ああ、赤ずきんちゃん。

極大級マイソン

第12話「白雪姫の寝起き大作戦!」

 白雪姫は少年に連れられ、客室があるフロアまでやって来ました。廊下には左右にいくつもの扉が設置されており、招き入れた客人に不満がないように、どの部屋にも簡素ながらも落ち着いた雰囲気の内装が施されています。
 そして少年は、その内の一室の前で立ち止まりました。

 少年「この部屋が、赤ずきん様が宿泊されている部屋です」
 白雪姫「この中に赤ずきんさんが……」

 少年は、扉をノックします。
 しかし、返事はありません。どうやらまだ眠っているようです。

 少年「おや? 鍵が開いている……。閉め忘れたのでしょうか?」
 白雪姫「そうかもしれません。赤ずきんさん、"森の中で空き巣なんて入らない"と言ってお家の鍵もかけませんから」
 少年「なるほど。……そうですね、では扉を開けて中へ入ってみましょうか。お客人に断りなく部屋へ入る事は本来タブーですが、万が一赤ずきん様に危険がないとも限りませんからね」
 白雪姫「はい! 赤ずきんさんに何かあったら一大事です!」

 白雪姫は非常に真剣な表情で頷きます。

 少年「ははっ。まあそんな一大事が、この城内で起こるなんて事は絶対にないでしょうがね! ……では、扉を開きます」



 *****



 少年「うわああああああああああああああああああああ!!!!」

 赤ずきんが宿泊する客室。その中央の床に1人の男性が倒れていました。
 その人物の名は、『王子』。おとぎの国を治める国王の息子でした。

 少年「し、ししししし死んでる!? じじじ事件ですよ姫様!!?!」
 白雪姫「赤ずきんさん!!」
 少年「あれ、まさかのスルー!?」

 白雪姫は、客室のベッドで眠る赤ずきんの元へ駆けつけました。

 白雪姫「赤ずきんさん!! 私です! 白雪姫です!!」
 赤ずきん「う〜〜んっ、ムニャムニャ…………」

 しかし、赤ずきんは目覚めません。白雪姫がどれだけ声を掛けても揺さぶっても、少女はスヤスヤと眠りについています。

 白雪姫「うううっ、駄目です。赤ずきんさん、一度眠るとなかなか起きないから。私じゃどうやっても……」
 少年「あの、それよりも王子様が倒れt
 白雪姫「ああっ!! よく見たら赤ずきんさん、服が乱れて大変な事にッ!! ししし少年さん!! こっち見ないでください!!」
 少年「畏まりました!!」

 半裸の少女から背を向ける、紳士的な少年が1人。

 少年「ハッ!! そんな場合じゃなかった! 姫様大変です! 王子様が、兄上殿が死んでいます!!」
 白雪姫「問題ありません」
 少年「!?」
 白雪姫「お兄様は死んだふりをしているだけですよ。よくある事です」
 少年「そうなのですか!?」
 白雪姫「はい。お兄様はイタズラが大好きですから」

 白雪姫はそう言いますが、王子の顔の生気はありません。
 少年が脈と心臓の音を確認します。
 脈も心臓も停まってました。

 少年「いや死んでますよこれ!! これかなり死んでますよ姫様!!」
 白雪姫「…………まあ、もし本当にそうであるのなら、それは仕方のないことかもしれませんね」
 少年(あれ? もしかして姫様にとっての王子様の評価って低い?)
 白雪姫「それよりも赤ずきんさんです! ああ、早くお話ししたいのにどうすれば目覚めるのでしょう……」

 白雪姫と王子の関係性に愕然とする少年の側で、白雪姫が思考を凝らします。
 そして、白雪姫はハッと思いつきました。

 白雪姫「そうだ! 以前、赤ずきんさんのお母様が、赤ずきんさんを起こす際に使ったあの方法! アレならきっと、赤ずきんさんを目覚めさせる事が出来るはずです!)
 少年「…………はぁっ。その方法とは?」
 白雪姫「窓から投げ捨てます」
 少年(……………………ナニ言ってんのこの娘?)

