ああ、赤ずきんちゃん。

極大級マイソン

第4話「赤ずきんちゃんと紅蓮使い」

 昔々あるところに、可哀想な少女がおりました。
 少女は、真冬の厳しい寒空の下でマッチを売らなくてはならないくらい、貧しい家の生まれです。空腹と寒さと戦う、いつ死ぬかもしれない日々を過ごす毎日。そんな彼女が、ある日『魔法の力』に目覚めたことは、まさに神からの啓示だったのかもしれません。少女は、魔法の力を存分に使ってお金を稼ぎ、食に困らず冬は暖かく、豊かな生活を送れるようになりました。
 ところが、少女の不幸は続きます。父親が事故に遭い、さらには母親までも病気で亡くなり、少女は一人ぼっちになってしまったのです。
 絶望する少女は、ふと死んだお婆ちゃんのことを思い出しました。
 お婆ちゃんはマッチが好きでした。
 少女もマッチが大好きでした。
 少女はマッチの力で生かされました。
 家に残された少女は、家族の想いを旨に固く決意をします。

 マッチ売り「お婆ちゃん、パパ、ママ、見ててね。私は、この家を出て、世界一の大金持ちになる。そしたら、そのお金でお店を開いてマッチを……大型マッチ専門店『ジャンボ☆マッチ売りランド』を営業するんだ!!」

 こうして、少女は旅に出ました。目指すは、夢の《CEO》。
 不幸のどん底から立ち上がった、彼女の覇道はここから始まったのです!



 *****



 天下一舞踏会の会場は、炎の海に包まれていました。
 観客席は、シンデレラが魔法の力で施した《障壁》で炎を寄せ付けずに済んでいますが、大広間の中央、舞台の上はまさに阿鼻叫喚。紅蓮色の揺らめきは視界すらも歪める熱を生み出し、摂氏数百度は及ぶのではないかという悪環境を作り出しています。
 そんな人が生きるには不可能な所で、今2人の少女が立ち竦んでいました。
 片や、赤い頭巾を失ったドレス姿の森ガール《赤ずきん》。
 片や、赤い頭巾を被った極悪スマイルの野心家《マッチ売りの少女》。
 赤ずきんは、周囲を蠢く炎を傍観し、

 赤ずきん「……この炎。貴女が操っているの?」
 マッチ売り「いわゆる《魔法》ってヤツだ。オレ様は、マッチに火を付けることで自由に炎を生み出せる『紅蓮使い』なのさ」

 マッチ売りの少女は、マッチ箱の側面にマッチ棒を当てて着火します。それと同時に、赤ずきんはサッとその場を離れました。
 忽ち、赤ずきんが居た場所から炎の柱が立ち上りました。爆発的に生じた炎は、一瞬で天井を焦がします。
 魔法を回避されたマッチ売りの少女は、チッと舌打ちをします。

 マッチ売り「……オレ様が何をしようとしたのか、気付いたのか?」
 赤ずきん「別に。ただ、何となく避けたほうが良いかなぁーって思っただけ」
 マッチ売り「へぇ、直感で戦うタイプか。あいにく、天才肌の奴とは性に合わないんだよなぁ!!」

 マッチ売りの少女は、すぐさま次のマッチ棒に火を付けます。
 今度は同時に3本を着火しました。直後に3つの炎の玉が生まれ、赤ずきんに直進します。

 赤ずきん「そもそも私、戦う人じゃあないんだけど。そういうのは親がやってくれるっていうか」

 襲い来る炎の猛攻を、赤ずきんは最小限の動きで見切ります。それは、本当にどこから炎が出て来るのかがわかっているような動きでした。
 回避は上々。しかし、このままではいつまで経っても勝負が終わりません。
 そう思った赤ずきんは、攻勢に出ることにしました。取り敢えず、マッチ売りの少女に近付こうと歩みを進めます。

 マッチ売り「させねえよ!!」

 マッチ売りの少女が火をつけると同時に、2人の間に炎の壁が出現しました。近づくだけで高温に晒される灼熱の炎のせいで、赤ずきんはこれ以上進めなくなります。
 炎の向こう側から、マッチ売りの少女がニヤリと笑いました。

