『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

必殺技

 ルナさんが多くの敵を引き付ける。
 俺はその背後を走り、かく乱しらながら攻撃を加える。

 「流石に……うまい」

 俺はルナさんのプレイヤースキルに舌を巻く。
 まるで、後ろに目があるかのように、死角から湧き出た敵も素早く対処していく。
 でも―――

 「でも、この難易度は高過ぎじゃねぇか!」 

 俺はついに悲鳴をあげた。
 とにかく、敵の数が尋常ではない。
 たぶん、推奨人数が設定されている。
 間違っても2人でプレイするクエストではないのだろう。

 「カナタさん、前衛を任せてもいいですか?」
 「え?」

 前衛のルナさんが前衛を放棄する?
 何か、考えがあるのだろうか?

 「必殺技を使います」

 ルナさんの力強い言葉。
 『ザ・ウォリアー』に必殺技の概念はない。
 つまり、ルナさんの言う必殺技とは、ゲームのシステム外のテクニカルな手段の事に違いない。
 ならば―――見たい。
 上位プレイヤーが、自分で必殺技と呼ぶテクニック。
 見たい以外の言葉があるだろうか?

 「敵を一ヶ所に集めてください。一撃で一網打尽にします」

 その言葉に短く口笛を吹いた。
 返答は?決まっている。 

 「よし、頼まれました。見える限りの敵を集めます」

 ルナさんは後方へジャンプすると同時に俺は前に出る。
 ルナさんを追いかけて前に出る敵に軽くダメージを与えて、ルナさんへの恨みヘイトを引き剥がす。
 一気に、俺に殺意を向ける敵は10体を越えた。
 軽装で短剣装備の俺は機動力スピードを生かし、技術テクニックを重視するタイプ。
 短時間とは言え、この数相手に、足を止めて打ち合いに付き合わないといけなくなった。
 四方、八方からの攻撃。捌き、弾き、防御できるのは5割にも満たない。
 ガリガリと音を上げて、俺のHPは削れていく。

 (持って10秒か)

 事前の予想よりも持ちそうにない。
 早く!と心で叫ぶ。

 すると、視線の隅。
 ルナさんの姿が見える。

 武器の長剣は見えない。おそらく装備を解除したのだろう。
 変わりに盾を両手で持ち、前方に突き出すような構え。
 重圧感のある盾だが、それは見た目だけである。
 目に直接、送られるデータでしかなく、その重さは0キロだ。
 だから、力を抜き、腕をそえるだけでも持ちあがる。
 もしも、盾が見えなければ、ルナさんの構えはタックルを狙うレスラーのように見えるだろう。
 そして、ルナさんの口からはリズムと取るように―――

 「ハット…ハット…ハット……


  Attenhut注目しなさい!」


 まるで爆発。
 今なら、ルナさんの靴に爆薬が仕掛けれていると言われても信じてしまう。
 それほどの加速力。それほどの瞬発力。
 一瞬、左右にブレたかと思った次の瞬間に急加速して、敵の群れを襲いかかっていく。
 ルナさんの盾に触れた敵が弾かれたように吹き飛んでいく。
 まるで重戦車。
 しかし、困った事が1つ。
 ルナさんは敵の群れに突っ込んでいく。
 その敵の群れの中心には俺がいるわけで……

 既にルナさんの盾が目前にある。
 回避できる余裕なんてない。
 デジタル信号の盾は俺と接触すると、当然のようにすり抜けたが―――
 当然ながら、ルナさんはすり抜けない。

 (ぶつかる!)

 そう覚悟を決めた次の瞬間―――

 衝撃と浮遊感。

 俺の体はそのままルナさんに抱えあげられていた。
 本当にレスリングの選手みたいだ。
 信じられない事だが、ルナさんは俺を持ち上げた状態でも失速せず、前進を続けた。
 固まっていた敵を弾き飛ばしながら、俺を持ち上げたまま、プラス20メートルは駆け抜けて止まった。
 いや、正確には止まったわけではない。

 正確には……転んだ。

 俺を持ち上げたまま、倒れ込んだのだ。

 辛うじて受け身を取って頭部へのダメージを防いだが……
 マズい……
 この状態はマズい。

 同世代の女の子に強く抱きしめられた状態で倒れ込んでる絵面は……公然に相応しくなく……
 ほら、近所のおばさんが「あら、若いからってこんな所で」って言ってる!

 「す、すいませんが、ルナさん?できるだけ速やかに離れてほしいのですが?」
 「はっはい。ですが……」
 「ですが?」
 「男性の方を持ち上げて、全力疾走をした負担が凄くて……た、立てません!」
 「なっ!?」

 その後、力の入れ過ぎで固まったかのようなルナさんの腕を解き、
 ルナさんの体から這い出て、彼女と共に起き上がるまで随分と時間がかかった。


 俺は空を見上げる。星が1つ…2つ。

 「今日は、ここまでみたいですね」
 「そう……みたいですね」
 「では、明日も同じ時間でいいですか?」
 「え?あぁ、それではお願いします」

 そう言ってルナさんは帰宅の途についた。

 「さて、じゃ俺も帰るか……っていたのか?陽葵?いつの間に!」

 気づくと真横にいた。

 「どうだった?ルナちゃんとのデートは?いやぁ、楽しそうだったね」
 「デートって……デートにしては妙に殺伐としてたが、それよりも見てたのか?」
 「そうだよ。草葉の陰から隠れて見守っていたのさ!」
 「……それ、洒落になってないぞ」

 どんな自虐ネタだよ。

 しかし、この後―――
 なぜだか、わからないが陽葵は妙に機嫌が悪かった。

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