『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

雌伏の時


 ―――現在―――

 『M』が言っていた事は事実だった。
 毒を使って殺し合いのゲームを誘導した狂気の事件はメディアを通して日本中に伝わったにも関わらず、今だに警察は『M』を捕まえるどころか、その足取りを追う事すらままならないらしい。
『M』の言動から『ザ・ウォリアー』の運営会社が疑われたが、調査の結果、『M』と思わしき人物との接点もなかった。
 また、『M』の手口は既存の『ザ・ウォリアー』のデータに、彼が作ったと思われるウィルスを利用して、参加者のアプリを上書きしたものと思われる。
 そして、デスゲームの参加資格である毒が仕込まれた拡張パックは、警察によって回収されたが……
 
 俺の手には、新しい拡張パックがあった。

 おそらく、携帯端末ディバイスがデスゲームの追加データをDLダウンロードした時、俺の個人情報も読み取られたのだろう。
 後日、拡張パックが隠されている場所の地図がメールで送られてきたのだ。

 だから、俺は―――
 病院のベットで眠る陽葵を助けるために、デスゲームへ参加して、裏ボス100体を誰よりも早く撃破する事を誓ったのだ。
 さて……それはさて置き……
 陽葵が眠るベットに顔をうずめて寝てる少女……もう1人の陽葵について、そろそろ説明しなければなるまい。

 彼女の正体は―――

 わからない。

 あの日、デスゲームが終わり、病院に陽葵が運び込まれた日。
 彼女は突然現れた。
 彼女は俺以外には見えないらしい。
 陽葵の幽霊……というよりも、陽葵を失った事で俺の心が生み出した幻想なのだろう。
 たぶん、きっと……
 陽葵自身しか知らない事も知っているが……
 たぶん、きっと……

 俺はインカム型の携帯端末ディバイスを外す。
 すると彼女の姿は見えなくなった。
 不思議なもので彼女は、携帯端末ディバイスを装着してる間にしか見えないようだ。

 まるで、彼女がARにおける追加情報―――アノテーションになったように思える。
 まさか、人間の魂や霊魂的なものが、デジタル化され Augmentedオーグメンテッド Realityリアリティに統合されたわけでもあるまい。
 俺は彼女の幻想を生み出すのに、なんでこんな厄介な設定にしたのだろうか?

 幽霊にしても、
 デジタル化した陽葵であっても、
 俺の幻想であっても、

 独り言をブツブツと日常的に繰り返すサイコ野郎になったわけだ。俺は……

 おめでとう。ありがとう。

 俺は眠っている幻想の方の陽葵を見る。

 「年頃の女の子が人前で涎垂らすなよ」

 ハンカチを取り出して、軽くふき取る。
 すると……

 「むにゃ~むにゃ~カナタくん~」

 陽葵の口が動いた。

 「ドラゴンタイプは距離を取らないと~ ブレスがね~」
 「寝言まで、ボス狩りかよ。まったく、コイツは……」

 その直後、陽葵(幻想バージョン)が目を覚ました。
 パチリ、パチリと大きな瞬きをして。

 「あっ、起きたか……っいて!おい!お前!?」
 「何で乙女の寝顔をのぞき込んでるんだよ!君は!」

 陽葵のパンチが俺の顔面にすり抜けていった。
 陽葵に実体があれば、間違いなくノックアウトコースだっただろう。
 彼女はいつも通り、俺に取って理不尽な存在だった。

 その直後、携帯端末ディバイスの端、緊急を意味するメールが届いた。

 「……ッ!?」

 その情報に一瞬、俺は膠着する。
 それに陽葵も気づいたのだろう。

 「始まったの?」

 問うてきた彼女に、俺は「うん」と頷く。
 近隣に裏ボス出現した時、出現位置が知らされるのだ。

 ガリッと何かが鳴った。

 どうやら、歯を食いしばり過ぎたみたいだ。
 まだ、俺は裏ボスと戦えない。
 そんな実力は、俺にない。今は、まだ……
 だから……

 だから今は耐える。 雌伏の時だ。


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