『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

遠距離用武器

 「午前中に会うのって、どこか新鮮ですね」

 「そうかなぁ?」と俺は疑問に思ったが、考えてみればルナさんは常に私服だったのに対して、俺が彼女と私服で会ったのは、デスゲーム開始の日だけだ。
 今まで、学校の放課後……あるいは昼休みに学校を抜け出してからだ。
 もしかしたら、ルナさんには俺の私服が新鮮に見えるのかもしれない。

 「昨日の夜、ギルメンの全員に連絡しました。……明日からは学校へ行くって」
 「……そう。それで、皆の反応は?」
 「明日は土曜日で休みだよって全員から……」

 それは……嫌な事件だったね。
 そう言いかけたが、ルナさんは―――

 「でも、その後、『じゃ月曜日に~』にって返してくれたんです」

 そう、うれしそうに言った。

 「さて、憂いは断ったわけだけど……」

 俺の、いや、俺たちの目の前にはパーシがいる。

 まだ、前日のリスタート位置には入っていない。
 地面に引かれた赤い線。そこに足を踏み入れた瞬間、イベントが再開される。

 「……昨日、カナタさんが言っていた武器は?」
 「ん?」
 「遠距離用の武器を用意してくるのでは?」
 「あぁ、その事か。昨日は揉めたけど、結局はレンタルして貰えたよ」

 俺はその武器を―――遠距離用武器を装備した。

 「それは……」
 「あぁ、『砲撃姫』の代名詞、キャノン砲だ」

 ―――早朝―――

 「嫌だよ!武器は他人に貸し借りするものじゃないよ!」
 「いや、プレイヤー同士の譲渡も貸し借りも仕様だし……」
 「カナタくんは、いつから正論で人を殴る人になったの!」
 「さて、『サラブレット』のコネクトを繋げて……と」
 「ぎゃあ!物理的アカウントハックなんてする人を初めて見た!これは酷い!」

 俺は陽葵のIDを入力して……

 「ところで、パスワードって何?」
 「ネットリテラシーが低い人には教えません」
 「どうせ、誕生日だろ?」

 陽葵の誕生日を入力してみた。
 しかし、表示された文字は―――

 『パスワードが違います』

 「ふっふっ、そんな誕生日をパスワードにするなんて素人みたいな愚行を、この陽葵さんがする……」
 「じゃ、俺の誕生日だな。よし、入れた」
 「ねぇ、死んで?お願いだから死んで?乙女心と恥じらいを重しにして溺れ死んでくれない?」

 そんなジョークみたいなやり取りの後、ガチ土下座によってレンタルに成功した武器。
 俺の知る限り、遠距離用武器では最強。
 射程距離は300メートル。後衛職の魔法系装備の連中が使用する魔法の射程距離が数十メートルなのを考えれば明らかに規格外の射程だという事がわかるだろう。

 砲台は鏡のように滑らかで、キラリと太陽の光を反射する。

 『キャノン砲』 

 その正体が初期装備のボウガンだという事を知っている人間は極限られた数だ。
 一種の隠し要素になるのかもしれない。
 『ザ・ウォリアー』で陽葵が頭角を現し始めた頃、それは起きた。
 陽葵は、初期装備であるボウガンに思い入れがあったらしく、ボス狩りの最前線で戦いながらも、余裕があればコツコツとボウガンのカスタマイズを行っていた。
 コツコツと……ランカー特有の膨大なボーナスをつぎ込んで……
 初期装備のカスタムとして最大値を超えた瞬間に―――
 ボウガンはキャノン砲へ進化したそうだ。

 俺はその瞬間を目撃していないので、いきなり巨大な砲台を腕に付けた陽葵を見た瞬間は、どういう悪夢か?と自分の正気を疑うほどの衝撃インパクトだった。

 兎に角、そのキャノン砲を装備した俺はルナさんと共に―――

 リスタート位置に足を踏み入れた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 それまで、意識のない人形のように、ただ立っているだけだったパーシ。
 イベントを再開した瞬間―――
 目に力が宿る。爛々とした強い野心家の瞳が俺を射抜く。

 『誰であろうと邪魔をするな』

 作り物であるはずのパーシから、そんな強い意志のようなものを感じる。
 やはり―――パーシは限りなく人間……なのだろう。

 最初は前回同様にパーシのHPを削っていく。
 まだ、『キャノン砲』は使用しない。使用するなら、パーシが鎧を脱ぎ捨て第二形態へ変身してからだ。
 それまで確実に、的確にパーシにダメージを与える。重要なのは、ダメージを受けずにノーミスでパーシを第二形態へ持ち込む事。
 すると―――

 『STOP イベント進行につき無敵モード発動中』

 前回同様のメッセージ。
 そして前回同様に―――

 パーシは鎧を外した。
 

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