ああ、赤ずきんちゃん。

極大級マイソン

第14話「白雪姫の寝起き大作戦!スリー」

 赤ずきん「はぁーーーーーっ。いいお湯だなぁ〜」

 浴槽に浸かりながらのこの一言。赤ずきんは、目覚め直後の一風呂を堪能していました。
 自分のお家以外でのお風呂は初めてな赤ずきん。居心地の良いこの一時を噛み締めています。

 白雪姫「目は覚めてきましたか? 赤ずきんさん」
 赤ずきん「あ〜〜逆効果かも……。私、またなんか眠くなってきたみたい……」
 白雪姫「ふふっ、本当にしょうがないですねぇ。赤ずきんさんは♪」

 赤ずきんと同じ浴槽に浸かる白雪姫も、またご満悦でした。赤ずきんに寄り添ってニコニコ微笑んでいます。

 白雪姫(はぁっ私、今とても幸福なんですね……。大好きな人とお風呂に浸かって、寄り添い合って、こんな時間がいつまで続けば良いのに……)
 赤ずきん「ねえ白雪姫。貴女って好きな人いる?」
 白雪姫「ブヒャホォッ!!」
 赤ずきん「わわっ、どうしたの!? 白雪姫らしからぬ変な鳴き声が出たわよ!」

 口から変な物が出掛かった白雪姫は、懸命にそれを押し留めます。
 ようやくそれを押し留めた後も、少女の心臓は早鐘のように鳴り続けています。頬が紅潮しているのは、お風呂の熱気だけが理由ではないでしょう。

 白雪姫「ど、どうして、そんな話を?」
 赤ずきん「えっと、白雪姫と『ガールズ・トーク』しようと思って……。ほら、折角だから女の子同士でしかできない事を語り合うのも悪くないかなって」
 白雪姫「が、ガールズ・トークですか。なるほど……」

 白雪姫は未だに激しく鼓動する心臓を抑えながら、コホンと咳払いをします。

 白雪姫「わ、私は、特に…………。あ、赤ずきんさんは、どうなんですか?」
 赤ずきん「いや〜自分で話を振ってなんだけど、全然そういうの無いわね〜。だって私の知ってる男の人って、ロクデモナイ人ばかりだし」
 白雪姫「お、女の人は?」
 赤ずきん「え、女の人? ていうかそもそも、私の知り合いの女の人って、ママとお婆ちゃんを除いたら、白雪姫とグレーテルくらいしかいないし。白雪姫は言うまでもなく一番の友達だし、グレーテルは目付きが悪いし話し方はガサツだしヘンゼルとまあまあ酷い事するけど、特に嫌悪するほどでは無いわね」
 白雪姫(結構、グレーテルさんの評価が酷い……)
 赤ずきん「だからそうね……。家族を抜きに考えるなら、私が一番好きなのは白雪姫になるわね」
 白雪姫「!!」


【悲報】白雪姫、大好きな人に勘違いしそうで心臓がヤバい


 心なしか息が荒くなっている白雪姫。肌と肌が触れ合いお互い裸。何がとは言いませんが、色々間違いが起こりそうです。
 しかし一方で、赤ずきんは若干ブルーになっていました。

 赤ずきん「あーあ、我ながら知り合いが少ないわねぇ私。森の中で暮らしって、何が一番嫌って話し相手がいない事なのよ。知ってる? 白雪姫が森に来る前の私の話し相手。家族とオオカミさんを除いたら『小石』とか『壁』とか『川のせせらぎ』とかだったのよ。心病むわよ本当」

 そう言われて、白雪姫は少し考えます。
 自分の知らない赤ずきんの事。
 おとぎの森でずっと暮らしてきた、赤ずきんの過去の事を。

 白雪姫「……赤ずきんさんは、ずっとあの森で過ごしてきたんですよね?」
 赤ずきん「そうよ。生まれも、育ちも、おとぎの森」
 白雪姫「どうして赤ずきんさん、赤ずきんさん達の家族は、おとぎの森でずっと暮らしているんですか?」

 それは、白雪姫がずっと気になっていた事でした。
 おとぎの森。そこは、誰もが近づこうとしない『危険地帯』と、国中で噂される森でした。
 獰猛な野生動物、日の光も遮る鬱蒼とした木々、無法者の溜まり場。
 おとぎの森とは、親が子供を諭すために語られるような、そんな場所だったのです。『悪さをすると、おとぎの森に連れて行くぞ〜』といった風に聞かされ、子供達は怖がり親の教えに従いました。
 それなら何故、赤ずきん達家族は、おとぎの森で暮らしているのか?
 白雪姫に質問された赤ずきんは、「ふむ」と呟いてから、お湯に浸かり直します。

 赤ずきん「…………私が生まれるずーっとずーっと昔。おとぎの森は、今の動物達がバウバウ吠えている微笑ましい森とは考えられないくらいに怖い場所だったそうよ。森では凶暴な獣が食物連鎖の中で喰らい喰らわれ、強い者が弱い者を虐げる事がまかり通るようなそんな森」

