ああ、赤ずきんちゃん。
第16話「赤ずきんちゃんの冷凍保管」
調理場です。
おとぎの城の調理場は、国王やその親族にも出される料理を作る場だけあり非常に清潔で設備も充実していました。そして何よりも部屋がとても広いという事が、赤ずきんには衝撃的でした。ただ料理するだけの場所で、何故これほどのスペースが必要なのか。赤ずきんは不思議でたまりません。
赤ずきん「どう見てもここだけで私の家3個分はあるわ。こんなに広いなんて、"森のクマさん"でも解体するのかしら?」
少年「流石に熊はバラさないかと……。ていうか発想がサバイバル的過ぎる」
赤ずきん「まあ良いわ。早速リンゴをすり潰して、王子様に食べさせるのよ」
赤ずきんは黄金のリンゴを取り出します。王子様を生き返らせるに欠かせない、たった1つの生命線。無くさないように大事に大事に持ち歩いています。
赤ずきん「1つ言っておくわ。この黄金のリンゴは今1個だけしか持っていないの。だから絶対に粗末に扱わない事。良いわね?」
白雪姫「はい」
少年「かしこまりました」
赤ずきん「よし。じゃあ白雪姫、食器棚からお椀を持って来てくれるかしら? その上で私が素手でリンゴを握り潰すから」
少年「握り潰すッ!? 早速粗末に扱っているのですが!!」
赤ずきんは、王子様を生き返らせるに欠かせない生命線を掴み、力を込めます。
その腕はどう考えても少女の物。普通ならこんなに細い腕でリンゴが握り潰せるはずがありませんが…………、少年は先ほど見た赤ずきんの『寝相』の様を思い出します。部屋を崩壊させんばかりの暴れっぷり。ともすれば、リンゴを片手で握り潰す事も、彼女になら可能かもしれないと、少年は思いました。
少年「あの、赤ずきん様……。差し出がましいことを申し上げますが、リンゴを素手で潰すのは如何なものかと」
赤ずきん「ならどうするの?」
少年「そうですね……。このジューサーなどどうでしょうか」
少年が取り出したのは『電気ジューサー』でした。
初めて見る道具に、赤ずきんは興味深く見つめています。
赤ずきん「ジューサー?  何なのそれ?」
少年「ご存知ないのですか、これは野菜や果物をジュースにする道具です。材料を中に入れ、スイッチをオンにすれば動き出し、たちまち液状化致します」
赤ずきん「ハッハッハ! 何を訳のわからないことを言ってるの! ジュースっていうのは素手で握って作るものよ!」
少年「せめて何か道具をお使いくださいませ。電化製品が無くとも、絞る道具くらいはございますでしょうに」
百聞は一見にしかず。とにかく実際に動かして見せた方が早いと、少年は調理場の隣りにある食料庫に向かいます。この食料庫には、肉や野菜、魚、果ては缶詰など様々な食材が用意されており、どれも新鮮で味の良いものばかりです。
少年に続いて赤ずきんも食料庫に入ると、彼女はそのあまりに大量の食べ物達に圧倒されました。
赤ずきん「は〜〜〜っ、これ全部食料なの? ……どんだけ食いしん坊なの、このお城の人達」
少年「ははっ、流石にこの量を1度に食べ切れませんよ」
赤ずきん「ねえねえ。あの大きな扉の向こうには何があるの?」
少年「あそこは冷凍保管庫です。生の肉や魚などを入れておくために使います。中は氷点下の気温で保たれており、食材を常に新鮮な状態にしています」
赤ずきん「ほうほう、肉や魚か。…………そう言えば私、まだ朝食を食べていないのよね」
少年「あ」
この時になって少年は、自分が赤ずきんの朝食を用意していなかったことに気が付きました。
少年「も、申し訳ございません! すぐにご用意いたします!」
赤ずきん「良いって良いって。ていうかわざわざ用意してくれなくても私が自分で料理するわよ」
少年「そんな……! お客人にそのような手間をさせるわけには」
赤ずきん「私が料理したいの。こんなに沢山の食材で作るのは初めてだから、きっと凄いものが出来るわ。私はリンゴを調理場に持って行くから、貴方は保管庫から肉や魚を取ってきてちょうだい」
少年「……かしこまりました」
少年は、冷凍保管庫の横に備え付けてある青色のボタンを押すと、冷凍保管庫の大きな扉が音を立てずゆっくりと開きました。そして鳥肌が立つような冷気がヒュゥゥゥっと食料庫に流れてきて、赤ずきんの身体を包み込むようにして肌を撫でてきます。
少年「では、僕は使えそうな食材を集めますので、赤ずきん様は先に調理場にお戻りください」
赤ずきん「アイアイ!」
少年は保管庫に入り、赤ずきんは食料庫の棚に積まれていた大量のリンゴを持ち運びます。
ふと赤ずきんが冷凍保管庫の方を向いて見ると、扉が開けっ放しであることに気が付きました。
そして赤ずきんは、以前赤ずきんのお婆ちゃんの家に行った際に、冷蔵庫の扉を開けっ放しにして注意された事を思い出しました。
赤ずきん「あ、駄目じゃない。冷蔵庫は開けっ放しにしたらいけないのよ。えーっと、これはどうやったら閉まるのかしら……」
赤ずきんは扉を調べ、先ほど少年が扉を開ける際に押した青色のボタンの他に、赤色のボタンを見つけます。
きっとこれが閉めるボタンなのだろうと、赤ずきんはその赤色のボタンを押しました。
途端、冷凍保管庫の扉はゆっくりと音を立てず閉まり始めます。
そして少年が、保管庫の扉が閉まっていく事に気付いたのは、既に扉が完全に閉まり切る直前の時でした。
少年「え、あれ? なんで扉が勝手に閉m
バタァン!
