『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~
『ドラゴンアーマー』
見れば戦闘は既に始まっていた。
『ドラゴンアーマ-』さん……確か、プレイヤーネームは『ルナ』だったか?
ルナはアノテーションの装備に身を纏い、空を見上げている。
全身を覆い隠すような重厚な鎧と盾。高い威力が秘められている長剣を構えている。
その装備から前衛職だという事がわかる。
対して主は、どこにいるのか?
その居場所はすぐにわかった。
ルナが見上げる先―――
怪鳥の雄たけびをあげる主の見える。
轟々と炎を身に宿した巨大な鳥類の姿。
あれは―――
「不死鳥だ」
俺よりも先に陽葵が呟いた。
不死鳥……全身が炎に覆われた巨大な鳥。その名前の通り、不死身に近いHPと自己回復、攻撃不能である。空への緊急回避。
トータル的な戦闘能力なら、他の主達よりも遥かに低いが、戦闘継続能力は他の主達の追随を許さない。
要するに、メチャクチャ固い敵だ。
間違ってもソロ狩りの相手に適さない主だが、ルナの周囲には仲間らしき人間はいない。
ルナは、この厄介な敵にソロで挑んでいるのだ。
不死鳥は空に逃れてからのHP回復が終了したのだろう。攻撃に転じる。
空には不死鳥の周辺に薄青い光の線で魔法陣が出現する。
それが最大限に輝きが増した瞬間―――
まるで隕石。
巨大な火球が地面へと降り注いでいく。
ルナは盾を掲げて防御。しかし、その隙を不死鳥は見逃さない。
急落下による体当たりがルナにヒットする。
目に見えてルナのHPが減少していった。
だが、不死鳥は攻撃の手を緩めない。嘴と爪による物理攻撃のラッシュ。
ルナも盾で捌き、隙あらば長剣での突きをお見舞いして見せてるが……
ジリ貧だ。
ルナが与えるダメージよりも不死鳥の自己回復が上回っている。
そしてついに―――劇的な逆転も、起死回生の一撃も、驚くような意外な展開もなく、当たり前のようにルナなHPは0を告げた。
HPが0になったプレイヤーに主は興味を失ったかのように空へ羽ばたいていく、上空で旋回を続ける。
戦闘不能の証として、ルナの装備は砕けるような音がして、自動的に装備が解除された。
HP0ペナルティ―――
通常戦闘でHPが0になった者は30分間『ザ・ウォリアー』に再ログインできない。
ルナは無言で、その場に座り込む。
乱れた呼吸を繰り返し、額からは玉のような大きな汗が零れ落ちていた。
不意に視線をこちらに寄こした。
「……君は確か、あの時の!」
驚いたような表情を見せたかと思うと、そのまま立ち上がり、ヨロヨロと頼りない足取りでこちらに近寄ってきた。
「彷徨です。陽葵とは、『砲撃姫』とは幼馴染で……」
「……そうだったね。悪い事をした」
「悪い事?ですか?」
「そう、彼女を姫を私は守れなかった。それどころか……私は」
俺は1歩下がった。彼女が見せた怒りの表情に仰け反ってしまったのだ。
それに気づいたのか、彼女は―――
「すまない。だが、大丈夫だ。私が必ず姫を救ってみせるから」
力強く宣言すると逃げ出すように彼女はこの場を離れていった。
たぶん、彼女にも俺と同様の後悔に囚われていて―――
俺と同様に、デスゲームに挑むつもりだ。
「……」
俺は無言で彼女を見送っていた。すると―――
「よし、カナタくん!彼女を『ドラゴンアーマー』ちゃんをチーム『裏ボス狩』に誘おうよ!」
陽葵の空気の読めない言葉が聞こえてきた。
「待て、なんだ?その『裏ボス狩』ってのは?」
しかし、陽葵は「私たちの新興ギルド名だけど?」と言い。当然でしょ?と付け加えた。
「誘うのは自由と言うか、やぶさかではないが……俺は彼女の事を知らないぞ。今から、彼女の連絡を調べて、ギルドに誘うって結構な難易度じゃないか?」
「大丈夫、大丈夫。彼女、この時間帯なのに普段着だったでしょ?」
「ん?そう言えば確かに妙だな」
もしかしたら、大学生なのかもしれないが、見た目的には俺と陽葵と同世代だと思う。
高校生が普段着で、この時間にうろついている。
「たぶん、あの子は、この近くに住んでいて、暇があればここに来てるんだよ」
「ん~、その推理が正しいなら、彼女は学校をサボっていたのか?」
俺の疑問に陽葵は「そこまではわからないよ」と情けない顔で答えた。
「まぁ、兎に角、ギルドに誘うだけ誘ってみるか」
その前に、上空で旋回している不死鳥を見上げた。
「取りあえず、アレと戦わないとな」
『ザ・ウォリアー』のアプリを起動させると、不死鳥がニヤリと笑って見えた。
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