『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

第0話 勝利とご褒美と課題

 画面端に文字が羅列されていく。

 CounterカウンターAttackアタック

 Comboコンボbonusボーナス

 Weakpointウィークポイントbonusボーナス

 数撃必要だったはずのキメラのHPは、みるみる減少を続け、そして0を表示した。
 ガラスが砕けるような音と共にキメラは消滅した。
 俺の勝利を称えるようにファンファーレが鳴り響く。
 そして、空には『討伐成功』の文字が浮かんでいる。

 「勝てた?初めてボスにソロプレイで?」
 「そうだよ。カナタくん、ソロクリアおめでとう」

 陽葵の言葉で遅れて感情が込み上げてくる。気づけば手が震えていた。
 それを誤魔化すように俺は、手に力を込めてガッツポーズをした。

 「おめでとう、兄ちゃん!」

 「え?」と振り向くと、数人ながらギャラリーができていた。
 パチパチと拍手を受けて、どう反応したらいいのか……

 「ほら、ここは手を振って声援には答える場面よ」

 「おっ!おい!」と抗議を無視して陽葵は俺の手を取った。
 そのまま、無理やり手を振る動作を促す。
 恥ずかしさと照れがあるが、不思議と悪い気持ちはなかった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「それで、ドロップアイテムはなんだったの?」
 「あっ、まだ確認してないや」

 俺は新規アイテム獲得を知らせるアイコンをクリックする。
 そこに表示されたのは

 『キメラのクリスタル』

 「クリスタルだった」
 「へぇ~凄いねぇ……ってクリスタル?キメラの?」
 「うん、キメラのクリスタル」

 「きゃああああああああああああああ!」

 人気のない駅前で女子高生の悲鳴が轟いた。
 なんて人聞きの悪い奴だ……

 クリスタルとは、武器強化に使われる素材だ。
 俺のボス特化武器について軽く説明したと思うが、その効果は計り知れない。
 その反面、ドロップ率も低い。
 そこら辺のアノテーション―――敵モンスターからドロップする可能性は0.01%だ。
 リアルマネートレードで高額で売買される例もあるが……
 ボスがドロップしたクリスタルは、どれもゲームバランスを崩しかねないくらい効果が付属される。
 そのため、使用者が「チーティング」呼ばわりされる事もある。

 「どうしよう?カナタくん!コレ、売ったら一生遊んで暮らせるよ!」
 「落ちつけ、流石にそこまで高額じゃない」

 大体、2~300万が相場だ。それでも十分に高額ではある。

 「どうしよう?私の理想の結婚相手はボスドロップのクリスタルを持ってる人だよ!」
 「……それはプロポーズをしてるのか?俺に?」

 あわあわと狼狽える陽葵。
 その分、俺は冷静でいられた。
 現実的なのは、リアルマネートレードで売り払い、新たな装備を……いや、装備は新調したばかりだ。
 それも必要なボス特化装備は揃えている。つまり、手に入る数百万円は俺の自由になる金だ。
 あれ?ヤバい……どうしよう?これ?
 結局、2人であわあわと動揺しながら過ごした。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 少し休憩をして、荷物からミネラルウォーターを取り出し、口を付ける。
 その直後、膝から力が抜けて、俺の肉体は崩れ落ちた。

 「あ、あれ?」

 何が起きたのか?一瞬、わからなかった。
 緊張感が切れた事でボス戦の疲労が一気に噴き出したのだ。
 近くのオブジェに体を預けて休息を取る。
 汗が大量に溢れ落ちていく。球のような汗が滝のように落ちていった。
 体の内部が燃えてるように熱い。 
 ジャージの上着を脱ぎ捨てて、タンクトップ姿になるが熱が下がらない。

 「カナタくん!大丈夫?」
 「あぁ、課題は見えてきたな」

 「課題?」と陽葵はキョトンとした表情を見せる。

 「体力増加とスタミナ配分だな」

 時間を確認するとキメラとの対戦が始まり10分間も経過していない。
 人間が全力で動き続けれるのは数分間が限界という話を聞いた事がある。
 基本体力は大切だが、どんなに鍛えても激しい運動を長い時間は続かない。
 だからスタミナ配分が必要になってくる。
 そんな事を考えていると―――

 「よくわからないけど、カナタくんがやる気になってくれて嬉しいよ!」
 「別にお前のためじゃ……」

 一瞬、照れ隠しに強めの口調を陽葵に向けかけたが、直前で訂正した。

 「……いや、そうだな。がんばってみるよ」

 俺は心情を素直に言ってみた。けど……

 「ついにカナタくんがデレた!」
 「茶化すなよ。ば~か~」

 結局、俺と陽葵の距離感は変わらないらしい。

 「さて、キメラが再出現する時間は討伐成功してから1時間だったけ?」

 陽葵に確認する。
 「そうだね」と答えを聞いて、俺はジャージを丸めてバックの上に置いて、簡易的な枕を作った。
 その枕に近くのベンチに置くと、そのまま頭を乗せて瞳を閉じた。

 「あれ?カナタくん寝ちゃうの?こんな所じゃダメだよ」

 確かに、いくらベンチの上とは言え、広々とした駅前広場で眠るのは抵抗が生まれる。
 早朝だから、逆に一晩ベンチで過ごした家出少年に間違えられたら厄介だ。
 けれども、睡魔には勝てない。

 「大丈夫だよ。お前が一緒にいてくれるだろ?ずっと……」
 「なっ!なんですとぉ!」

 5時前に起きたんだ。本来必要な睡眠時間を取れていない。
 次のボス登場まで1時間も余裕がある。
 朝の6時くらいになれば、ソロプレイはできないだろう。
 主狩りを目的にした連中も通学や通勤前に動きだす時間だろう。
 そいつ等と一緒に、ボス狩りに参加すれば、ここまで疲労する事はなくなるだろう。
 その分、報酬も減るけど……これ以上はソロプレイで無茶はできない。
 寝る直前、そっと目を開けてみたが、なぜか陽葵は頬を赤く染まっていた。

 (何をコイツ、照れてるんだ?) 

 俺には思い当たる所はなかった。
 そのまま、思考を止めて意識を低下させた。

 

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