 マッチ売り「これでワンサイドゲームだ!!」

 マッチ売りの少女が次々と炎を生み出します。遠くからの攻撃手段を持ち合わせていない赤ずきんは、相手の攻撃を避け続けることしかできません。
 防戦一方の戦況が続く中で、赤ずきんの額に汗がツーっと伝います。
 森育ちの赤ずきんにとって、身体を動かすことは日常茶飯事。
 しかし、今回ばかりは攻め切れない理由がありました。

 赤ずきん「……不味いわね」

 その時です。
 突然、赤ずきんの頭の中に声が響いてきました。

 ??『あーあー。……赤ずきん様、聞こえておりますでしょうか?』
 赤ずきん「はっ!? ちょ、直接脳内に話しかけられている!?」

 赤ずきんは、周囲をキョロキョロ見渡しますが、声をかけてくるような人物はどこにも見当たりません。
 ただ、声色からその人物がシンデレラであると、赤ずきんは気付きました。

 赤ずきん「……シンデレラさん?」
 シンデレラ『はい、私です。ご気分はいかがでしょうか?』
 赤ずきん「暑くて汗めっちゃかいてるわ!!」
 シンデレラ『そうですか。お元気そうで何よりです。今回、わっ……!』
 赤ずきん「?」

 と、シンデレラの声が突然遮られ、何やらバタバタと騒がしくなったかと思うと、直後馴染みの声が、赤ずきんの頭に届いてきました。

 白雪姫『赤ずきんさん!? わ、私です!! 白雪姫ですッ!! あの、その、……だ、だだ大丈夫ですかっ!?』
 赤ずきん「……白雪姫? どうしたのそんなに慌てて」
 白雪姫『それは……! 赤ずきんさんが炎に焼かれそうなのを観て心配で心配で……! 今すぐそちらに駆けつけたい気持ちでいっぱいでぇ〜!!』

 白雪姫はかなり混乱しているようです。幼い少女の焦りと動揺が、顔の見えない赤ずきんからでも伝わってきます。

 赤ずきん「まあまあ白雪姫。心配し過ぎだって。こんなのなんてことないんだから」

 そんな白雪姫を少しでも落ち着かせようと、赤ずきんは出来るだけ余裕を孕んだ調子で話します。
 赤ずきんの気さくな態度に、白雪姫は徐々に冷静さを取り戻していきます。

 白雪姫『ほ、本当、ですかぁ……?』
 赤ずきん「ええもちろん全然危なくないわ。それより、この頭の中に話しかけてるのってどういう仕組み……」



 瞬間、
 赤ずきんの頭上を巨大な火の玉が通り過ぎていきました。



 赤ずきん「危なッ!!」

 咄嗟の回避が幸いし、赤ずきんは直撃を免れました。あと一歩遅ければ顔面が燃え上がっていたことでしょう。

 マッチ売り「ちぃ、惜しいな……。だが、マッチがある限り火はいくらでも生み出せるぜ!」

 マッチ売りの少女がマッチを擦ると、同様の火の玉が次々と赤ずきんに向かって放たれていきます。
 炎の壁で行動範囲を狭まられている赤ずきんは、上半身を捩って避けるので精一杯。反撃の機会を与えないマッチ売りの少女の策略に、見事にハマってしまったのです。

 白雪姫『赤ずきんさん!?』
 赤ずきん「うーー! いつもなら、こんな火くらいなんてことないのに!」
 白雪姫『そ、そうです! いつもの赤ずきんさんだったら《溶岩浴》だって平気で入れるくらい暑さに強いはずです!』

 王子『……む、溶岩浴? それはどういうものなのだ?』
 シンデレラ『サウナの一種でございます王子様。溶岩で作られた天然石の上に横になり、その天然石を加熱することで身体を温めるお風呂を《溶岩浴》と言います』
 王子『ほう、なるほど』

 シンデレラの豆知識が、赤ずきんの脳内に直接響いてきました。
 どうやら白雪姫の側には、シンデレラの他にも王子様もいるようです。

 白雪姫『違いますよ。赤ずきんさんの溶岩浴は、読んで字の通り《ドロドロの溶岩の中に浸かるお風呂》のことです』
 赤ずきん「時々ムショーに入りたくなるの」
 王子『それは凄いな……! 一体何千度の風呂に浸かっているのだ!?』
 白雪姫『それよりも、赤ずきんさんの動きがいつもより鈍いような気がします。どうしてしまったんですか?』
 赤ずきん「……実は」

