『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

謝罪と翌日の雨

 

 「私は、あの日―――何もできなかった。その夢を見るのです」


 ルナさんは語る。

 あの日、デスゲームの始まり。
 自分は何もできなかったのだと彼女は言う。
 当然現れた巨大な黒犬。
 死という現実を突きつけられ、彼女は戦いに参加する事はおろか、動く事すらままならなかったそうだ。
 そんな中、ランカーでも上位プレイヤーでもない俺を引き連れて、戦闘を開始したのは彼女の―――ルナさんの憧れの人であった桃林陽葵。

 ルナさんは、何度も夢に見たそうだ。
 あの時とは違って、黒犬に向かっていく自分の姿を夢見る。
 けれども、その夢の最後は―――やっぱり、体が動かなくて―――
 そして、目が覚めるのだ……と。

 彼女が1人でボス狩りを行い続けていた理由―――それは陽葵への贖罪。
 鍛え、強くなり、彼女を助けるために裏ボス100体に挑むデスゲームの参加を表明しているのだ。

 「ギルトのメンバーのほとんどは学校の同級生だから……反対されるだろうし、なによりメンバーを巻き込みたくなかったから……」
 「さっきの子、秋坂さん?だったけ?」
 「えぇ、彼女がリーダー。ギルドマスターです」

 「へぇ~」それは意外だった。
 『ドラゴンアーマー』の二つ名を持つルナさんが所属しているギルドは、もちろん大手ギルド……のはず。それを切り盛りしてるのが、同世代の女の子というのに驚いた。
 それを知ってれば、もう少し話したのに……いや、あの時のシュチエーションじゃ無理か。

 「えっと、何て言うか……悪い」

 俺は席を立ち、頭を垂れて謝罪した。

 「え?、なぜカナタさんが謝るのですか?」
 「うちの陽葵のために、関係に軋轢を生む人がいるってのは、うまく言えないけど……よくない事だから……」

 それは、まごうことなき俺の本心だった。
 もちろん、本当に悪いのはデスゲームを仕掛けた『M』だ。
 地に頭をつけて謝罪すべきは『M』であり、俺ではないという事はわかっている。
 けれども―――
 俺自身は陽葵を助けるためにデスゲームに挑戦を目指している。
 だが、俺と同等の目的の人が大切なものを犠牲にしている。
 陽葵を救うため―――だから自然に頭がさがったのだ。謝りたいと思ったのだ。

 「……」
 「……」

 暫く、無言の時間が続いた。
 どのくらいの時間が経過しただろうか?
 不意にルナさんが―――

 「私、明日は学校へ行きます。デスゲームの事は反対されるから話せないけど―――それでも…私は……」

 「うん」と俺は頷いた。

 「そうだね。それが良いと思うよ」

 明日は土曜日だが、それを指摘する空気ではなかった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 ―――翌日―――

 目が覚める。まだ薄暗い時間。
 レトロ趣味の目覚まし時計で時間を確認する。
 土曜の朝だが、ボス狩りに休日はない。
 陽葵が部屋に乱入する前に支度を始める。

 「おはよ!カナタくん!悪い天気だけど、ボスとカナタくんに天候は関係ないよね!」

 年頃の女の子がドアを蹴破って入ってきた。
 ここ最近の不機嫌さは何だったのか?近年まれに見るハイテンションだ!

 「悪い天気って?雨でも降って……ぶっわっ!」

 最後まで言う余裕もなく、レインコートを投げつけられた。
 そう言えば、コイツ、幽霊みたな存在なのに物は持ち運びできるんだったな。
 もしかしたら、幽霊とか超常的存在じゃなくて、陽葵をモデルに俺の脳内で生み出された第二人格って線も……
 俺は部屋で独り言を話ながら、自分で自分にレインコートをぶつける自分の姿を想像してみた。
 完全にサイコホラーな絵面だ。
 そんな、妄想か、それとも現実か、よくわからないものは頭から振り払い、出かける準備をした。
 玄関を開けると、そこは雨あられだった。

 それでもボス狩りを休む事はない。
 今日もキメラに会いに自転車に飛び乗る。
 競技でもあるまいし、雨の日にロードを乗るほど危険知らずではない。
 ロードバイク以外の自転車の1つ、ママチャリだ。

 「あ~雨の日でも大丈夫なように家庭用反重力装置とかできないかな」

 俺は自転車を漕ぎ始めた。

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