを主体に組み立てられた戦法。
 それらはボクシングで言えばアウトボクサーのような戦い方だ。
 だが、長めのリーチを掻い潜り、懐に飛び込んでも、高いダメージは与えない。
 ボスのように野生動物の戦闘術ではなく、人間の格闘技に近い。
 いままで蓄積していた『ザ・ウォリアー』での戦闘ノウハウは捨てなければならなかった。

 「対人戦……いや、対AI戦用の戦法か」

 そう呟いた。
 ハッキリ言う。俺はクリュサオルを驚異だとは思っていない。
 ヤツから伝わってくる情報力は、前戦の相手『パーシ』と比べるとかなり低い。
 クリュサオルの攻撃パターンは自由度が低いのだろう。
 情報力は低いという事は攻撃、あるいは戦法や戦術。そういうものの幅が狭いという事だ。

 俺は、地面を蹴り上げて砂と共に小石を飛ばす。
 そして前に出ると同時に短剣の投擲。 
 手首のスナップだけと使ったノーモーションにも等しい投擲だ。

 ① 砂を浴びたザリガニ男がこちらに反応する。

 ② 投擲された短剣をハサミで弾く。

 ③ 俺の接近に気づく

 間合いは、まだ遠い。
 俺の短剣は射程距離外。そうザリガニ男は思っているに違いない。

 「―――だけどな!」

 俺は狙いを切り替えていた。狙いはザリガニ男のボディではなく端末狙い。
 投擲させた短剣を弾いた事で真っ直ぐに伸びきっている右腕。
 その関節の節。硬い殻の隙間を狙う超精密剣技。

 ザクッ―――

 長い戦闘時間で初めての手ごたえ。
 クリュサオルの腕に深々と刺さった短剣を―――
 一気に上へ跳ね上げた。

 その腕は切断され、空へ舞い上がっていく。

 「勝った!」

 そう確信したのだが……
 視線の隅、俺に襲い掛かってくるのはクリュサオルの残った左腕。
 体勢が大きく崩れている俺に回避は望めない。
 防御……素早く短剣で受けようとするが……
 ……無理だ。

 バランスが崩れた状態では、俺に向かって加速している黄金の剣ハサミを払いのける事はできない。

 (ここでリタイアか。でも、片腕を奪えた。あとはルナさんに……)

 「させません!」

 !?

 ルナさんの声。クリュサオルと俺の間に距離はほとんどない。
 しかし、そのわずかな隙間にルナさんは入り込んだ。
 無論、重圧な盾を一緒に―――

 キーンと甲高い音。
 金属と金属がぶつかった時の音―――ルナさんの盾が攻撃を防いだ音だ。

 「どうして?」

 思わず俺は聞いた。聞かずにはいられなかった。
 俺はクリュサオルの武器を奪い。与えられた仕事を成し遂げた。
 ここでリタイヤしても、俺たちの勝ちは揺るがないはずだったからだ。

 そんな俺の心からの問に「どうしてでしょか?」と少し考えるルナさん。
 俺と彼女はほとんど密着してる状態。部外者が離れた位置から見れば、抱き合っているようにも見えるかもしれない。
 ルナさんは振り返れば、顔と顔がぶつかる距離だとわかっているのだろう。
 そのまま、振り向かずに言った。

 「どうせ勝つなら相方と一緒に勝ちたい。それは当たり前の感情ですよね?」
 「―――ッッッ!?」

 咄嗟に俺は何も言えなかった。
 たぶん、ルナさんの言葉に同意したかったのだろう。だから―――

 「それじゃ、2人で勝ちましょう。
 ハサミを弾けますか。さっきと同じように残った左腕も切断してみせます」

 ルナさんは頷いた。そして、二人同時に前に出る。
 その途中―――クリュサオルは、今までに見せた事のないモーションを取る。

 「来ます。私の後ろへ。耐えます」

 緊急時のため、端的な言葉。俺は返事を返し、クリュサオルに突っ込んでいく。
 そして、クリュサオルの未知の攻撃。それは泡だった。
 視界を殺すための泡と噴射してくる。

 「甲殻類。ザリガニでありながらカニでもあるのか」

 悪態をつくも、俺は足を止めない。
 俺と同じ速度で前を行くルナさんが盾で泡を遮断してくれているからだ。
 そして―――

 近距離に到達。
 クリュサオルはルナさんに向けてハサミを向けるが―――
 事前の打ち合わせの通り、盾でハサミを弾き上げる。

 このタイミング!

 俺は前に飛び込む。
 そのまま、弾かれ伸びきった左腕に向けて短剣を走らせた。

 

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