 赤ずきんは俯き加減に下の方を向きます。
 すると、ソッとスカートの先っぽを握りました。

 赤ずきん「スカートが……」
 白雪姫『え?』
 赤ずきん「……スカートが短過ぎて、パンツが見えそうなの!」

 その言葉を聞いた瞬間、2人の間に稲妻が走りました。

 白雪姫『パ、パンツが……!』

 白雪姫の声が自然と震え出します。
 全く考慮していなかった、そんな顔で幼き少女は戦慄いていました。

 赤ずきん「だ、だって、こんな短いスカート今まで履いたことなかったから……! さっきターンした時とかちょっと見えそうになったし……こんな衆人環視の前で激しく動き回ったりなんかしたら本当に見えちゃうんじゃないかって気が気じゃないっていうか……!」

 しばしの沈黙が訪れます。
 その後、白雪姫は1つ革新的な質問を投げかけました。

 白雪姫『……え? え? ……あ、赤ずきんさん? も、もしかしてですけど《恥ずかしがっている》んですか?』
 赤ずきん「そ、そうだけど……」
 白雪姫『嘘、何それ可愛い……! あ、赤ずきんさん少し待っていてください! 今そちらに向かいます! け、けっして赤ずきんさんの羞恥に悶えた顔が見たいとか、そういう疚しい気持ちで行くのではないのでご安心をッ!!』

 白雪姫は興奮した様子で喋っていますが、赤ずきんは言っている意味が理解できませんでした。何故興奮しているのか、何故変な弁解をし出したのか等。
 そして、赤ずきんの目の前でパァァッと光の柱が現れたかと思うと、その中から白雪姫が出てきました。

 白雪姫「お待たせをッ!!」
 赤ずきん「ええッ!! 本当に来たの!?」

 試合中であることも忘れて舞台の上へとやって来た白雪姫は、早速赤ずきんの姿をマジマジと観察します。

 白雪姫「な、なるほどこれは……! 暑さで肌がほんのりと赤く、ドレスは汗を染み込んで薄っすらと透けて普段では見られないセクシーさがッ!!」
 赤ずきん「し、白雪姫?」
 白雪姫「ハァ……! そしてスカートを摘んでモジモジする姿がなんて可愛いらしい……! ハァ……! こ、これは永久保存版です!! カメラはどこですか!?」
 赤ずきん「ちょっと、あの、さすがにそんなこと言われると恥ずかしいんだけど……。あとカメラって何?」

 白雪姫は、自らの雪のような肌を桃色に紅潮させて、息を荒げていました。赤ずきんは、そんな親友の様を見てたじろいでいます。
 一方、マッチ売りの少女はというと、突如現れた白雪姫に対し怪訝な表情を浮かべていました。

 マッチ売り「……お前は、さっき本物と一緒に会場に来ていた奴だよな?」
 白雪姫「ゼェ……ハァ……! あ、赤ずきんさん可愛いっ! その見た目その仕草が全てに於いて……! ゼェゼェ……!」
 赤ずきん「白雪姫っ!? 顔凄い真っ赤だけど、これって暑いからこうなってるんだよね!? そりゃそうだ、ここ炎の海の中だもんね!!」

 マッチ売り「……おーい?」
 白雪姫「ヒュゥゥ……! ハァ……! ヒュゥゥ……! ハァハァ……ゼェ……!」
 赤ずきん「血走ってる!! 目が怖いくらい血走ってるから!! だ、誰か氷を持って来てぇぇ!!」
 マッチ売り「……どうやら取り込み中のようだな」

 マッチ売りの少女は、怠そうに軽く身体を揺さぶってから……。
 おもむろにマッチに火を付けました。

 赤ずきん「緊急回避ッ!!」

 赤ずきんは、白雪姫を抱えてダッシュ!
 直後、2人のいた場所から炎の柱が燃え上がりました。

 マッチ売り「まあ、単純な話だ。要するに2人まとめて燃やし尽くせば良いんだろう?」
 赤ずきん「くぅーー問題は山積みだぁ!! 炎は暑いし、白雪姫は熱中症になりそうだし、パンツは見えそうになるしッ!!」
 マッチ売り「最後の2つはお前らの不手際だろう、知るか。大体、パンツを見られたくないなら普通にスカートを押さえれば良いだけの話じゃねーのか?」
 赤ずきん「……ハッ!?」