冷凍保管庫に続く扉は閉ざされ、氷点下の冷気は外部に漏れなくなりました。
赤ずきんはご満悦です。
その時、調理場の方から声が聞こえてきました。
白雪姫「赤ずきんさーん。どこですかー?」
赤ずきん「おっと、白雪姫が呼んでるわ」
また白雪姫を心配させてはいけないと思った赤ずきんは、リンゴがいっぱい入ったカゴを持って調理場へ向かいます。
赤ずきん「おまたせー白雪姫」
白雪姫「赤ずきんさん、どこ行っていたんですか? またいなくなったかと思って心配しましたよ」
赤ずきん「ちょっとそこまでリンゴを取りに。あの使用人の言っている事が本当なのか、これで試してみましょう」
白雪姫「そう言えば少年さんはどこへ?」
赤ずきん「彼なら保管庫へ食材を取りに行ったわ。まあそのうち戻ってくるでしょう」
*****
一方その頃。
少年「くそっ! この扉は外からしか開かないようになってるのに! おーい誰かぁ!! 誰かいませんかぁあああ!!?!」
少年は、氷点下の保管庫の中で必死に叫んでいました。
【少年、戦線離脱】
次回、第17話「赤ずきんちゃんはジュースを作る」。ご期待ください
おとぎの城の調理場は、国王やその親族にも出される料理を作る場だけあり非常に清潔で設備も充実していました。そして何よりも部屋がとても広いという事が、赤ずきんには衝撃的でした。ただ料理するだけの場所で、何故これほどのスペースが必要なのか。赤ずきんは不思議でたまりません。
赤ずきん「どう見てもここだけで私の家3個分はあるわ。こんなに広いなんて、"森のクマさん"でも解体するのかしら?」
少年「流石に熊はバラさないかと……。ていうか発想がサバイバル的過ぎる」
赤ずきん「まあ良いわ。早速リンゴをすり潰して、王子様に食べさせるのよ」
赤ずきんは黄金のリンゴを取り出します。王子様を生き返らせるに欠かせない、たった1つの生命線。無くさないように大事に大事に持ち歩いています。
赤ずきん「1つ言っておくわ。この黄金のリンゴは今1個だけしか持っていないの。だから絶対に粗末に扱わない事。良いわね?」
白雪姫「はい」
少年「かしこまりました」
赤ずきん「よし。じゃあ白雪姫、食器棚からお椀を持って来てくれるかしら? その上で私が素手でリンゴを握り潰すから」
少年「握り潰すッ!? 早速粗末に扱っているのですが!!」
赤ずきんは、王子様を生き返らせるに欠かせない生命線を掴み、力を込めます。
その腕はどう考えても少女の物。普通ならこんなに細い腕でリンゴが握り潰せるはずがありませんが…………、少年は先ほど見た赤ずきんの『寝相』の様を思い出します。部屋を崩壊させんばかりの暴れっぷり。ともすれば、リンゴを片手で握り潰す事も、彼女になら可能かもしれないと、少年は思いました。
少年「あの、赤ずきん様……。差し出がましいことを申し上げますが、リンゴを素手で潰すのは如何なものかと」
赤ずきん「ならどうするの?」
少年「そうですね……。このジューサーなどどうでしょうか」
少年が取り出したのは『電気ジューサー』でした。
初めて見る道具に、赤ずきんは興味深く見つめています。
赤ずきん「ジューサー?  何なのそれ?」
少年「ご存知ないのですか、これは野菜や果物をジュースにする道具です。材料を中に入れ、スイッチをオンにすれば動き出し、たちまち液状化致します」
赤ずきん「ハッハッハ! 何を訳のわからないことを言ってるの! ジュースっていうのは素手で握って作るものよ!」
少年「せめて何か道具をお使いくださいませ。電化製品が無くとも、絞る道具くらいはございますでしょうに」
百聞は一見にしかず。とにかく実際に動かして見せた方が早いと、少年は調理場の隣りにある食料庫に向かいます。この食料庫には、肉や野菜、魚、果ては缶詰など様々な食材が用意されており、どれも新鮮で味の良いものばかりです。
