『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

デスゲームでの初戦闘



  「死」と「痛」

 その二文字に縛られて誰も動けなかった。

 「おい、冗談だろ?だって、ゲームじゃん?」
 「昔ながらのドッキリだろ?これ、公式イベントじゃだっただろ?」

 そんな声が聞こえてくる。聞こえてくるが―――
 誰も本音ではない。

 今もリアルタイムで聞こえてくる、黒犬に食われる痛みと恐怖の訴え。
 それが演技ではないと、頭では否定しながらも心では現実だと理解してしまう。
 ―――否。
 理解させられてしまう。

 だから、だろうか?

 気が付くと俺の体は動いていた。

 「検索 ザ・ウォリアー。検索終了と同時にアプリ自動起動」

 武装完了と共に前方へ飛び出す。

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 恐怖を打ち破るために、叫び声を―――
 喉がぶっ壊れる覚悟でひねり出す。

 黒犬は最初の獲物となった男をもてあそぶように執拗に攻撃を繰り出して、俺には気づいていない。
 最前線に躍りだした俺は、無防備な黒犬に双剣を叩き込んだ。

 俺たちと同様に痛覚を感じるのか? ―――いや、まさか、そんなはずはない。
 ダメージを受けた黒犬は跳ねるような動きを見せて攻撃を中断する。
 ギロリと赤い瞳を俺に向けて、一気にヘイトは溜り攻撃ターゲットが俺に移ったことを示す。
 最初に襲われた男は……大丈夫だ。HPはレッドゾーンに入っているが、助かっている。
 残りゲージはドット単位で表示されて、本当にギリギリだったのをわかり、俺は安堵の息をつく。
 そして、精神を切り替える。ここからはゲームではありえなかった実戦だ。
 負ければ死ぬステージに舞い降りた。 
 適正レベル?関係ないね。躊躇すれば負けるだけだ。

 黒犬は飛翔した。

 最初に男を襲う時に見せた攻撃モーション。

 俺は床を転がり、避ける。
 しかし、次の攻撃――― 黒犬は着地と同時に前足で追撃を放ってきた。
 短剣2本とクロスさせて受ける。
 物理的な衝撃はないはずだが、それだけで俺の体は抑え込まれたような感覚に陥る。

 黒犬の連撃が始まる。

 まるで犬がおもちゃにじゃれ付くように、前足を叩き付け、さらに牙による噛み付き攻撃を繰り出してくる。牙にまとわりついたリアルなヨダレに不潔感が加えられ、恐怖の加速に一役買っている。

 3種類の連続攻撃。

 何とか、ガードして持ちこたえる。
 しかし、2本の腕しかない俺は防御が崩されるのは時間の問題に思われた。

 そして、ギロチンのように無慈悲に爪が振り落とされ、俺の命を刈り取っていこうとする。
 その瞬間―――

 爆発音。

 骨伝達システムにも関わらず、鼓膜が震えてるかのような音。
 落雷と聞き間違えるほどの爆音の後、黒犬の攻撃が止んだ。

 陽葵の砲撃が黒犬を吹き飛ばしたのだ。

 「バカ!何やってんのよ!」

 陽葵は俺に近寄り―――

 「だって、本当に死ぬかもしれないんだよ!」
 「わかってるよ。本当に死ぬかもしれねぇんだよ。だったら、助けねぇと!戦わねぇと!俺は―――
 俺は死にたくない」

 「……本当にバカだよ」と陽葵は呟きながらも、笑みを見せてくれた。

 その笑顔を見ただけで強張っていた体が弛緩した。

 しかし、戦いは終わっていない。
 もちろん、俺も陽葵も一撃でボスが……それも裏ボスと言われたアノテーションが戦闘不能になるとは思っていない。
 陽葵の一撃で吹き飛ばされた黒犬は起き上がり、こちらを睨むなり、駆け出してきた。 


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・



 ヒナタの砲台。

 それは『砲撃姫』の二つ名が示すように陽葵の代名詞。
 その正体は初期装備の弓矢。腕に装着するタイプのボウガンからの発展した武器だと知られたら、『ザ・ウォリアー』ユーザーたちはどう思うだろうか?
 陽葵は初期装備に、何か特別な思い出があるらしい。
 『ザ・ウォリアー』実装当初から頭角を現し始め、名前が知られるようになっても、コツコツとボウガンの強化とカスタムを加えていた。

 すると、

 ある日、 

 突然に、

 ボウガンが砲台に進化したのだ。

 それに伴い、武器のステータスが急上昇。
 『砲撃姫』の誕生となった。

 おそらく『ザ・ウォリアー』の多数ある隠し要素。
 それが『砲撃姫』ヒナタの秘密である。

 
 曰く――― 
 最大射程距離と最大火力が同居した移動要塞

 それが『ザ・ウォリアー』内での陽葵の評価である。
 それが意味することは、陽葵の戦闘スタイル。
 無論、接近戦も、中距離戦も、粗相なくこなす器用さも有しているが―――
 真骨頂は遠距離で戦う事で、最大の火力をたたき出すスタイルだ。

 だから―――

 「俺が、前衛で耐える。陽葵はぶちかませ」

 再び、俺は向かってくる怪物と対峙した。


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