 その瞬間、赤ずきんの目から鱗が落ちました。

 マッチ売り「え、マジで気付いてなかったの?」
 赤ずきん「……今までずっと、ダバダバの《ロングスカート》しか履いてこなかったから、その発想はなかったわ。そうよ、スカートを手で押さえれば問題解決じゃない!」

 有言実行。赤ずきんはドレスのスカート押さえました。
 これで、赤ずきんは人前でも自由に動き回ることが可能となるでしょう。

 赤ずきん「あ、でも駄目だわ。私だけじゃ、前しかスカート押さえられないから後ろから見えちゃう」
 マッチ売り(面倒くせーなぁこいつ……)
 白雪姫「あっ! それなら私が赤ずきんさんのスカートを押さえましょうか? こう、お尻から抱きつくような感じでギュッと!」
 マッチ売り(そしてあの女は何を言ってるんだ?)
 赤ずきん「なるほど! 白雪姫頭良いっ!」
 マッチ売り(……………………こいつら、揃いも揃って馬鹿なのかな?)

 そして試行錯誤の結果、最終的に白雪姫が赤ずきんの背後に回り、抱きつくように手を回してスカートを押さえる格好を取りました。これで、前も後ろもスカートを固定し、尚且つ両手が自由に使えるというメリットが生まれたのです。
 まさに、《革新的》と呼べるアイデアの誕生でした。

 赤ずきん「完璧ッ!! もう大丈夫!! これで絶対にパンツは見えないわ!!」
 マッチ売り「そうか」
 赤ずきん「よぉーし、ここから私の逆転劇が始まるわ!! 白雪姫も、体調がヤバそうだしすぐに涼める所に連れて行かないと」
 マッチ売り「いいから掛かってこい」
 赤ずきん「ふんぬっ! ……あ、あれ?」

 赤ずきんは、一気にマッチ売りの少女との距離を詰めようと移動を開始します。しかし、自分の足が動かないことに気がつきました。
 そこで赤ずきんは、このアイデア最大の欠点に思い至ったのです。

 赤ずきん「あ、そうか。この格好、腕で足が固定されてるから移動が出来なくなるのね」
 マッチ売り「うん。だろうな」

 マッチ売りの少女は、言うが早いかマッチを着火させます。
 そして移動不可となった赤ずきんは、今度こそ荒れ狂う炎の海の中に飲み込まれてしまいました。

 赤ずきん「危ない!」
 白雪姫「きゃっ!」

 赤ずきんは、白雪姫を燃やさせまいと咄嗟に彼女を突き飛ばしました。おかげで、白雪姫が焼かれることはありませんでしたが、赤ずきんは取り残されてしまいます。

 白雪姫「ああ赤ずきんさんっ! そんな……私が余計なことをしたばっかりにっ!」
 マッチ売り「全くだ」

 かける言葉が見つからないとばかりに、マッチ売りの少女は無慈悲に言い捨てます。
 家をも包み込む規模の巨大な炎。赤ずきんがどうなったのかはここからでは見えませんが、絶対に無事では済まないはず。そう断言したマッチ売りの少女は、炎が鎮まるのを待ちました。
 しかし、予想外の出来事が起こります。
 巨大な炎が、突如発生した強い風によって吹き飛ばされ鎮火したのです。
 マッチ売りの少女は慌てて炎があった場所を確認すると、そこには焼き焦げてボロボロになった服を着た赤ずきんが立っていました。

 赤ずきん「ああっ! 白雪姫から借りた服が焦げちゃってる!?」

 赤ずきんは悲鳴を上げました。
 そして白雪姫は、無事に出てきた赤ずきんの元へ駆け寄ります。

 白雪姫「赤ずきんさん! 良かった無事だったんですね!」
 赤ずきん「……ごめんなさい、借りてた服を台無しにしちゃった。なるべく汚さないように気をつけてたんだけど……」
 白雪姫「もしかして、赤ずきんさんがあまり動けなかったのって服を汚さないようにしていたからですか?」
 赤ずきん「うん。スカートが短いからっていうの理由もあるけど、それ以上に借りた物だから大事にしないとって思って」

