『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

AIの戦闘力

 
 「おぉ、お前たち」

 老人が俺たちに向けて声を出す。

 「貴様たちがじじぃの雇った傭兵か」

 パーツは振りかざした剣を収めて、俺たちと対峙する。
 近くで見ると、そのリアルさに驚くが、それ以上に……

 「……情報力。これがカナタさんが言っていた情報力ですね」

 ルナさんの言葉に俺は頷いた。
 情報力、見た目から推測されるキャラクターの力。
 それは、倒れている老人と同等の力を有していた。

 (強いな。勝てるか?)

 だが、そんな思考の時間は少なかった。

 「前に出ます」

 ルナさんが前にでる。俺はスピードを生かしてかく乱。
 ここ数日、連戦を経験して学んだ陣形フォーメーション
 それを当たり前のように取る。

 パーシのターゲットは当然、前衛のルナさんへ。
 振り上げた剣をルナさんへ向ける。
 それをルナさんは盾で弾くとパーシは大きくバランスを崩した。

 (まずは勝機、1つ)

 パーシの背面に到達した俺は、そのまま双剣を振るう。

 backバック attackアタック

 weakpointウィークポイントbonusボーナス

 2つのダメージ追加ボーナスが告げられる。
 だが、そのダメージ量に奇妙なものを感じた。
 俺の失敗に気づいたのはルナさんだった。

 「カナタさん、この敵。ボスじゃないですよ」

 一瞬、ルナさんの言葉の意味がわからなかった。
 ボスじゃない?それは、わかってい……
 どうやら、俺はわかっていなかったみたいだ。
 俺の現装備は、いつもの対ボス戦用装備だった。

 「すまない、すぐに武器を対人仕様に変更する」
 「はい、時間は稼ぎます」

 俺は一時的に戦線離脱。 少し離れた場所で、装備を解除する。

 「えっと、特化武器は……人型特化武器は……どこいった!」

 携帯端末ディバイス『サラブレッド』を操作して、全アイテム表示。カテゴリーを武器指定に変更。
ゴミみたいな武器を、その場で破棄しながら、同時に目的の武器を探す。

 「あった!」

 すぐに装備変更。 戦線に舞い戻る。

 「待たせた」
 「いえ、十分、許容範囲内です」
 「助かる」

 短い会話を交わし、パーツに攻撃を加える。
 側面と背面を狙い、攻撃を加えていくと、パーシ挙動に変化が起きる。
 そして―――

 『STOP イベント進行につき無敵モード発動中』

 この間、攻撃しても無駄だと教えるゲーム内アナウンスが表示された。

 「思った以上に手練れだな」

 パーシは一方的に攻撃を受けていた割には余裕を見せて、スマイルさら見せつける。
 ミーハーな女性なら黄色い声を上げたくなるだろう。
 幸いルナさんの好みは違うみたいで安心した。
 そしてパーシの言葉は、こう続いた。

 「ならば、こちらも本気を出させてもらう」

 漆黒の鎧が外れる。

 (あっ、暗黒騎士の貴重なアイデンティティが!)

 そんな俺の心配は無用だったみたいだ。
 鎧を消去パージさせたパーシの姿は黒いインナーのみ。
 しかし、その姿は―――

 「禍々しいオーラが増加しましたね」

 ルナさんの感想通り。彼を包んでいた黒いオーラの量が増えた。
 暗黒騎士の二つ名(?)は譲らぬと彼の―――いや、彼と彼の製作者が持つ強い意志なのだろう。
 そんな、目と髪の色まで変わってしまうなんて!

 そんな余裕を持って見ていられたのは、ここまでだった。 

 「カナタさん、相手の情報力が跳ね上がってませんか?」
 「これは…流石に……初めて見るレベルだ」

 運営は、このキャラクターにどこまで予算をつぎ込んで、このキャラクターを作ったんだ?
 隠し要素だろ? 運営のお気に入りってやつか?

 「いえ、たぶん、同じデータを他のイベントでも使いまわすために意図的なオーバースペックで作ったのではないでしょうか?」
 「それは、中々、ありがたくない話だね」

 会話を楽しむのそこまで、空中には『戦闘再開』の文字が浮かんでいる。

 パーシが最初に狙い付けたのはルナさん。
 どうやら、イベント進行中にヘイト値のリセットはなかったみたいだ。
 ルナさんは、それまで同様にパーシの攻撃を盾で弾くが、パーシがバランスを崩したの一瞬、直ぐに体勢を直し連続的な攻撃をルナさんに向ける。
 先ほどとは動きが大きく変わった。
 パーシはルナさんへ猛攻を続ける間にも、俺が背面や側面に回り込むのを阻止するように俺にも視線を向ける。
 だからと言って、攻撃しないわけにはいかない。

 ならばと投擲。

 2つ剣をパーシに向けて投げつける。
 だが、パーシはルナさんの盾に前蹴りを放つと、その反動を利用して後ろへジャンプ。
 自身に向かって飛ばされた2つ剣を、1本目は自身の剣で叩き落とし、2本目を空中で掴んで、俺に投げ返して来た。

 俺はそれを避けながら「凄い」と唸る。
 パーシが後ろへ飛ぶためにルナさんの盾を蹴った。
 あれは、俺の投擲を防ぐために、ルナさんに対して無防備になる事を嫌っての行為。
 データの存在であるパーシが、プレイヤーの体や装備を利用した動作を行うなんで、どんなレベルでは計算処理能力が働いているんだ!

 そんな事を考えてくる間、ルナさんから離れたパーシは攻撃対象ターゲットを俺に変更した。
 勢いよく迫ってくるパーシの気迫は伝わってくる。
 投擲したばかりの俺は無手。手離した剣が自動で手元にもどるまで数秒。
 ならばと回避―――
 って、こっちの動きに合わせてくる! 

 前もって大きく回避運動したら、それを見ているかのように―――誘導弾のように追いかけてくる。

 本当にギリギリで避けないと回避できない仕様だと!

 

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