 それは今も変わらないのでは?
 そんなツッコミは後回しにして、白雪姫は赤ずきんの話を聞きます。

 赤ずきん「そんな弱肉強食の森で、一番力が強く、勢力を上げていた動物達がいたわ。『狼』達よ。彼らはおとぎの森にいる全ての動物達を支配し、逆らう者には誰1匹として容赦しなかった。そして、森を完全に支配した狼達は、次なる標的に目を移した。……『人間』の世界よ」
 白雪姫「…………!」
 赤ずきん「狼は群れを成し、女子供容赦なく食い殺して蹂躙した。反発する者は自分達の力でなぎ倒し、結果、幾つもの村が滅んでいった」

 聞いたこともないお話でした。
 しかし昔話を語る赤ずきんの表情は真剣でした。まるで、幾度となく同じ話を聞かされてきたような、慣れた口調で話すのです。

 赤ずきん「……そんな時、狼を退治するために身を鍛えた、寡黙な武闘家が現れたわ。その武闘家は自ら編み出した武術、『餓狼拳法』を奮って狼を次々と蹴散らしていった。そして遂に、狼の長を倒し、人間の世界に平和が訪れたの」
 白雪姫「……………………」
 赤ずきん「武闘家は、狼達が2度と人間の世界で悪さをしないように、自らがおとぎの森に行き、狼達を諌めていった。やがて武闘家は子供を作り、餓狼拳法を自分の子供に伝授していった。自分がいなくなっても、狼達が悪さをしないようにするためにね」
 白雪姫「……………………」
 赤ずきん「まあつまり、その武闘家の祖先が私であり、パパやママが餓狼拳法の使い手達って訳。だから、パパもママも教えに従って、おとぎの森で狼達を諌めているわ」
 白雪姫「……………………」

 珍妙な拳法を使う赤ずきん家族が、何故おとぎの森で暮らしていたのか。その成り行きは、遠い遠い過去から継がれてきた【掟】からでした。
 話を聞いた白雪姫は、赤ずきんの両親、祖父母を思い浮かべます。先祖代々、狼の暴走を抑えてきた一族。だとすれば……。

 白雪姫「……赤ずきんさんも?」
 赤ずきん「私は、まだ餓狼拳法を教えてもらってないから。まあ、暇を持て余していたから、お爺ちゃんやお婆ちゃんが稽古しているのを真似して我流で覚えたのはあるけど。『スパーキングボディプレス』とか」
 白雪姫「あのジャンプして相手に『のしかかる』技ですね」
 赤ずきん「あれは我流で編み出した、『のしかかる』だけの技だけどね。初めて技をお爺ちゃんに披露した時は、たくさん褒めてもらったわ。『1000年に1人の天才だぁぁぁ!!』って叫んで」
 白雪姫「お爺さん、赤ずきんさんが大好きですからね」
 赤ずきん「そんなこんながあって、私の一族はおとぎの森でずーっと暮らしていて、私もずーっと森で暮らしてるって訳。いつ狼達が暴れないとも限らないから、気軽に外出も出来ないのよ」
 白雪姫「でも赤ずきんさん、オオカミさんとは仲良しなんですよね?」
 赤ずきん「今はね。あのオオカミさんも、昔はぶいぶい言わせていた頃があったのよ。あれでも狼達の元族長だし」
 白雪姫「そうなんですか!? 初めて知りました……」
 赤ずきん「結婚して、子供も生まれて、昔では考えられないくらい丸くなったわ。オオカミさん、元々人間に嫌悪感は抱いてなかったから偶に私との話し相手にはなってくれてたの。白雪姫が来る前まではね」
 白雪姫「なるほど。……………………?」

 その時、白雪姫は何か違和感を感じました。
 しかし、その違和感がどういうものなのかをはっきりと言葉にできず、そのまま口を噤んでしまいます。

 赤ずきん「どうしたの?」
 白雪姫「い、いえ、何でも……。そ、そうだ。十分温まりましたし、そろそろ身体を洗いましょうか! 」
 赤ずきん「そうしましょう。誰から先に洗う?」
 白雪姫「じゃあ、お先に良いですか?」
 赤ずきん「オk」

 白雪姫はお湯から上がります。彼女の雪のように白い肌はほんのり熱を帯び、歳に似つかわしくない艶っぽさが露わになりました。
 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。
 お風呂椅子に座り、長い黒髪を解くその姿は、まさに【解語の花】です。
 そして白雪姫に続いて、赤ずきんも浴槽から上がります。赤ずきんは何故か白雪姫の背後に回りました。

 白雪姫「えっと、赤ずきんさん?」
 赤ずきん「ふふ〜ん、折角だから私が白雪姫を洗ってあげる。代わりばんこで洗いっこしましょう!」
 白雪姫「あ、その、私は……」
 赤ずきん「あれ? よく見たらお風呂場に変な物があるわね。……このロープみたいなのは何かしら?」
 白雪姫「それはシャワーです。そこに取り付いてあるハンドルを回せばお湯が出ます」
 赤ずきん「ハンドル? これかしら」