 赤ずきんはしょんぼりと落ち込んでいます。
 そんな赤ずきんに対して、白雪姫は苦笑を浮かべました。

 白雪姫「もう、服なんて何着もあるんですから気になさらなくても良かったのに」
 赤ずきん「うう……」
 白雪姫「私は、赤ずきんさんの安否の方が大事なんです。大会が辛いなら、無理に試合を続けなくても良いんですよ?」
 赤ずきん「別に試合自体が嫌な訳ではないわ」
 白雪姫「でしたら、服のことは気にせず思いっきり戦ってください」
 赤ずきん「……わかった。必ず勝ってくるからね!」

 そう言って、赤ずきんはマッチ売りの少女の正面に立ちました。
 一方、マッチ売りの少女は不服そうな表情で赤ずきんを睨んでいます。

 マッチ売り「オレ様の渾身の炎を受け流しただと? どんな手品を使いやがったんだ」
 赤ずきん「手品なんて使っていないわ。普通に炎から這い出ただけよ」

 赤ずきんは、ゆっくりとした足取りでマッチ売りの少女に近づいていきます。
 まるで廊下を歩くかのような動きに、マッチ売りの少女は唖然としました。

 マッチ売り「馬鹿にしてんのか? スカートが捲れないようにだか、服が燃えないようにだかしらねえが、そんなノロノロした歩みでオレ様の炎を避けきれるものか!!」

 マッチ売りの少女は武器マッチを構えます。すぐさま先端を着火させると、赤ずきんの身体がボォッ! と激しく燃え上がりました。
 ……ところが、

 マッチ売り「な、何だとぉ!?」

 マッチ売りの少女は動揺します。何故なら、全身を炎に燃え盛れている赤ずきんが、何事もないように足を止めずこちらへ近づいてくるのです。
 マッチ売りの少女は慌てて次々とマッチを着火させ炎の嵐をを生み出します。しかし、一向に赤ずきんが止まる気配はありません。

 マッチ売り「と、止まれ! 止まれ!! ……な、何で!? おかしくないか!? 燃やされても平気な人間なんてこの世にいるはずがねえ!!」

 マッチ売りの少女の悲鳴を上げますが、それで状況が良くなることはありませんでした。
 そして遂に赤ずきんは、マッチ売りの少女に手が届くくらいの距離まで近づきました。
 マッチ売りの少女は逃げようにも、熱い炎が邪魔をして逃げ道を失っています。生み出した炎が完全に裏目に出たのです。

 マッチ売り「く、くるなぁ! あっち行け!! ……むぎゅっ!?」

 必死に抵抗するマッチ売りの少女。
 そんな彼女のほっぺを、赤ずきんはギュッと握りました。その格好はまるで、イタズラをする子供のようです。

 マッチ売り「いひゃい! いひゃ……うぅぅはなへぇぇぇぇぇ!」
 赤ずきん「どうだどうだ! これぞ我が家に代々伝わる奥義! 私もママに叱られる時はよくこの奥義を受けるわ!」

 赤ずきんは、マッチ売りの少女のぷにぷにのほっぺを抓っています。ほっぺから感じる痛みと燃え盛る炎の熱さで、マッチ売りの少女の身体からは大量の嫌な汗が流れてきました。
 マッチ売りの少女は、逃れようと懸命に身体を揺さぶりますが、赤ずきんの握力が思いのほか強いせいで全く離れることが出来ません。
 こうなっては得意の魔法も使えず、マッチ売りの少女は完全に為すすべが無くなってしまいました。

 マッチ売り「あぅぅ……いひゃい! あふい! たふへへ!!」
 赤ずきん「……じゃあ降参する?」
 マッチ売り「こうはんふる!! こうはんふるはらたふへへぇぇ!!」

『降参するから助けて!!』というマッチ売りの少女。
 その台詞を聞いた審判(炎から退避していた)は、片手を上げて判決を下します。



 審判「マッチ売りの少女選手、降参を宣言!  よって勝者、赤ずきん選手!」



 観客席から歓声が沸き起こります。
 自分の勝ちだと言われた赤ずきんは、ほっと一安心してマッチ売りの少女のほっぺを離しました。
 次回、第5話「赤ずきんちゃんと大浴場」。ご期待ください。

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