 仮にも自分が仕えるお姫様。彼女が放ったその非常識な発言には、流石の少年も耳を疑いました。

 白雪姫「先日、なかなか目覚めない赤ずきんさんに痺れを切らした、赤ずきんさんのお母様が、眠っている状態にも関わらず服を掴んで外へ投げ飛ばし、赤ずきんさんを起こしたんです。アレを私達で再現出来れば……!」
 少年「あの、姫様? ひょっとしておとぎの森での生活で、悪い影響を受けてしまったのですか?」
 白雪姫「……今、赤ずきんさんの事を悪く言いましたか?(ハイライトOFF)」
 少年「言っておりません!! いや、本当に言っておりません!!」

『この姫様やべええええええええええええっっ!!!!』と、少年は軽く殺気を放ってきた白雪姫に恐怖を抱きます。
『チョットチョット!! 聞いてた話と違うんですけど!? 清楚で可憐なお姫様だって言ってたじゃないですかあああああああああ!!!!』と、少年は心の中で誰に言うでもなく絶叫を放ちますが、しかしその想いは届きません。

 白雪姫「……前に、赤ずきんさんが仰っていました。『思いついたらレッツチャレンジ!』と」
 少年「そのチャレンジする内容が"少女を窓から投げ捨てる"なのは絶対に間違っていると思われますが!?」
 白雪姫「少年さん! 赤ずきんさんを運びますから手伝ってください! 今、赤ずきんさんを着直しますから」
 少年「ええっ! 本当にやるのですか!?」

 赤ずきんの乱れた服装を直し、白雪姫と少年は眠りの少女の身体を持ち上げようとします。

 少年「……………………重いですね」
 白雪姫「少年さん。赤ずきんさんに"重い"は、禁句です。気にしていますから」
 少年「しかし、これはどう頑張っても無理ですよ。どれだけ力を込めてもビクともしません」
 白雪姫「困りました……」
 少年「諦めて自然に起きるのを待ちましょう。幸い、急ぎの用がある訳でもありまs


 ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!


 少年が白雪姫を諭そうとしたその瞬間、轟音が響き渡りました。
 突然、眠っていたはずの赤ずきんの拳が振るわれ、少年の顔面に向かって渾身の一撃が放たれたのです。

 少年「あっぶねぇ!!?!」

 寸前のところで拳を回避した少年。走馬灯を見たような顔で額に汗を浮かべます。
 そんな中、白雪姫がその現象を冷静に解説します。

 白雪姫「赤ずきんさんは、寝ている時に周辺にいる人を殴る癖があるんです。その威力は"森のクマさん"さえも一撃で倒せるとか」
 少年「どんな寝相ですかソレは!! ていうか白雪姫は大丈夫なのですか!?」
 白雪姫「私は大丈夫です。赤ずきんさんのお母様も、グレーテルさんも大丈夫のようでしたからおそらく、『男性』に対して無作為に行われるのだと推測されます」
 少年「限定的!」

 そんな事を話している間にも、赤ずきんの拳が飛びます。もはや一種の災害とも呼べる連打の嵐を、少年は身を低くしてやり過ごすしか出来ません。

 白雪姫「早く! 赤ずきんさんを起こさないと、最悪この部屋が崩壊してしまいます!」
 少年「嘘でしょッ!? ああもう! わかりましたよやってやりますよ! これでも僕は力持ちなんです! こんな女の子、余裕で持ち上げますよ!!」

 少年はそう宣言し、荒れ狂う赤ずきんへ恐る恐る近づくと、異常に重い少女の身体を持ち上げました。

 白雪姫「わっ、凄い!」
 少年「うぉおおおおおおおおおおっ!! こんなモノををををッ、こうだぁあああああああああああ!!!!」

 ポーーーーーーーイ。
 赤ずきんの身体が宙を踊り、くるくると回転しながら窓の外へ放り出されます。
 そして、


 ドシィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!


 部屋の外で、大岩でも落下したかのような音が響きました。

 赤ずきん「痛っったああああああああああああああああい!!!! もうっ、ママ!! 寝ている時に外へ投げないでって言ってるじゃないもおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 大きな音が聞こえた直後、少女の不機嫌な声がしました。
 白雪姫が下を覗き込むと、そこには荒れ狂う赤ずきんが立っていました。

 赤ずきん「ああああああああああああ巨大リンゴ食べ損ねたあああああああああああああああああ!!!!!!!!  私の1000000個ある夢の1つが叶え損なったあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 少女の絶叫は、まるで鬼の産声のように悲痛と怒りに塗れており、それだけで世界を滅ぼすのではないかと言えるほどの『破壊力』を秘めていました。
 次回、第13話「白雪姫の寝起き大作戦!ツー」。ご期待ください。

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