 赤ずきんは目に付いた蛇口ハンドルを躊躇なく回します。
 その途端、シャワー口から大量のお湯が白雪姫目掛けて噴出しました。

 白雪姫「ちょっ! 待っ!! あk、赤ずきんさん!! お湯が、出過ぎで!!!!」
 赤ずきん「あ、ごめんなさい。えーっと、このお湯はどうやったら止まるのかしら……」

 シャワーを初めて見た赤ずきんは、お湯の止め方がわからずハンドルを闇雲に回します。
 結果、よりハンドルを回した事で先程よりも強い勢いでお湯が出てきました。

 白雪姫「あ、赤ずきんさん逆!! そっち、回しちゃ駄目…………! ……………………ッ!!」
 赤ずきん「おーっ滝みたい。なるほど、こうやって使う道具なのね。お家で出来る滝修行の道具か。お爺さんとお婆ちゃんも滝に打たれに森の奥に行くけど、これがあると遠出しなくても済んで便利だわ」

 盛大にシャワーの使い方を勘違いしている赤ずきんの側で、盛大にお湯に打たれている白雪姫は、余りの量に声を出すことも出来ません。
 そして赤ずきんは、自分も興味本位でシャワーの雨に当たろうと白雪姫に抱きつきました。

 赤ずきん「おーおー! これは凄い滝の嵐だ! 流石は都会の物は進んでるわねー!」
 白雪姫「…………! ……!? ………………ッ、……………………!!」

 白雪姫の言葉は赤ずきんに届いていません。というより、本人は最早意識が曖昧になっていました。

 白雪姫(……あれ? 何だろう、凄く暖かい。……赤ずきんさん? 赤ずきんさんが、裸で私の後ろに…………、なるほど。これは、夢ですね。だとすればなんて幸せな夢でしょう。ああっ、このまま夢から覚めなければ良いのに……)
 赤ずきん「おや? 白雪姫の意識が遠く……。おーい白雪姫、寝ちゃ駄目だよー?」
 白雪姫(暖かい……。何だか眠くなってきました…………)
 赤ずきん「お風呂で寝たら風邪引いちゃうんだよー? 白雪姫ー」

 赤ずきんの呼び掛けも通じず、白雪姫の目蓋がどんどん閉じていきます。
 その様はまるで、泡となって消える人魚のようでした。
 薄れゆく意識の中、白雪姫が見たものは、いつまでも側に居たい、大好きな人の顔でした。

 白雪姫(ああ、…………赤ずきんさん。このまま一緒に……………………)
 赤ずきん「…………もしかして白雪姫、溺れてる? 大変! 早く滝から出して『人口呼吸』しないとっ!」
 白雪姫「人口呼吸!!?!」
 赤ずきん「わわっ、白雪姫! 目が覚めたのね!?」
 白雪姫「あ…………………………」

 滝のシャワーから無事復帰した白雪姫。喜びの声を上げる赤ずきんの前でポカンとする少女はその後、ガックリと1人膝を着きました。

 赤ずきん「白雪姫?」
 白雪姫「何で…………私は、あのまま溺れなかったんでしょう………………」
 赤ずきん「そりゃその方が良いからでしょう」
 白雪姫「赤ずきんさんの……人口呼吸が…………」
 赤ずきん「?」

 膝と両手をタイル張りの床に着ける白雪姫。
 見るからに落ち込んでいる彼女を心配したのか、赤ずきんは白雪姫の側に寄り添い、抱きしめます。

 赤ずきん「元気出して。何で落ち込んでるのかわからないけど、困った事があったら私が助けてあげるから!」
 白雪姫「赤ずきんさん……」
 赤ずきん「だから泣かないで?」

 白雪姫が顔を上げると、優しく微笑む赤ずきんの姿がありました。
 それがまるで慈愛の女神様のように見えた白雪姫は、遂に『ナニカ』が決壊しました。

 白雪姫「赤ずきんさん……、あかずきんさぁあああああああああああああん!!!!」
 赤ずきん「うわぁ!」

 白雪姫が赤ずきんを押し倒します。2人のプルプルの柔肌が擦り擦られくっつき合い、それがお風呂場という狭い閉ざされた空間で織り成されるのです。
 そして、白雪姫はタガが外れたように激しく息を上下させ、赤ずきんを獲物を狙う獣のように見定めています。

 赤ずきん「し、白雪姫? 何か目が怖いんだけど……、狂犬病?」
 白雪姫「あ、赤ずきんさんが悪いんですよっ!? いつもいつも私の心を弄んで…………! 今日という今日はもう我慢出来ません!!」
 赤ずきん「弄んでないよ!? 何が我慢出来ないの!? えっ、あのちょっと、白雪姫? 待っ、あぁああああああああああっっ!!?!」

 乙女の悲鳴が響き渡り、お風呂場は狂気と百合の波動に包まれていきました。

 …………こうして、赤ずきんと白雪姫は、また少しだけ仲良くなりましたとさ。
 めでたしめでたし。
 次回、第15話「白雪姫の寝起き大作戦!フォー」。ご期待ください。

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