少年に続いて赤ずきんも食料庫に入ると、彼女はそのあまりに大量の食べ物達に圧倒されました。
赤ずきん「は〜〜〜っ、これ全部食料なの? ……どんだけ食いしん坊なの、このお城の人達」
少年「ははっ、流石にこの量を1度に食べ切れませんよ」
赤ずきん「ねえねえ。あの大きな扉の向こうには何があるの?」
少年「あそこは冷凍保管庫です。生の肉や魚などを入れておくために使います。中は氷点下の気温で保たれており、食材を常に新鮮な状態にしています」
赤ずきん「ほうほう、肉や魚か。…………そう言えば私、まだ朝食を食べていないのよね」
少年「あ」
この時になって少年は、自分が赤ずきんの朝食を用意していなかったことに気が付きました。
少年「も、申し訳ございません! すぐにご用意いたします!」
赤ずきん「良いって良いって。ていうかわざわざ用意してくれなくても私が自分で料理するわよ」
少年「そんな……! お客人にそのような手間をさせるわけには」
赤ずきん「私が料理したいの。こんなに沢山の食材で作るのは初めてだから、きっと凄いものが出来るわ。私はリンゴを調理場に持って行くから、貴方は保管庫から肉や魚を取ってきてちょうだい」
少年「……かしこまりました」
少年は、冷凍保管庫の横に備え付けてある青色のボタンを押すと、冷凍保管庫の大きな扉が音を立てずゆっくりと開きました。そして鳥肌が立つような冷気がヒュゥゥゥっと食料庫に流れてきて、赤ずきんの身体を包み込むようにして肌を撫でてきます。
少年「では、僕は使えそうな食材を集めますので、赤ずきん様は先に調理場にお戻りください」
赤ずきん「アイアイ!」
少年は保管庫に入り、赤ずきんは食料庫の棚に積まれていた大量のリンゴを持ち運びます。
ふと赤ずきんが冷凍保管庫の方を向いて見ると、扉が開けっ放しであることに気が付きました。
そして赤ずきんは、以前赤ずきんのお婆ちゃんの家に行った際に、冷蔵庫の扉を開けっ放しにして注意された事を思い出しました。
赤ずきん「あ、駄目じゃない。冷蔵庫は開けっ放しにしたらいけないのよ。えーっと、これはどうやったら閉まるのかしら……」
赤ずきんは扉を調べ、先ほど少年が扉を開ける際に押した青色のボタンの他に、赤色のボタンを見つけます。
きっとこれが閉めるボタンなのだろうと、赤ずきんはその赤色のボタンを押しました。
途端、冷凍保管庫の扉はゆっくりと音を立てず閉まり始めます。
そして少年が、保管庫の扉が閉まっていく事に気付いたのは、既に扉が完全に閉まり切る直前の時でした。
少年「え、あれ? なんで扉が勝手に閉m
バタァン!
冷凍保管庫に続く扉は閉ざされ、氷点下の冷気は外部に漏れなくなりました。
赤ずきんはご満悦です。
その時、調理場の方から声が聞こえてきました。
白雪姫「赤ずきんさーん。どこですかー?」
赤ずきん「おっと、白雪姫が呼んでるわ」
また白雪姫を心配させてはいけないと思った赤ずきんは、リンゴがいっぱい入ったカゴを持って調理場へ向かいます。
赤ずきん「おまたせー白雪姫」
白雪姫「赤ずきんさん、どこ行っていたんですか? またいなくなったかと思って心配しましたよ」
赤ずきん「ちょっとそこまでリンゴを取りに。あの使用人の言っている事が本当なのか、これで試してみましょう」
白雪姫「そう言えば少年さんはどこへ?」
赤ずきん「彼なら保管庫へ食材を取りに行ったわ。まあそのうち戻ってくるでしょう」
*****
一方その頃。
少年「くそっ! この扉は外からしか開かないようになってるのに! おーい誰かぁ!! 誰かいませんかぁあああ!!?!」
少年は、氷点下の保管庫の中で必死に叫んでいました。
【少年、戦線離脱】
次回、第17話「赤ずきんちゃんはジュースを作る」。ご期待ください
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