『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~
成長
雨の中、駅前広場を疾走する。
背後にはキメラ。
視界内にいなくてもわかる
情報処理を行っている『サラブレッド』に送られるキメラの情報力。
それが、視界外にいるキメラのビジョンを頭に浮かべられる。
「だから―――」
足を止めて振り返る。
それと同時に突き出した双剣は、カウンターでキメラの弱点を貫いた。
その直後にファンファーレが鳴り響き、キメラは消滅した。
「ふぅ……」
ため息を1つ。
俺は広場を離れて、雨に当たらない場所で座り込む。
蒸し暑いレインコートを脱ぎ捨てる。
雨が体温を奪うのが原因だろうか?普段よりも疲労感が多い。
「いやぁ、今日は余裕そうだよ」
「どこがだよ?」と悪態をつきながらも陽葵が差し出したタオルを受け取った。
周囲にはどう見えてるんだろう?やっぱりタオルが浮かんで見えるのだろうか?
まぁ、デジタルなキメラが暴れる場所で、いまさらタオルが浮かんでるだけじゃ、誰も驚きもしないか。
俺は、受け取ったタオルで濡れた髪から水分をふき取り、次は露出している肌の部分にタオルを向けた。
その途中、陽葵の方を見た。 なんで、コイツ無言になった?
陽葵は分かりやすい「考え中です~」のポーズ。
具体的には、首を傾けて頬に人差し指を当てている。
中々、あざといポーズではある。
しかし、意図してブリッ子をしているのではなく、これが陽葵のナチュアルだから、恐れ入る。
そして答えを見つけたのか、固めた拳を上から下へ動かして手の平で受け止める。
「ポン」と軽い音がした。
「いやいや、カナタくん。キメラ相手に2連戦して、その余裕だよ」
「いやいや、だから余裕はないって」
否定する俺に陽葵は追い打ちをかける。
「じゃ、少し前のキメラ戦を思い出してみて」
「少し前…キメラ戦……」
「ねぇ、どんな感じだった?」
思い出されるのはボロボロの俺。正直、嫌な思い出だ。
でも―――
「……今は雨の中、2戦しても呼吸が乱れている程度?」
「そう、それが成長なのです」
強くなっている?俺が?
俺は少し震えた。
わかりやすい成果というご褒美が実感されたからだ。
「カナタくん、見て見て」
「……ん?」
「虹だよ!」
陽葵と話し込んだ僅かな時間で雨は止んだみたいだ。
いつの間にか、灰色の雨雲は白い雲に色を変え―――
隙間のには澄んだ青色。
そして、七色の橋が空に薄く、頼りなく、でも確かに浮かんでいた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
その後、帰り道。
「で?」と陽葵。
「で?ってなんだよ?」
「え?今日もルナちゃんとデートでしょ?」
「デートってお前……」
なんでコイツ、「え?私、変な事言った?」みたいな顔してんだ?
「デートって表現するには殺伐とするコースだけどな!」
「え?私にとっては、けっこうな理想的デートプランなんだけどなぁ」
「お前にとっては……だろ?自分がゲーム廃人だという事を、時々でいいから自覚してくれ」
頬膨らませて、「廃人じゃないもん」と抗議してくる陽葵を「はいはい、かわいい。かわいい」とあしらった。
「そう言えば……」と俺は前からの疑問をぶつけて見ることにした。
「なんで、最近のお前、機嫌悪いの?」
うぬぼれるつもりはないが、てっきり、ルナさんと2人―――陽葵に言わせれば毎日デート状態なわけで―――それが原因かと思っていた。
つまり、嫉妬か?
わかいいのう!かわいいのう!という状態である。
しかし、さっきの会話から、俺がルナさんと2人で会う事に嫉妬してるわけではないと分かった。
……残念な事だが……
「ギギギ……き、機嫌なんて悪くないよ」
「いや、ウソつけよ。自分で気づいてないのか?ギギギって擬音を言ってるぞ」
「それこそウソだよ!女の子はギギギなんて言わない。もう知らない!」
そんなやり取りをしてみて、分かった事は―――
「やっぱり、全然、理解できない」
という事だった。
さて―――
取りあえず、ルナさんに連絡してみる事にした。
間違ってもデートとは思えない。
楽しい楽しいクエスト挑戦のためだ。
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