『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

悪夢が終わった日常 前編

 目が覚めた。体を起こす。
 硬いベンチで寝たのが悪かったのか?
 ピキピキと体が固まったかのような感覚。 

 「起きたの?カナタくん」
 「あぁ、悪かったな。1人で待たせる形になって……」

 目を覚まし、睡魔も去った。
 すると湧いてきた感情は陽葵への罪悪感だった。

 「ん?別に気にしてないよ。私のためなんでしょ?」
 「え?」

 寝起きで頭がハッキリしていないのか?
 陽葵がどういう意味で言ったのか、わからなかった。
 俺が戦ってるのは陽葵のため?そう言えば……そんな…

 「ほら、他の人達も集まっているよ。行っておいで」
 「ん~ そうだな。ちょっと行って来るから、よく見とけよ」

 新たに出現するキメラを待っている集団ができている。
 俺は、その集団に近づくと代表者を探し始めた。
 代表者は……

 「いた」

 彼は、ここら辺の有名人だ。
 毎日、この広場でボス狩りをしてるサラリーマンだ。
 スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外している。
 だが、靴は革靴のまま。ズボンはスーツのまま。運動をする格好ではない。
 そしてメガネをかけている。
 どうして、携帯端末ディバイスの視力自動補正機能を使わないのか?
 いつも不思議に思うのだけど、もしかしたらロールプレイング的なキャラ付けで伊達メガネをつけているのかもしれない。
 そんな人物だが、ボス狩りの司令塔と任せられるだけあって、信頼と実績は本物だ。
 なんせ、仕事前に1狩りが日課になってるほどだ。

 「すいません、主狩りに参加させてもらっていいですか?」
 「構わないよ……あれ?君は確か……姫の?」

 彼は、その言葉の続きを寸前で止めた。
 それは俺の悪名的な二つ名だ。
 有名なプレイヤーになれば、他のプレイヤーから二つ名や、異名が付けられる。
 上位ランカーである陽葵の二つ名はそのプレイスタイルから『砲撃姫』と物騒な呼び名(本人は気に入っている模様)。 
 大抵は、上位プレイヤーに対する敬意の込められた二つ名になるが俺の場合は全く違う。
 その『砲撃姫』様と一緒に行動する事が多い事から、嫉妬と憎悪を込められて、こう呼ばれる。 

 『姫の付き人』 

 あるいは―――

 『姫の腰巾着』

 これは、まだ可愛い方で酷いヤツになると『金魚のフン』扱いだ。

 それを言いかけたサラリーマンは、「しまった!」と顔に出ている。
 ほぼ、初対面の人間を蔑称で呼びかけたのだ。社会人的にはタブーだろう。
 でも、俺は今まで様々な相手に、散々言われ続けている。
 逆に気にされると困ってしまうのだ。だから、サラリーマンの代わりに彼の言葉を誤魔化してやる事にした。

 「あぁ、姫だったら、アッチの方にいます。今日は見学するみたいです」
 「え?あぁ、そう、そうなんだ。どれだろ?あのベンチに座ってる子かな?」
 「たぶん、そうでしょ。それより……始まりますよ」

 まるで地上に顕現する魔物のように奴が光と共に現れた。
 俺に取っては、本日、2体目のキメラの登場だ。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「あ~ 疲れた」

 疲労に疲労を重ねた俺は、自転車ロードバイクに乗らず、ゆっくりと押して歩いて帰宅の途についた。

 「ご苦労さまです」

 隣では陽葵がパタパタと手を仰ぐような仕草で風を送ってくれようとする。 
 時間を確認すると6時半くらい。
 学校が始まる時間を逆算しても後1体のキメラを相手にする時間はあるが、流石に体力切れだ。
 もっと体を鍛えないと……秘かに俺は決意を固めた。
 そうして、自宅にたどり着くと、可能な限り静かに玄関を―――

 「随分と早い時間に出かけていたな」

 声をかけられた。その声は台所のテーブルから聞こえてきた。
 親父が新聞を読みながら話しかけてきたのだ。

 「あぁ、少し体を動かそうと……うん、運動だよ。運動」

 俺の言葉を、そこまで信じたのか、親父はそれ以上の追及はしてこなかった。
 その代わりに―――

 「今日は、行って来い」
 「行く?どこにさ?」

 そう言って、とぼける俺に親父は新聞紙を下げ、鋭い視線を投げかけてきた。

 「お前、病院に行ってないだろう」
 「―――ッ!」

 現実逃避をしてるつもりはなかった。
 しかし、こうやって言葉にして突きつけられると―――

 「……わかったよ。学校が終わったら、帰りに……」

 最後まで言葉にできず、俺は自室に向かい、階段を駆け上がった。
 その行為は、まるで後ろめたい感情から逃げ出すような気がして……
 部屋に入ると、そのままベットに飛び込んだ。すると……

 「おじさん、相当、怒ってたね」

 陽葵が照れてるような表情をしていた。 

 「お前!まだ、いたのか!」

 吃驚した。
 てっきり、自分の家に帰ったかと思ったら、俺の後ろにピッタリ隠れてたようだ。
 いや、いくら幼馴染でも、忍び込むような真似をするのはいかがなものか?
 今更だけどもな!しかし―――

 「2人で一緒に怒られるのは小学生の頃ぶりで、逆に懐かしかったね!」

 なぜか、楽しそうな陽葵を見て、俺は何も言えなくなった。

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