『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~

チョーカー

第0話 近未来的な日常

 ハイテンションの俺は雄たけびをあげた。 

 「ひゃっほ~」

 ロードバイクに乗った俺は、車道を疾走する。
 平坦な道、ペダルの回転数をあげると、時速は40キロまで跳ね上がる。
 気分は向上。そのまま車道の真ん中に移動してさらに加速させる。
 暫く走り続けていると―――

 『後方から自動車が近づいています。道を譲りましょう』

 携帯端末ディバイスから骨伝導を利用したクリアな合成音声が危険を知らせてきた。
 ……いや、そんな事よりも

 「車?ウソだろ?」

 俺は自転車を道端に寄せて、背後を振り向く。
 すると僅かに聞こえるエンジン音。見間違う事なく、自動車が近づいてくる。

 「すげぇ!本物の車だ!カッコイイ!」

 すれ違う自動車を絶賛した。
 その声は運転手にも届いたのだろう。
 左側の運転席の窓が開き、片手でジェスチャーを返してくれた。
 おそらく「声援ありがとう」的な意味のジェスチャーなのだろう。

 車道。

 2031年の現在では自動車がソコを走る事なんて、滅多にない。
 自動車が日本の経済を支える基幹産業だったのは過去の話だ。

 AIの発達による完全自動運転

 携帯端末ディバイスの音声命令で「タクシー」と声を出せば、数分程度の自宅には、1人乗り用の小型タクシーがやってくる。運転手のいない完全無人型であり、自動車とは別のカテゴリわけされる乗り物。 料金も月額1000円以下であり、もちろん24時間体制。
 今どき、個人で自動車を保有しているのは、余程の道楽者。
 あるいは物流用トラックだろう。
 選択肢として、3Dプリンターやドローン配達なんてもの増えたが、それでも物流としてのトラックは一般的だ。それも専門の地下道路があるために、実際に走ってる姿を見る事はほぼない。
 昔は、クロネコがトレードマークの配達業があり、そのクロネコを見るなり、触るなりすれば1日幸運が訪れるなんてジンクスがあったらしいが、今ではトラックを見るだけで1日の運を使い果たしてしまいそうだ。

 しかし…まぁ……自動運転。

 それは機械に人間の価値を計らせている……そういう意味だ。

 例えば―――

 そのまま、直進すれば大規模な事故になってしまう場合。

 『ハンドルを左に切れば、自動車は止まる事が出来ず子供を轢き殺してしまう』

 『ハンドルを右に切れば、自動車は止まる事が出来ず老人を轢き殺してしまう』

 命の価値は平等というものの……
 子供と老人の賠償金は平等ではない。
 周知だろうが、未来がある子供の方が賠償金は高い。
 老い先短い老人は子供よりも価値がないという司法の考えなのだ。

 ならば、この場合―――

 機械に老人を轢き殺すのが正解だと学習させなければならないのだ。

 しかし、しかしだ。

 極端な例として老人と子供としたが、もしもこれが26歳と24歳なら?

 AIは、どちらを殺すのだろうか?いや、それよりも……

 AIは、どうやって殺す人間を決めているのだろうか?

 だが、それは各生産企業のブラックボックスであり、おそらく俺の生きてる時代で公表される事はないのだろう。

 兎にも角にも閑話休題って奴だ。
 中々、気分の悪い話だったでしょ?

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 駅に到着。
 ディバイスに表示される時間は5時を少し経過した程度。
 駅前に関わらず、人気はない。
 まだ町は眠っているって言ってしまうとカッコつけ過ぎだろうか?
 ロードバイクは契約している有料駐輪場に止めている。
 バックから、スニーカーを取り出し、ロード用にビンディングシューズから履き替えた。
 軽く、準備運動を行うと……

 「か~な~た~きゅん?」

 ゾクッと首筋に寒気が走った。
 振り向くと、陽葵がいた。
 必死に追いかけていたのだろう。そこには人前で決して見せてはいけない現役女子高生が乱れた姿があった。無論、乱れているのは、息が乱れているという意味だ。
 汗だくで、呼吸が苦しそうな美少女と言うのは、見ない方がいい。
 幻滅するぞ。

 「ほう?言いたい事はそれだけかな?」
 「しまった!考えが口に出ていたか!」
 「置いて行った恨み!晴らさずにおくべきか!」

 優しめの折檻と説教もそこそこに―――

 「それじゃ始めるか!陽葵はサポートを頼む」
 「はい、始めてOKだよ」

 俺は呼吸を整えると―――

 「検索 ザ・ウォリアー。検索終了と同時にアプリ自動起動」

 ARゲーム 『ザ・ウォリアー』を起動させた。

 風景は何も変わらない。
 視界に広がっているのは駅前の広場のままだ。
 違いがあるとしたら俺の姿のみ。

 その姿はRPGゲームの主人公だ。

 西洋風の洋服に軽装的な鎧。
 武器は短剣が2本の二刀流。

 もちろん、実際に姿が変化したわけではない。
 現実の姿にデジタルの情報を俺の目に直接投写させているのだ。
 そして、戦うべき相手は―――

 「カナタ!あそこにいる」

 背後にいる陽葵が言った。
 確かにソイツはいた。
 この駅前ゾーンの主であるキメラだ。
 もちろん、現実の世界がキメラが出現したわけではない。
 ゲーム内の敵キャラクター。所謂、モンスター。
 現実に追加された情報であり、専門用語ではアノテーションと呼ばれている存在。
 ARゲーム『ザ・ウォリアー』は、シンプルに敵キャラクターを倒すゲームだ。

 ぬし……つまり、ボスキャラ。
 その緊張感からゴクリと喉がなった。
 俺が手にした武器は、新しく作ったボス特化武器。
 リアルマネーで貯金のほとんどをつぎ込んで作った武器だ。

 (大丈夫、必ず勝てる……はず)

 俺は自分を落ち着かせるために、心で呟いた。すると―――

 「必ず勝てるから、落ち着いて」

 そう言ったのは陽葵だった。
 俺と同じセリフを言った陽葵を見て、少し笑った。
 どうして笑われたのかわからず、キョトンとした表情を陽葵は見せた。
 それも束の間。

 「集中して、ボスもコチラに気づいたみたいだよ」

 「……確かに」と俺は呟く。
 情報に過ぎないキメラと目が合った気がした。 

 

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